2024年アカデミー賞映画『オッペンハイマー』レビュー 「原爆・戦争は悲惨なものなので、できるだけそういうの流さないようにしよう」っていう風潮はもう死んだと思う。
小学校教員3年目のタオルケットおばけ先生です。
X(旧Twitter)では「おばけ先生」などの愛称でたくさんのフォロワーの方にポストを見ていただいています。
このたびnoteをはじめることにしました。Xとは異なり、「ボケない場所」として、面白さにも文字数にも捉われることなくさまざまなテーマでお届けしていきたいと思っています。
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もう観ましたか?『オッペンハイマー』
実はわたしかなりの映画好きで。そこまで詳しくはないものの、趣味の範囲で多忙な教員という仕事の合間を隙間なく縫っては配信や劇場で映画を観ています。
学生時代は年間100本ほど観ており、わたしの生活、いや人生に映画は欠かせないものになっています。
そんなわたしがnoteで初映画レビューを書きたいと思います。選んだ作品はクリストファー・ノーラン監督の最新作『オッペンハイマー』。ネタバレありでお送りします。いよいよU-nextでは、9月25日(水)より配信スタートということで、劇場公開を見逃してしまった方には朗報なのではないでしょうか。
また、本作の感想は映画レビューサイト「filmarks」の方にも投稿しており、自分の投稿の中で最もいいねが多いのが『オッペンハイマー』でした。そちらの投稿を少し編集して書かせていただきます。
「もう死んだ価値観」という第一の感想
鑑賞後感じた第一の印象はこれでした。
『オッペンハイマー』を通して、悲惨な歴史を史実(出来事)レベルではなく人間レベルで捉えることの必要性。日本人として受けてきた歴史教育やメディアでとりあげられる”原爆の歴史”はいずれも当事者(被害者)としてのフィルターがかかったものでしかないと認識すること。
ロシアとウクライナのこともあってこの時代久しぶりに戦争が身近な話題になった今だからこそ、この映画の価値というか、この映画が存在し、評価されるべき意味を見出すことができたような。
あの戦争のあの原爆投下に関わることになったある「人」の歴史から「あの出来事」を改めて見つめることができた。それはこれまでわたしが数少ない「長崎・広島の原爆投下について考えた」ことのなかで最もニュートラルな体験だったと思います。
そして公開時少し話題になりましたが、『オッペンハイマー』という作品で、アメリカないしアメリカ人が日本への原爆投下をどう思っているのかみたいな、そういう議論やレビューをするのはものすごくナンセンスだと個人的に思います。アウト・オブ・ザ・ポイントすぎる。
あの演技も演出も、”研究者という立場で一連に関わり見届けた”のであって、アメリカ人全員を表現したわけではない。主演キリアン・マーフィーの表情の作り込みは圧巻でしたね。言葉を超えた演技で伝わった、あの感情の流れは、「一科学者」としてものすごく自然だったと思います。
以下作品自体の魅力について、ポイントだなと思ったことをまとめていきます。
①引用がきいている
クリストファー・ノーランのような巨匠にこんなことをあげるのは失礼というのは十分わかっているけれど、洋画の「基本のき」でありながらやはり大事なんだなと思わせてくれました。
という引用から始まるこの映画。プロメテウスは結局、生きたまま拘束されて内臓をちょっとずつえぐられる刑的なものを受けながら死んでいくみたいなオチなのですが、これを冒頭刺してくる時点で、オッペンハイマーについてゼロ知識でも、プロメテウスが彼のメタファーであり彼の生涯ないしこの3時間もある映画の流れをおおよそ把握して安心して鑑賞することができるのです。聖書とギリシャ神話は洋画ファンなら読んどけみたいなこと聞いたことあるけれど、いろんな映画をみてきて、やはり間違ってはいないと。
②エンタメ性の高さ
ノーラン監督の「らしさ」が十分に溢れていて本当に、見事としか言いようがなかったです。
「過去」「回想」「真相」の3つの時間軸が交差しながらすすんでいくカオス感は完全に『メメント』と一致。
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時系列が複雑にシャッフルされているのでこちらもよくわからなくなってくるし、人によってはいわゆる「もやもやした感」があると思います。だけれど、ノーラン作品以外にも、これまで様々な映画に触れるたび、「もやもやした感」は決してその作品の不出来ということにはつながらないし、むしろそれが意図や演出の場合もあるんだということに気づくようになりました。
もちろん「すっきり」の構成で作った方が”正解”の作品もありますが、本作品に関しては消化不良パターンで”正解”かと。
また、爆発や原爆投下の緊張感を音楽で表現する感じは『ダンケルク』を思い出します。
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映像も「おっ、いいね!」と思わせてくれたけれどギリ私の範疇。とにかく音がすごかったです。正直緊張の演出はできすぎていて何回か吐きそうになったくらい(笑)。劇場で鑑賞できたことに感謝です。
作品の構成としての「もやもや感」のような消化不良も、もはや体調不良の緊張感も、映画体験としてかなり貴重なものだと思うので、アカデミー賞作品賞も納得!
おそらくノーラン監督が作る映画は「大クセじゃぁ!」の部類に入ると思うのですが、今回も期待を裏切らないクセじゃ。昨今まるでテレビドラマのような映画も増えつつある中で徹底的に映画を芸術、自己表現の作品ととらえ作り込む巨匠クリストファー・ノーランのエンタメ性の高さには脱帽です。
③毒リンゴから考えられる多様なメタファー
誰がみても印象に残ったであろう、リンゴに青酸カリをかけたシーン。ここは絶対に本作をレビューしたり考察したりする上で外してはいけないところだと思います。特に文学においてリンゴは「愛」とか「知恵」「禁断」のメタファーとしてテッパンです。
(ⅰ) リンゴ=「愛」
この物語は、愛する者を、というと大袈裟ですが少なくとも、リスペクトする者を、越えるために殺していく要素がいくつかあります。全員が誰かをリスペクトしていながらコンプレックスを抱え、それを越えるために裏切りやいろんな方法で「殺し」ていく。つまり誰もが毒リンゴを隠し持っている状態で、なんかその虚しさもいいなと思いました。
(ⅱ)リンゴ=「物理学」
ぶっちゃけわたしが最初に思ったのはこっちで。ニュートンのりんごの木、とか言われる万有引力発見の話がありますよね。リンゴ=「知恵」とも言えるかもしれませんが、あのリンゴはオッペンハイマーにとってかけがえのない存在であった「物理学」で、それに毒をかけたということは、「物理学を追い求めることで、自らの手で物理を殺人兵器にしてしまった」というメタファーでもあったんじゃないかな、と思ったり。
さいごに
この『オッペンハイマー』3時間の長尺で、中身も濃いのでお腹いっぱいになる一本です。考えさせられることが本当に盛りだくさんで、あっというまの3時間でした。
シンプルにやっぱり映画ってすごいよな、と思わせてくれた作品。言って終えば栄枯盛衰モノ、戦争映画。二つとも個人的に結構苦手なジャンルなのですが、めちゃくちゃ面白かった。観てよかったと心から思わせてくれる一本です。
少しでも参考になれば、さいわいです。
最後まで読んでいただいて本当にありがとうございます。そんなあなたが2024年アカデミー賞作品賞『オッペンハイマー』で素敵な映画体験ができますように。
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