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K-POPのオートポイエーシス:CLC「Devil」の不気味さ

K-POPガールズグループ・CLC(シエルシ)が、ニューシングル「Devil」をリリースしました。

キュート系の元祖アイドルコンセプトでデビューするも、いまいち伸びなかったCLC。2017年の「Hobgoblin」ではガツンとテコ入れし、オラオラ系ガールクラッシュで怒涛の存在感を示す。続く「Where are you?」で「やっぱり清純派を……」と血迷うも、その後目を覚まし、「BLACK DRESS」「No」「ME(美)」と、着実にグループイメージを固めていく。

そんなCLCの新曲「Devil」ですが、MVを見て、これまでぼんやりと抱いていた仮説が確信に変わりました。それは、K-POPにおけるトラック、MV、コンセプト、あるいはメンバーの見た目や性格までもが、ある種の自己言及的なシステムにおいて、サンプリング、コラージュ、リサイクルを繰り返しており、もはや外部を参照していない、という説です。

K-POPがパクリだパクリだ言われていたのは遥か昔のこと。いまやアリアナ・グランデがK-POPを”パクる”時代なのです。単一性、創造性、不可侵性などというのはもはや気の利いた概念ではなく、大きなシステムの中で、ひたすらセルフパクリが循環している。それが今日のK-POPなのではないか。

実際、この種の事例は「Devil」以外にも山程ある。EVERGLOWの新曲「Adios」は明らかにBLACKPINK「Kill This Love」を意識したミリタリー系ガールクラッシュだったし、WJSNの新曲「Boogie Up」は先立って解散を発表したPRISTINのポップさを引き継ぐようなサマーディスコだった。K-POPレーベルの戦略部は、明らかに互いの動向を意識しており、特定のコンセプトがウケるとたちまち後追いが被さる。

このようなあり方についての価値判断は、本稿の主要な目的ではない。Vaporwaveは、それが「◯◯を表象したVaporwave」であることをやめ、「Vaporwaveを表象したVaporwave」となったとき、「死んだ(dead)」と言われた。K-POPはとっくに死んでおり、這いずりまわるだけのゾンビなのか? ゾンビでなにがわるいのか? このような問いは依然としてオープンである。


さて、本稿は「K-POPのオートポイエーシス:CLC「Devil」の不気味さ」と題して、K-POPの自己言及的システムの一端を見ていきたい。僕は、そこで反復されているイメージ群を指して「クリシェ」というのが好きだが、ここにも批判的な含みはない。本稿もまた、「クリシェを擁護する」試みの一つなのだ。

なぜ「不気味」なのか。それは、「Devil」がこのようなオートポイエーシスが生んだ一つのシミュレーションに過ぎないのか、あるいはこのようなシステムに対する批判的な視点を持ったパロディなのか、僕には全然わからないからだ。これはちょうど、悪意あるVapormemeがたんにVaporwaveの一つとされるような現象だ。


以下、いくつか注意書き。

「ある種のイメージに関して、その厳密な起源を突き止める」ことは、この場合、全くもってナンセンスである。よって、本稿は「Devil」に出てくるイメージについて、筆者の観測範囲にある材料だけを用いて論じる。もちろん、「もうちょい古い例として、ここにも同じイメージが現れてますよ」というのがあれば、ぜひツイートなどで教えてください。個人的に気になります。

本稿は論文ではないので、「K-POP」の外延設定、「オートポイエーシス」を始めとする用語の定義など、厳密な議論に求められる下準備は一切やりません。そもそもオートポイエーシスがなんなのか、僕には皆目分かりません。レポートの参照文献などで本稿を引くと、教授に怒られると思ってください。

とはいえ律儀なので、シーン分析の書き下しはやりました。最後に載せているので、奇特な方はご確認ください。


クリシェ①メンバー同士でいたずら

本作がかなり似ているとされるのが、Red Velvet「Russian Roulette」

ミニマルな部屋で、お互いをいじめあうメンバー。こちらはもう少し装飾的ですが、「Devil」の方はより一層ペラペラな印象です。低予算なのか?


クリシェ②部屋、家具、小物はだいたい単色

こちらも「Russian Roulette」に関連して、MVに出てくるものは単色がちです。例は無限にあるんですが、EXID「UP&DOWN」MAMAMOO「Yes I am」など。


クリシェ③メンバー全員でテーブルを囲む

娘複数人が集まっているのを、ロングショットから捉えられるシーンって、まぁ、ぱっと思いつくのはやっぱり食卓ですよね。

とはいえ、ベタに食事をしていることは少ない。Apinkはテーブルを囲んで意味不明な儀式をしていた。(3:35-)

最近の変奏としては、「テーブルの下に集合」というのをやったRed Velvet「Umpah Umpah」(1:46-)。


クリシェ④トイレでなんかしてる

我々男子には知るよしもないですが、女子トイレというのは青春からいがみ合いまで様々なドラマが行き交う場所なのでしょう。

トイレで鏡見ている、といえば元PRISTINナヨン。「ぱん!」と言いながら割り込んでくるギークなナヨンが印象的です。(0:27-)

イケてるガールズが鏡の前に集合、というのであれば、コラボ曲「Wow Thing」など(1:10-)。男子トイレでも「髪のワックス直しているサッカー部が鏡の前を陣取っていて、手が洗えない」みたいなことよくありますよね。

一方そのころ、EXIDハニはトイレで酔いつぶれ(0:21-)、MAMAMOOファサはトイレでスマホ壊して萎えてました(0:59-)。


クリシェ⑤シリアル、投げる

カラフルなリング状のシリアルは、K-POPのMVで人気の小物です。

シリアル投げの代表としては、BLACKPINKリサ。(0:33-)

(キャンディーな気もするが……?)

やはり、ガールクラッシュとしては、シリアルのひとつぐらい投げなきゃ駄目なのでしょうか。気軽にやんちゃなキャラクターを演出できるので、ラッパーがやりがちなイメージです。ややお行儀が悪いので、TWICEみたいなキッズ人気が大事なグループはあまりやらない印象。

fromis_9ジホンはニンニク?とうもろこし?を投げつけるという、トリッキーなアレンジを見せています。(1:54-)


クリシェ⑥とにかく燃やせ!

K-POPボーイズグループのMVといえば、「とにかく車を燃やしとけばOK」というのは有名な話。ガールズグループの方でも、火はよく使われる小道具の一つです。

もちろん、BLACKPINKなんかはめっちゃ燃やしています。

マッチで着火、というのはfromis_9「LOVE BOMB」っぽい。

(G)I-DLEスヨンはマイクを燃やしていました(1:37-)。カッコよければOK、実用性は気にするな。


クリシェ⑦危なっかしいダーツゲーム

ダーツに限らなければ、「かろうじて顔スレスレ」という演出は、たとえばRed Velvet「Peek-A-Boo」(1:34-)。手オノとボウガンなので、ダーツよりさらに物騒だ。


クリシェ⑧ケーキはとりあえず台無しにする

せっかくのケーキですが、ぶっ潰してナンボです。ソースの類はかけられるだけかけましょう。

Red Velvet「#Cookie Jar」は、あとからケーキたちが偽物だと気づき、めちゃくちゃに潰します(3:08-)。

SUNMI姉さんのバースデーケーキは、火力がおかしい(0:10-)。


クリシェ⑨ガールズギャング

シリアル投げじゃ物足りないなら、武装するのが手っ取り早いです。CLCでも「Hobgoblin」でギャング風の姿が見られます。あちこちで見られるコンセプトですが、そのほか代表的なものとしてはEXID「HOT PINK」Red Velvet「Bad Boy」あたりでしょうか。


✂ 総括

「キモい人形」「ピンクのウィッグ」など、ほかにも取り上げたいイメージがありましたが、気持ち的にお腹いっぱいなので止めます。

上で取り上げたのは、おおむねMVのフィクションパートに出てくるクリシェたちだ。この他、歌パートダンスパートのクリシェを言い出したら、いよいよ収拾がつかなくなるだろう。(典型的なカメラワーク、など)


繰り返し強調するように、本稿が指摘してきたのは氷山の一角でしかない。K-POPの自己言及的システムは、必ずしも「末端のグループ➡権威的なグループ」という眼差しだけではなく、その逆方向を含めた相互参照性のうちに成り立っている。複雑なリファレンスのネットワークは、到底捉えきれるようなものじゃない。

次は、CLC「Devil」サンプリング元とした作品が現れることだろう。このような循環のなかで、ソースは行方不明になり、K-POPとしか言いようのないK-POPがどこまでも広がっていく。

それにしてもVaporwaveといいK-POPといい、僕が面白がるカルチャーはどれも似たもの同士だ。居心地のよい空虚さとでも言おうか。

マクロな視点での批評については、今後にご期待ください。今日はこの辺で。



以下は、ちょっと前に書いたRed Velvet論です。合わせてどうぞ。


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