侘び寂びを聴く
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沖縄に来ている。
ガキのころにきた沖縄はひたすら暑いだけの南国だったけど、四十を超えてようやく再訪した沖縄は風雨に傷んだコンクリとか国際通りの裏あたりの猥雑だったり、どこかくたびれた島嶼特有の侘び寂びを聴いた旅程初日だった。
宿はピンク街のど真ん中にある。ほんとうかどうかは知らないが温泉が謳ってあり、客室のベランダに据えられた風呂釜が読書向きだった。
──旅先でまで?
逆だろ。旅先のほうが読みやすいし書きやすい。
侘び寂びを聴いた──と書いたのは沖縄への機内で読みはじめた「あちらにいる鬼」を読了したからなんだけど、実話に取材した小説なのであらすじは知っていたものの、ふつーにド級の傑作で驚いた。
乱暴に要約すると、ひとりの小説家をめぐるふたりの女の話なんだけど、両者の視点から交互に語る構成が冒頭から上手かった。さらにこの小説を有名にしているのは、おととし亡くなった瀬戸内寂聴さんの実話をもとにしているところで、この小説をさらに希少にしているのは「父の愛人だった当時の寂聴さんと母を半世紀後、小説家になった子ども(作家 井上荒野)が書いた小説」という部分にありそう。つまり自分の親を描いた暴露小説、という見方もできる。なので、「あちらにいる鬼」というタイトルは子どもの立場から寂聴さんを指していると予断していたんだけど、母と愛人と、ふたりが交互に綴る視点のコントラストが意外なほど似通っていて面白かった。
じつは一ヶ所だけページを折って印をつけたところがある。解説で川上弘美さんも引用していた言葉が胸に刺さった。
できればずっと旅と読書をしていたい。
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