「後輩より早く帰りたくない」という謎のプライド
「お先に失礼します」
まだ会社に慣れていない様子の若手社員が、挨拶もそこそこに帰っていく。
「お疲れ様」
呼応するようにパソコンの画面から顔を上げ、挨拶を返す。
そして、自然な流れで、壁にかかっている時計をちらっと見た。
短針はぴったり数字の「7」を指していた。
午後19時。定時を過ぎてから既に1時間以上が経過している。
(入社1か月でもう残業しているのか)
そう思いながら、若手社員の小さくなっていく後姿を眺める。
その姿が完全に見えなくなったことを見計らって、
わたしは周囲のメンバーをぐるっと見渡した。
自分より若い年次の人は、いない。
そのことを確認したわたしは、胸をなでおろした。
(これでようやく帰れる)
30分ほど前から着手していた「今日やる必要がない仕事」を早々に切り上げ、わたしは帰路についたのだった。
誰しも、他人に言っても理解されない、謎のプライドやルールを1つや2つ持っている。
わたしの場合それは、「後輩より早く帰りたくない」というものだった。
正直、持つ意味も理由もないものだと、自分でも思う。
頭では分かっている。
論理的にも説明がつく。
なのに、なぜか手放すことができない。
「分かっているのに捨てられない」というところが、
こういったプライドやルールの最も厄介な点だ。
洗っても洗っても落ちないシミのように、
心の一部を決まった色で塗りつぶしている。
効果的な対処法は、今のところ見つかっていない。
じっくりと時間をかけて向き合い、少しずつ解放していけたらと思う。
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