Vol.1:a春 「ひとりひとりの内面に広がる豊かな世界を表現したい 」
O株式会社のメンバーを紹介するインタビュー。第1弾前編では、共同創業者のa春にフィーチャーし、創業に至った経緯についてお届けします。
人間の創造性を引き出すプロダクト「MEs」
ーーまず初めに、「MEs」とはどのようなプロダクトかご説明頂けますか?
私たちは「MEs」のことを「ディープ・クリエイション(Deep Creation) のためのメタバース」と呼んでいます。この呼び名の通り、「MEs」はアイデアを創発しながらクリエイションすることに特化したメタバースです。
現在、 第一弾プロダクトである3Dファイルシステム「MEsパーソナルナレッジ コレクション」、第二弾プロダクトとしてメタバース 「MEsマルチプレイヤーワールド」の開発を勧めています。これらのプロダクトを通じて、私たちはユーザーが「二つめの脳」を持てるような新しい体験を実現したいと考えています。
ーー「二つめの脳」とは具体的には何を指しますか?
今回開発中の「MEsパーソナルナレッジ コレクション」は、既存の文字ベースのファイル名が羅列されているファイルシステムと異なり、3D空間上で視覚化されたファイルシステムであるという特徴があります。
これにより、ファイル一つ一つが静的に配置されたものではなく、全てのファイルが同一空間上で有機的に絡み合い、新しい発想を生み出すことができる体験が可能になります。
この「MEs」上での一連のプロセスは、人間の脳内でのひらめきが起こるプロセスを視覚化する取り組みとも言えるので、「二つ目の脳」と表現しています。
ーー「MEs」のアイデアはどのように生まれたのなのでしょうか?
「MEs」のアイデアが生まれたきっかけにはいくつかの問題意識がありました。まず一つめは、既存のファイルシステムが、最初にグラフィカルユーザーインターフェース(GUI)が登場してから50年近くもの間、アップデートされていない点です。
今現在、私たちにとってコンピューターはアイデアを深め・実装するプロセスにおいて欠かせない存在となっていますが、その一方で、既存のファイルシステムのインターフェースは私たちの創造性をまだ十分に引き出してはいないのではないか、という問題意識がありました。
そして二つ目に、既存のSNSに対する問題意識が挙げられます。SNSは私たちが人間関係を築きあげていく上で必須の存在となりましたが、SNSを通じて日々様々な情報に触れる機会が増えることで、情報に対して受動的になってしまい、自分の頭で考える機会が減ってきているように感じています。
つまり、SNSは私たちの世界を広げたように見えて、実は私たちはSNSで見たいものしか見なくなったり、自分から主体的に情報を探しに行かなくなったり、世界を狭めている側面もあるのではないか、と思うようになりました。そしてさらに悪いことにその結果、思考力やクリエイティビティも十分に伸ばすことができていないのではないかと危惧し始めました。
そのような考えから、人々の思考力やクリエイティビティを拡張させていくプロダクトとして、「MEs」の開発を始めたのです。
皆が日々接している、デジタルデバイス上で変革を起こす。
ーーデジタルツールは私たちのクリエイティビティを十分に拡張できていないという問題意識をお持ちの中で、「脱デジタル」にいくのではなく、新しいデジタルツールを作るという発想に至った経緯を教えていただけますか?
私はもともと美大に通っていたのですが、様々な講義を通じてひらめきのプロセスを学び、頭が柔らかくなったと思う瞬間に出会いました。振り返ってみて、それは私のスキルというよりも、人間は自身の置かれた環境に、思考の影響を受けるということだったのではないかと思っています。つまり言い換えると、私たちが日常生活で一番頻繁に接している、スマートフォンやPCなどのデジタルデバイスもまた同じように、大いに思考の影響を与えており、私たちはそれらから大きな影響を受けているのではないかと考えるようになったのです。
だからこそ、毎日アクセスしているデジタルデバイス上の環境を改善していくことは、すなわち、私たちのクリエイティビティを高めていくことができるのではないかと、考えたのです。
ーーなるほど。人々のクリエイティビティを高めていくためには、日々接しているデジタル環境を良くする、ということが一番合理的という考えですね。
そうですね。現代ではほとんどの人がポケットの中にスーパーコンピューターを持つようになったこともあり、世界中のより多くの人に体験を届けるためにもデジタルツールの開発は有用であると考えています。
そして、私たちの日常的なインターフェースの中に、目に見えないアートスクールを取り入れることで、私たちに新しい見方を教えてくれるのではないかとも考えています。個人的には、ツールがそれを使うユーザーに、どのような考え方を新しくもたらしてくれるのか、という点にとても興味を持っていることもあり、「MEs」を通じて、ユーザーの方々がどんなひらめきを生み出していくのか、とても楽しみにしています。
経験ができるものは、全て「現実」
ーーa春さんの経歴について、教えていただけますか?
私は小さい頃からアニメーターになることがずっと夢でした。アニメや小説、カードゲームなどを通じて、これまで知らなかった全く異なる世界を経験することが大好きでした。その世界の中に「ダイブ」することを心から楽しんでいました。その経験は自分の中では架空のものというよりも、現実のものでした。
ただ触れることができないからそれは現実ではないとは考えていなくて、作品の世界にダイブして自分の見える世界が変わっていく経験ができるものは、「現実」だと考えています。人間の感情や感覚って、そもそも触れられるものではないですし。
また、私は言葉で伝えることが苦手で、伝えたい思いはあるのに、なぜそれを言葉にできないんだろうという歯痒さを持ち、一度言葉ではなく、アニメーションで気持ちを表現してみたことがありました。そうしたら、うまく気持ちを伝えることができたんです。
その経験から、非言語コミュニケーションで自分の内面の世界にある様々な「現実」を伝えることに興味を持ち始めました。
一人一人の内面の世界ってとてもユニークで面白く、同時にとても脆いもので。社会的にはそのそれぞれの「現実」をシェアする必要はないと思われがちですが、私はその世界にとても魅力を感じています。
ーーその興味の延長線上で、美大に入学されたのですか?
そうです。実はもともと、一般の大学と美大の二つの大学で迷っていて、キャリアのことを考えて一般の大学に入学をする選択をしたのですが、入学直前に選択に失敗したなと思い始めました。そして、美大の方にお願いして、ギリギリで入学させてもらいました。今振り返ってみると、あれは人生で一番良い決断だったように思います。
美大の環境の中で、アイデアの育て方を存分に学ぶことでき、とても感謝しています。この経験から、私の現在の夢は、美大や大学に通わずとも、アイデアの育て方を学ぶことができる環境を作るというものです。
ーー初めてMEsの話を聞いた時は、一部のクリエイターのためのツールなのかなという印象があったのですが、そうではなく、あらゆる人がアイデアを育てていけるようなプロダクトということなのですね。
そうですね。ユーザーの方には先入観をもたずに使って頂きたいと思っています。仕事で勧められたから使ってみたとか、学校の宿題のテーマになっていたとか、何らかのきっかけで使い始めて、使っているうちにMEs上に自分のアイデアのプロセスが溜まっていって、そこからひらめきが生まれていくなど、日々使っているうちに自然と深まっていく体験を提供をできたらと思っています。
様々なコラボレーションを通じて、MEsから新たな価値を生み出したい。
ーーOはどのような会社か教えていただけますか?
Oは新しいクリエイターカルチャーを育てている企業です。組織としては一般的な企業というよりもアーティストギルドに近いイメージの働き方をしています。
ーーそれは、従来の会社と従業員という関係ではなくて、あくまでもそこで働く個人が主役であるといったことなのでしょうか?
Oは私がこれまで見てきたアートスタジオや開発チームと大きく異なっています。私たちは社会に大きな変化を起こそうとしているので、アーティストとして「MEs」という「作品」を生み出すことはとても大切なことです。
その一方で、企業でもあるので、資本主義的なレンズを通して、保有するリソースを用いてどのような価値を生み出すのか、それを継続的な取り組みとしていくのかについても日々考えています。今後も、様々なパートナーの力も借りながら、この二つの側面を同時に満たすOという組織を形成していきたいと思います。
ーー企業であることとアーティストギルドであることを両立することはとても難しいと思いますが、組織運営はどのように行っているのでしょうか?
「MEs」をつくる一組織として、「どのように思考をアップデートし続けるか」、「どれだけオープンマインドでいて未知なることをインプットし続けられるか」の二つを大切にしています。
私たちは新しい価値を作り上げていく人たちのことをアーティストと呼びます。アーティストのアウトプットは皆それぞれ違う形だと思いますが、たとえばあるスタイルの作品が成功したとたん、同じスタイルばかりになってしまうのではなく、自分をアップデートしていくようになりたいのです。アップデートしなくなると、学ぶ機会は得られません。
ですから、私はOという組織が、アップデートをし続けられる組織であってほしいと願っていますし、メンバー同士でも、自分が学んだことを教え合うことを大切にしています。そして組織としてインプットとアウトプットが繰り返されるように心がけています。
interview&text: Yasutaka Konishi