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「僕まだ冷静に捉えている」鈴木おさむと占うショートドラマの未来
株式会社OASIZは、スタートアップファクトリー代表の鈴木おさむ氏より第三者割当増資を実施しました。
長年、放送作家としてバラエティ・ドラマを手掛けてきた鈴木氏に、OASIZの出資を決めた背景、そしてご自身の制作を振り返りながら、ショートドラマの未来を占っていただきました。
聞き手は、OASIZ代表の江藤優が務めました。
飲み会きっかけで出資、他が真似できない価値
江藤:まず、おさむさんがOASIZに出資された理由を教えてください。
鈴木氏:そんなことかよって思うかもしれませんが、簡単に言うと「人の紹介」ですね。僕自身が面白いと思っている人から紹介されるエンタメやその作り手は、信頼できるんです。
優との出会いは、うちのシェアオフィス「スタジオゴーイングメリー」で働く大田(ハイボール代表 大田卓矢氏)の紹介でした。僕の性格や、やりたいことをよく知っている大田からの紹介だったので、最初からOASIZや優のことを期待していましたね。
そもそも動画やポッドキャストなどを運営する事業家とたくさん面談していて、最終的に何を基準に出資を決めるべきか悩むんですよ。だから、信頼できる大田からの紹介は大きな要因でした。
現金や不動産、ビットコインなどこの世にはさまざまな資産がありますが、僕は「人脈こそが1番の資産」という考えに強く共感しています。32年間放送作家をやってきて、いろいろな人と出会ったのですが、大田をはじめとした若手の人たちも同様です。自分にとって大きな資産だと捉えて、彼らの言葉も大事にしているんです。
江藤:OASIZみたいに、知人の紹介をきっかけに出資を決めたケースも多いんですか。
鈴木氏:僕自身もそうだし、周りでも実際にそういったことが起きています。
昨日、キングコングの西野亮廣と飲むことになって、せっかくならとスタジオゴーイングメリーで働く萌斗(Gab代表 山内萌斗氏)を連れていきました。
萌斗はエシカルメディアやゴミ拾いイベントなど運営していて、西野の『えんとつ町のプペル』にも強く影響を受けていたんです。今朝、Xを開いてみたら西野が「昨日、呑み席で出会った若手起業家さんから、さっき『出資してください!』と連絡があったので『する!』と即答した。呑み会って大事!」って投稿していたんです。萌斗は憧れの西野に出資してもらい、IPも使わせてもらえるようですごく喜んでいました。
また別の話ですが、幻冬舎の箕輪厚介との飲み会でも面白いつながりが生まれました。ある日曜の夜、書籍のプロモーションでテレビに出たんです。その日はとても疲れてはいたのですが、収録に箕輪も来てくれたので、飲みに行こうと声をかけたら「せっかくなら誰か誘います」って人を探してくれました。
日曜の夜なんて誰が捕まるのかと思いきやyutoriの片石貴展が来ました。片石とは初対面だったんだけど、話していくなかで気が合って、LP出資者としてうちのファンドに入ることも決めてくれました。また、片石はシェアオフィスゴーイングメリーのメンバーである、はるぼー(HA-LU代表 岡春翔氏)のことも知っていて、最終的に二人で一緒にHA-LUにエンジェル投資することにつながりました。
僕が飲み会にいかなかったら、西野が出資することや、片石と一緒に出資することはなかったと思います。飲み会での出会いをきっかけに出資を決めることは、普通のファンドではできないので、ここは僕ならではの良さだと捉えて大事にしているんです。そして、こんな出会いは日中普通に働いていてもなかなかない。本当にしんどい時はダメだけど、自分があと一歩踏み出せばいけるときはやっぱり出向くべきです。だって出会いは、お金では買えないでしょ。
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30点もよぎるなか、BAD HOPを信じたワケ
江藤:『SMAP×SMAP』を手掛けるなかで、おさむさんの「1%の奇跡に賭けた」という言葉が印象的でした。この1%は運も大きいと思うのですが、他にできることは何があると思いますか。僕自身、2000件近くの動画を手掛け一過性のバズは生み出してきたんですが、さらなるムーブメントを起こすには、この1%の奇跡を起こすことが重要なのではないかと思っています。
鈴木氏:優の場合、これまでバズるためにやっていたことを全て捨てていいと思う。
優にとってはバズるコンテンツづくりは既に一定の体系化されていて、80〜85点を取るようなものになっている。でも、80点台のものづくりを続けていても、いつまで経っても120点のものを生み出すことはできないんです。まさにこれは勝負だなと思うことに関しては、これまでの知見も全て捨てやる覚悟が必要です。
2014年の『FNS27時間テレビ』でも奇跡が起きました。番組の最後にSMAPが野外ライブをする予定だったのですが、台風が迫って天気予報では大雨、屋内で実施するしかないという状況になりました。一度は屋内にライブのセットを設置してお客さんも入ってもらいました。でも、ライブの直前になって雨が止んだのです。時間的にはかなりギリギリでしたが、大急ぎで野外にライブのセットを移動させて、お客さんにも移動してもらいました。結果、直前に台風が逸れて無事屋外でのライブを実現できました。こういった勝負どころにおいて、最後まで可能性にベッドができるかどうかが大事だと思っています。
今年の冬にABEMAで放送した、『BAD HOP 1000万1週間生活』もまさにそうでした。
早い段階で、T-Pablowが韓国カジノで300万円分をスったんです。日本に戻るといなや、彼は悔しいと言って再び韓国行きのチケットを取ってしまいました。
普通、終盤までお金を温存すべき、そもそもお金がないならカジノなんてありえないって考えますよね。でも、絶対勝って帰ってくると仲間に宣言する彼を見てもしかしたら奇跡が起きるかもしれないと思い、僕は自腹でT-Pablowに100万円を渡すことにしました。1000万円生活というルールでやっているのに、後から100万円を追加するのはプロデューサーとして失格とも言えるでしょう。しかも、途中でT-Pablowとは音信不通になり、もし最後に戻ってこなかったらこの作品自体が30点になるという危機感もありました。
最終的にT-Pablowは、約1000万円分で勝って帰ってきたんです。SMAP以来の、1%の奇跡を体験することができました。
今の若手クリエイターの多くは、どこか80〜85点を狙っているように見えます。お笑いやラップなどもYouTubeでお手本の動画を見られるので、最初からみんな60点くらいを取れるようになったんじゃないかな。9歳の息子もYouTube動画を作らせたら、その裏側も見ているので飲み込みは早いでしょう。
でも最初からお手本があったら、ダウンダウンは生まれなかったわけです。もしかしたら、20点を取ってしまうかもしれないとドキドキしながらも、120点を目指すことが若手クリエイターたちにも必要なんじゃないかと思っています。
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制約だらけの『お願い!ランキング』。だから大振りできた
江藤:おさむさんは常に120点を目指しているんでしょうか。
鈴木氏:常にではないですが、環境が整ってない時こそ大振りできます。
今年9月に終了したテレ朝『お願い!ランキング』もそうでした。立ち上げから携わったんですが、こんなに制約あるんじゃ無理だと、一度断ったんです。
『お願い!ランキング』は、15年前の不景気によってなくなった深夜番組10本分の穴を埋めるための帯番組でした。30分番組の予算で毎日1時間作る、タレントの起用もできない、スポンサーも付いていない状況でした。
テレ朝からなんとか頼むと言われたので、毎日提供できるパッケージとして「誰も見たことのないランキング番組」というコンセプトを立てました。
さらに、スポンサーもいないので、せっかくなら雑誌『家電批評』のようなコンテンツにしようと思いました。専門家が良くない商品に対しては厳しいコメントを出しつつ、本当に良い商品にはポジティブなコメントをすれば、さらに説得力が増すのではないかと。
名物コーナーとなった『美食アカデミー』で、見事にその戦略がはまりました。商品に順位をつけてコメントされるのでたくさんの企業に断られた中、第1回目は、肉まんの井村屋さんが勇気をもって出演してくれました。収録中、食のプロフェッショナルの辛辣なコメントに、井村屋さんの商品開発担当は「こっちは1個100円で作っているんだよ」ってヒートアップしてすごい空気になったりもしました。でも、終盤にべた褒めとなった商品が2つ連続で出てました。プロの目線で評価されたなかでの、本当にいい商品って爆裂に売れるんです。おかげで、徐々にいろいろな企業が参加してくれるようになりました。
もし潤沢な予算があったら、この企画は危険すぎるという声もでたでしょう。ただ、この状況はもう背に腹も変えられなくて、やるしかなかったんです。
優がやってるドラマづくりは、意外と満たされてる状況だと思います。みんな予算が低いぐらいで、その他の条件はどの企業でもほぼフラット。そうなると自らの“首を絞めていく”ことができるかが大事になってくるわけです。例えば、航空会社の案件で、もし室内だけで撮ってくださいと言われたら燃えるでしょ。こういう制約があると本気のスイッチが押されて、逆に思考が無限に広がっていくんです。
そして、僕は勝負どころでは意図的に「事件性」を生み出そうとしています。T-Pablowが1000万勝ってくるのもそう、企業の商品に辛辣なコメントが寄せられるのも、結果として「事件性」があると言えるでしょう。9月19日にNetflixで公開した『極悪女王』もまさにそうで、僕らの世代だけでなく、もっと若い世代が女子プロレスを見たいと思わせるような事件性を告知ムービーなどにも入れました。
確かに、手掛ける企業案件に事件性をもたらすのはやりにくいはずです。だけど簡単に言えば渋谷の交差点で1000人で踊るのも事件なわけで、突き詰めて考えればどんなコンテンツにも事件性をつけることはできると思います。
もし、鈴木おさむがショートドラマを手掛けるなら
江藤:おさむさんは「ショートドラマの未来」ついてどのように考えていますか。
鈴木氏:今のショートドラマ市場は少し前のVTuberのように熱いし、いろいろな企業がスタートアップと手を組んで新しいショートドラマを生み出していますよね。ただ、長年ドラマを作ってきた身からすると、このトレンドを冷静に捉えています。
そもそも日本人にとって長年「ドラマは無料で見るもの」だった。Netflixにでさえ最初はお金を払うことに抵抗感があって、ようやく『全裸監督』や『イカゲーム』などヒット作の登場で和らいできたと思います。
僕は、これと同様に「ショートドラマにお金を払う価値があるか」という大きな壁にぶつかると思っています。1話50-100円で購入するショートドラマもありますが、さらに市場の大きい漫画を1話買うのとは訳がちがうので、本当にうまくいくのか疑問です。
一方で、優たちのように企業案件を手掛ける企業もある。本当に世の中にとって必要とされ、お金を払ってでも見たいコンテンツを生み出せるのか、今まさにショートドラマを手掛ける各企業が試されているフェーズだと思います。
江藤:もし、おさむさんが僕と同じ26歳だったら、今のようなショートドラマのトレンドに対してどのような戦略で勝負しますか。
鈴木氏:うーん、とにかく数を打つかな。日本のショートドラマ市場において、課金を狙うか企業案件のコンテンツなどどういった内容が勝ち得るのか、まだ分からないのでまずはバリエーションを作ります。
また、役者たちとのギブアンドテイクな関係性づくりも大事。
そもそも、多くのクリエイターや役者にとって、ショートドラマはどこか通過点として捉えられている気がします。ショートドラマでブレイクした後、Netflixのドラマに出演できれば、それは一般的には成功したと言えるでしょう。となると、若い役者たちがショートドラマに出続けることに、さらなる価値を感じてもらう必要がある。例えば、ショートドラマで注目された演者に対して、前回は出演費1万だったけど今回は2万円、2万だったけど4万円みたいに、制作側が成長するのと一緒に、ショートドラマに出演し続けることへのモチベーションをケアし続けることなどが大切です。
僕は、ショートドラマは通過点というよりも、ファストフード的のようなコンテンツとしてあり続けてもよくて、十分世の中を動かすことができると信じています。そのためにも、僕だったら若手クリエイターと若い役者たちが一緒に成長できる環境づくりに注力しますね。
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