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ポストコロナのゲームジャムの進化と深化 -「科学ゲームジャム」が素晴らしかった件

行ってきました、科学とゲームの融合の場。
科学を文化にする日本科学未来館を舞台に、科学者とゲーム開発者たちの大変尊い頑張りが具現化された場所でした。
一言で感想を言うならば、ポストコロナのゲームジャムの進化と深化として「科学ゲームジャム」が素晴らしかった…というサイエンティフィック・ゲームジャム 東京 2024の個人的なレポートです。
https://jp-minerals.org/scientificgamejam/jp/

前編:pythonでレトロゲームが書けるpyxelがすごい

日時: 2024年11月29日(金)〜12月1日(日)
場所: 日本科学未来館 (東京都)
主催: サイエンティフィック・ゲームジャム
協力: 在日フランス大使館、フランス グルノーブル アルプ大学、フランス国立科学研究センター(CNRS)、フランス レンヌ大学、大阪大学、島根大学、東京大学、東京理科大学、東京国際工科専門職大学、国立科学博物館
テーマ: 科学をゲームにしよう

近年のゲームジャムとは何なのか。

グローバルゲームジャム(GGJ)というイベントがあります。自分はGGJには2011年ぐらいから参加していて、教育なゲーム開発者のミートアップ、そしてゲーム開発技術の検証としてはいい機会だよなあと考えています。Unityテクノロジージャパンの黎明期を支えた大前さんが2011年にGame Jammer(ジャマー)として参加して、Unityで驚くべきクオリティの光と影の脱出ゲーム「Life in Shadows」をすごい勢いで中国の留学生と作った瞬間に隣にいたのが私です。

GGJにでたことがある人にしか伝わらないかもしれないけれど、最近のゲームジャムってのはだいぶプロプレイヤーが多くなっている面もあって「事前に作ってきたものを現地で組み立てる」ようなジャマーもいたりしますし、ご多分に漏れずコロナ禍でのゲームジャムってのは、そもそも人とオフラインで接してコミュニケーションすることが難しい時代もあって「色々難しいよなあ」という感想でした。

そもそもゲームジャム会場でインフルエンザが大流行したこともあるし、ゲーム開発ってある種のパワー!でつくるものも多いので、職人気質なゲーム開発者と、学生さんの自由闊達なものづくりとはマッチしがたいところもありますよね。それもあって「色々難しいよなあ」ではあるんですが、もちろんこのようなゲームジャムの場から切磋琢磨して、新しい才能が生まれたりもします。近年のゲームジャムも変わらず魅力があるイベントではあるのですが、海の向こうフランスではゲームジャムのための専門のサービスもあるし、ゲームジャムでの盛り上がりは日本のそれとは同じではない、というか明らかに違う人達も出てきました。

https://globalgamejam.org/

科学ゲームジャムとは何か?

itch.io (インディービデオゲームとゲームジャムに焦点を当てた、インディー系デジタルクリエイター対象のオープンマーケットプレイス)で作られた科学ゲームジャムのグループを見つけました。
@sgamejamgre

https://scientificgamejam.itch.io/
リール、パリ、ナンシー、リヨン、グルノーブル、モントリオール、ナント、カーンなどの大都市で3月から4月にかけて実施されているようです。
日本で言えば、JSTやJSPSにあたるCNRS、国立フィルムセンターにあたるCNC、アンリアルエンジンや各大学のロゴがあるよ。

ジョークが効いたタイトルが多いな

これだけ見ても、何が科学なのか、正直よくわからない。

サイエンティフィックゲームジャム東京2024参加作品の面々

SGJ東京2024、運営の竹森那由多先生は量子情報学の先生で、東工大の後輩でもある(知らなかった)。現在、大阪大学。

日本で科学ゲームジャムをはじめて開催する中で、大変なところもあったと想像します。

でも終わってみれば、SGJ東京2024は、単なるゲーム開発イベントにとどまらず、参加者にとって様々な魅力を持つイベントでした。

  • 異分野交流の場: プログラマー、デザイナー、研究者など、異なる専門分野を持つ人々が集まり、互いの知識やスキルを共有し、刺激し合いながら共同作業を行う貴重な機会となりました。

  • 創造性とコミュニケーション能力の向上: 限られた時間の中でチームでゲームを制作するという挑戦を通して、参加者は発想力やコミュニケーション能力を楽しみながら磨くことができました。

  • 科学コミュニケーションの革新: 完成したゲームはオンラインで無料公開され、様々なイベントで展示されることで、科学研究をより広く一般の人々に伝える、革新的な科学コミュニケーションツールとしての役割を果たします。

  • 専門家からのフィードバック: 科学研究、ゲームデザイン、プログラミング、クリエイティブなど多岐にわたる分野の専門家が審査員を務め、参加者は貴重なフィードバックを得ることができました。

早速、今回、発表までたどり着いた作品を紹介していきます。
リンクをたどれば遊べるようにしておきます

Memory Trip

多重線型代数学におけるテンソルの縮約(テンソルのしゅくやく)に注目したゲーム。

「てんそるのしゅくやく・・・」
まあ思い出せないことはないんですが(物理のかぎしっぽ)を読む

あと2-3本、YouTubeの動画を見てこないと正直、私がテンソルの縮約について語るレベルにはならないんですが、ゲームはこんな感じ。

ゲームの説明
テンソルくんたちをくっつけて圧縮しよう!
テンソルくんを2つ選択するとくっつきます.最後の1つになるまでくっつけ続けましょう.
テンソルくんから出ている足の数を「ふか」といいます.途中で出てくる「ふか」がなるべく小さくなるように圧縮しましょう.
「ふか」の大きさによって,Sランク,Aランク,Bランクが与えられます.ぜひ全ての難易度でSランクを目指しましょう!

https://dinnerbuffet.itch.io/memory-trip

え、テンソルネットワークってこんなファンシーな感じで学べちゃってよかったんでしたっけ…、という感じの作品。

のっけからすごすぎ。

ピカマグネ

https://kazuryu.itch.io/pika-magne

論文の主題:交代磁性体におけるバルク光起電力効果を利用したスピン流生成の理論
ゲーム概要:ピカマグネは一人用通電パズルゲーム。光を当てると磁石になる新種の磁石の性質をフル活用して電子をゴールへ導く。使う光の種類を変えることで電子を引き寄せ・反発させて複雑なステージでゴールを目指せ!
ゲームプレイ:赤ライト、青ライトを磁石に当てると磁石に±の属性がつきます。±磁石を使い電子君をゴールまで導きましょう!!
コントロール:画面右の懐中電灯ボタンをクリックして赤ライトと青ライトを切り替える。切り替え後のライトをマウスクリックで磁石に当てる。
研究との関連:研究では、金属に引っ付かない「交代磁性体」という新種の磁石に光を当てることで、スピン流(小さな磁石の流れ)を生成する理論を研究しています。この最先端の研究を基に、磁石の性質を活用した複雑なパズルをゲーム内で実現しました。特に、光によって磁石のオン・オフを切り替えられる点や、光の種類に応じて磁石の向きを操作できる点は、研究内容と現実の物理現象を正確に反映しています。また、磁石によって電子が引き寄せられたり反発したりする仕様も、物理現象を忠実に再現したものとなっており、パズルゲームとしての面白さを残しつつ、研究内容を忠実に反映したゲーム内容となっています。
今回、ゲームに反映させた主要な概念は、次の2点です。「交代磁性という新しい磁気秩序の存在」と、「光を用いた(スピン流生成やスピン蓄積を通じた)磁石の性質の変更」です。まず、プレイヤーには、鉄のような金属に引っ付く磁石だけでなく、引っ付かない磁石も存在するという事実を知り、磁性への理解を深めていただきたいと考えています。また、「磁石に光を当てる」という非日常的な発想を通じて、磁石が太陽光パネルのように光に反応することを学び、磁性体の光学応答という物性物理学の最先端のトピックに触れてもらえる機会となれば嬉しいです。



リズム・ジオメトリー

リズム・ジオメトリー ~はしれ!eちゃん たかまれ!電導率~
ゲーム概要:リズム・ジオメトリー
は、一人で楽しめる音楽ゲームです。プレイヤーは波の形を調整して量子距離を小さくし、物質の高い導電性を目指します!物理や科学の要素をゲーム感覚で楽しく学びましょう!
ゲームストーリー:ようこそ、電気の世界へ!主人公のeちゃん(electronちゃん, 電子ちゃん)は、小さな体で大きな使命を担っています。eちゃんが走ると電流が生まれ、私たちの社会を動かすエネルギーが生み出されます!
でも、道は決して平坦ではありません。eちゃんの進む先には、複雑な波の形や量子距離の障壁が待ち受けています。これらをうまく調整し、電気の流れをスムーズにするのがプレイヤーの役目。波形をコントロールして、eちゃんが最高のパフォーマンスで走れるよう手助けしましょう!
eちゃんが速く走れば走るほど、より効率的な電気の流れが生まれます。そして、それは社会全体を明るく照らし、動かす力になります!さあ、あなたの知恵とリズム感で、eちゃんをゴールまで導きましょう!
関連論文: 量子距離と熱電輸送の関係を解明した研究
Chang‐geun Oh, Kun Woo Kim, and Jun‐Won Rhim. "Thermoelectric Transport Driven by the Hilbert–Schmidt Distance." Advanced Science (2024): 2411313.
論文内容: この研究では、物質の性質を決める輸送現象が「量子距離」という概念に強く影響されることを示しています。量子距離とは、2つの量子状態の違いを数値的に表すもので、量子力学的な「距離」を測る指標の一つです。
ゲームとの関連性&目的: 量子距離は、量子状態間の違いを測る概念です。この論文で示されたように、量子距離は物質の輸送現象に大きな影響を与えます。量子状態は「波」や「擬スピン」で表現されることがあり、本ゲームでは、波と擬スピンが本質的に同じものであることを学べます。また、波動関数の形(幾何)が物性にどのように影響を及ぼすのかを直感的に理解できる仕組みが用意されています。本ゲームのプレイを通し、これらを理解することを目的とします。

https://gamejam-god.itch.io/god


ULTRA FAST WAR



https://ultrafastwar.itch.io/ultra-fast-war

タイトル:ULTRA FAST WAR
■チーム名: ULTRA FAST
ゲームの説明:分子に光のレーザーをあて、自分の色を増やす対戦ゲーム。 「光相転移」という研究テーマをもとに制作しました。光がランダムに散乱する現象や分子が同じ状態を取らないことが、 ゲームを通して体験できます。
■ゲームコントロールキーの使用方法の説明:
・すすむ:スペースキー
・Player1
 L角度の調整:A+Dキー
 L位置の調整:W+Sキー
 L発射:Zキー
・Player2
 L角度の調整:J+Lキー
 L位置の調整:I+Kキー
 L発射:Mキー

https://itch.io/jam/scientific-game-jam-tokyo-2024/rate/3147483

フジタのワンダフル・ライフ!by Soyons Fou-jita !

高校生の作品がすごかった。

https://soyons-fou-jita.itch.io/the-wonderful-life-of-foujita

フジタのワンダフル・ライフ!by Soyons Fou-jita ! ( おかしくなろう! )説明:
このゲームでは、あなたは画家の藤田嗣治となり、それぞれの迷路をクリアしていきます。藤田嗣治の生涯の重要なポイントや、藤田嗣治の独特な画風を確立するために習得した東洋と西洋の文化を融合した独特のスタイルを知ることができます。
オブジェを集めるごとに、藤田自身がデザインした1929年の「revue franco-nippone」という雑誌の表紙が徐々に完成していきます。
(参考までに:藤田嗣治が描いた1929年の日仏定期刊行物のイラストは、藤田嗣治の物語を語るために使用した。実際には、この図版は完全に書誌的なものではなく、藤田の人生における重要な瞬間や、彼が習得した芸術技法を反映するために、ある要素が再解釈されている。)
レベル
第1迷路:この技法をマスターするには墨を手に入れなければならない!
第2迷路:芸術家としての負債に追われながら、エッフェル塔に到達する!
3つ目の迷路:迷路をクリアして名誉の軍団を手に入れよう!見えない壁が邪魔をしているようなので、その場所を覚えておくこと!
4つ目の迷路:迷路の中にある竹を見つけよう。遊び方
Spaceキー : ゲームを開始する
- 左クリック(またはCB上の簡単なタッチ): ゲーム開始
- 右矢印:右に移動
- 左矢印:左に移動
- 上矢印:上に移動
- 下矢印:下に移動
- cキー:ゲームオーバー後、再スタート(ゴーストにタッチされた場合のみ)
- Spaceキー:ドアを開けて次のレベルに進む(オブジェクトを取得した場合のみ)クリエーター
Marie-Ange Effangone-Obage ( プログラマー )
Lucas Isambert ( プログラマー )
Rui Calas ( プログラマー )
François Bayle ( デザイナー )
Alice Abe-Gehin ( コンセプト・デザイナー )

https://soyons-fou-jita.itch.io/the-wonderful-life-of-foujita

高校生が卒業研究で行った、藤田嗣治に関する研究を活かして彼の人生をゲーム化した作品。

まさか日本に生まれ、フランス人画家として没した藤田嗣治が死後65年でゲーム化されるなんて、誰も想像していなかったと思うよ!

藤田 嗣治(ふじた つぐはる、1886年11月27日 - 1968年1月29日)は、日本生まれのフランスの画家・彫刻家。フランスに帰化後の洗礼名はレオナール・ツグハル

藤田嗣治

Language Defender

こちらも高校生の作品。ラテン語の歴史を卒業言及で取り組んだ学生の研究をベースに、言語の陣取りゲームを開発。
takinogawa_all_stars

戦争、それによる植民地化はその土地の文化の衰退、更には消失を意味します。それを防ぐためにプレイヤーは画面上にドロップされるアイテムを使って敵に奪われた陣地を奪い返すことになります。コインを使って交渉したり、本を使って文化を広げたり、時には剣を手に取って戦います。
操作方法はシンプルです。矢印キーで動いてスペースキーでアイテムを使いましょう。

https://takinogawa-all-stars.itch.io/language-defender

侵略による言語の風化、駆逐をテーマにしたゲームで、コンセプト自体はとてもおもしろいのですが、言語的な説明が一切ないのはすごい。言語を話題氏にしたシヴィライゼーションなのに言語が不要。
アイコンのグラフィックスや実装を行った青年たち

北尾さんにサインを求めるこの女子たちも、れっきとした開発者。
ちなみに 東京国際フランス学園の学生さんたち、
pyxelは今回始めて触ったようで、この習熟速度も色々やばい。


サイエンティフィック・ゲームジャム 東京 2024 審査員紹介

サイエンティフィック・ゲームジャム東京2024を彩る、多様な分野の専門家である審査員の皆様をご紹介します。

北尾 崇 氏

  • 元ゲーム開発者(コナミデジタルエンタテインメント出身)

  • 代表作:『Metal Gear Solid』、『ZONE OF THE ENDERS』、『ANUBIS ZONE OF THE ENDERS』

  • 現職:エンターテインメント・テクノロジー企業にてXR技術の研究開発を統括

  • 個人でオープンソースのレトロゲームエンジン「Pyxel」を開発、世界的に高い人気を誇る。

  • Pyxel:https://github.com/kitao/pyxel/blob/main/docs/README.ja.md

小野憲史 氏

白井 暁彦 (このブログの著者)

  • AICU CEO、東京工業大学 博士(工学)、デジタルハリウッド大学大学院客員教授

  • 専門:メタバースR&D、VR、メディアアート、画像工学、触覚技術など

  • 著書:『AIとコラボして神絵師になる 論文から読み解くStable Diffusion』(インプレス)、『画像生成AI Stable Diffusion スタートガイド』(SBクリエイティブ)他多数

  • 連載:「生成AIストリーム」(窓の杜):https://j.aicu.ai/AIStream

  • Researchmap: https://researchmap.jp/akihiko/published_papers

竹森 那由多 氏

Remi Driancourt 氏

  • CEO, Genvid Technologies Japan

  • 元スクウェア・エニックス 株式会社スクウェア・エニックス・AI&アーツ・アルケミー 代表取締役社長COO

  • 代表作:『Agni's Philosophy』、『WITCH - Chapter 0 [cry]』、『KINGDOM HEARTS III』、『FINAL FANTASY XV』他多数

  • Genvid:https://genvid.com/

安藤菜穂子 氏

  • 日本科学未来館 経営戦略室(国際調整担当)室長代理

  • 日本科学未来館の国際関連業務を担当

Samantha Low 氏

  • フリーランスのライター、インディーゲームのPRおよびマーケティングコンサルタント

  • The Japan Times、Tokyo Weekender等に寄稿

  • The Game Awards Future Class 2023受賞

  • LinkedIn: https://jp.linkedin.com/in/samantha-low-8479a066

多様なバックグラウンドを持つ審査員が集結したことで、SGJ東京2024は、科学とゲームの融合による新たな可能性を探求する、創造性あふれるイベントとなりました。

Organizer

Marc de Boissieu マーク  デ・ボワソー 先生
SIMaP/ Univ. Grenoble Alpes, CNRS

https://www.researchgate.net/scientific-contributions/Marc-de-Boissieu-2145963170


以下、発表写真が主ですが、問題ある写真がありましたら X@o_ob までご指摘ください。
なお、動画もありますが公開はしない予定です。
興味が有る人が居たらお伝え下さい。

北尾さんに教わったpyxelのビデオエフェクト

書籍も出るそうなので、今度ワークショップやりたい。


まとめ

SGJ東京2024は、科学とゲームの新たな可能性を示す、刺激的なイベントとなりました。異分野の専門家が集まり、協力してゲームを制作するというユニークな試みは、参加者にとって貴重な学びの場となり、科学コミュニケーションの革新にも貢献するでしょう。今後のSGJの展開にも大いに期待が寄せられます。

なにより、コロナ禍の学生では味わいづらかった、チームで物を作る、専門家といっしょに仕事をする、一緒に御飯を食べる、おもしろいものを時間限定でつくる、といった色んな要素がきちんと実装されていました。
来年も続くことを祈ります!

イベントに関するお問い合わせは、sgj2024@jp-minerals.org まで。


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