夏の坊主デビュー!!
一体誰が責任を取るのか─?
要するに問責の場である。枯れた空気が独特の味わいを醸し出していたデザイナーは、年のわりに豊かだった白髪頭をキレイに丸めていた。
坊主頭にする、という視覚的に分かりやすい意思表示は、なるほど大小事実について問答する手間をひとまず省き、大局の落ち度をこちら側のものとして分かりやすく認めているのだった。
そのポーズに対し異論はない。その坊主に対しても異論はない。
被告席に並ぶのは件の出家デザイナーと僕を含むプランナーの2名、及び部長と担当役員。雁首揃えた5名が無駄に小奇麗な会議室で沙汰を待つ。
全ての弾劾投石を一身に引き受ける覚悟に見えるデザイナーは、差し込んだ西日に坊主頭を照らされ、なにやら場違いな神々しさをまといつつあった。まるで山奥に10年、木彫りの仏像をひたすらに彫り続けた孤僧の如きである。そのせいか、沈鬱な空気にもどこか現実感がない。
さて、今回の失敗は戦略的な敗北を戦術的な勝利で巻き返そうとしたことに端を発する。そもそも、メニュー表のデザインを刷新した程度で客単価は2倍に上がらない。上がろうはずもない。より俯瞰的な視点から、それはプロモーションの方向から解決が図られるべき課題だった。
にもかかわらず、デザイン主導で動いていた提案は、クライアントの朝令暮改に追従するばかりで、ついに発展的な内容に踏み込めなかった。
結果、一向に経営課題の解決に繋がらないクライアントは業を煮やし、あれよあれよと問題の所在が誤ったポイントに絞られる事態となり、『客単価を2倍にするメニュー表を提案せよ』なる、理不尽なコンペに突入することに相なった。
これをして戦略的な敗北だという。
して、かかる状況を“戦術的”に打開せんと呼ばれたのが、哀れプランニングチームなのだった。
こういうときのためにプランニングがあるんじゃないか、と。
戦略的敗北の責任を棚上げして営業がいう。
しかし、少しばかり遅すぎたようだ。
泥臭い白兵戦に突入してから工兵を呼んでも遅い。もっと早く呼べ。
たかがメニュー単体のしつらえなど、どうせ横並びの提案になることは決まっている。担当の好き嫌いで勝負が決するパターンであり、もはやデザイナーの奮戦に賭けるしかない。のだけれども、別件で塞がっていた僕に代わり、同僚が企画部分をコントロールする羽目になった。
その不運、見事なまでの貧乏くじの引かされぶりよ!
彼の苦悩は察するに余りある。
なにしろ、提案するデザインや構成を裏付ける小理屈をプランニングと銘打って無理やり捻出せねばならぬケースだ。迷走しながら進行するデザインを横目に、当然ながら企画のパートは二転三転、ともなって僕も狩り出され、増員の一名も追加し、二泊三泊することになった。
結果、デザイン提案の前置きにしては長大かつ冗長すぎる企画書が爆誕する。
主客転倒というか、いよいよここに戦術での敗色も濃厚になってきた。
そもそもプレゼンの時間は1時間である。よしんばマーケティング的な手法に依るしかないにせよ、本題に先立って20ページ近いデータの羅列・分析を読ませるのは厳しい。
のみならず、語り口も微妙に言い訳じみている。嗚呼。。。
なんというかもう・・・
\(^o^)/ オワタ!
の一言である。
せめて、デザインを活かす“運用”の部分をギリギリ付加することでなんとか企画らしい企画にはなったのだけれど、にしても、デザインの好みが勝負を決する状況は変えられそうにない。わずかに好材料を見出すとすれば、それは企画書の物理的な厚さである。こうなっては愚直な“やる気アピール”でプレゼンの逆転に活路を見出すしかない。
のだけれども、良く言えば誠実、悪く言えば自信なさ気な彼のプレゼンはやはり失敗し、あまつさえタクシーが遅れてプレゼンに遅刻したとのことだった。合掌。のみならず、そこに運悪く代理店の偉い部長サマも居合わせた、と。
まこと失禁レベルの失態であり、事実その場では出禁を申し渡されたらしい。 どう楽観的に見ても、この仕事はなくなるだろう。周辺も巻き込んで。なぜここまでコンボが繋がるのか理解しにくいのだけれど、とりあえずホームラン級の幕引きだったことは確か。
今までの実績も“葬らん”勢いの幕引き。death。
- - - - - - - - キ リ ト リ セ ン - - - - - - - -
哀れな5匹の羊がお白洲に引き立てられたのは、上記経緯によってである。
すでに出家スタンバイのデザイナーはさておき、お客サマに贖罪のセーターを編むにはまだ少し羊毛が足りないかもしれない。負うべき責任はともかく、個人的な落ち度は1ミリもないつもりなのだけれど、うっかり振舞い方を誤ると、僕の髪の毛まで“1ミリもない”事態になりかねない。
草食系から僧職系にジョブチェンジ、みたいな?
なんというか、一体僕はどうすればいいのでしょうか─。
かつて年金未納問題で頭を丸めた政治家の顔などが頭をよぎりましたとさ。