親の持ち家

 私の両親は35年ちょっと前に建売の家を買った。めちゃめちゃ大規模に開発された分譲地で、同じメーカーが建てたのであろう、全く同じ形の家が隣のブロックに1軒あった。

ほとんどの家にだいたい私と同じぐらいの世代の子どもがいて、小学校は急激にマンモス化して教室が足りなくなり、プレハブの教室がいくつかあって、近所の公園はいつもにぎやかだった。そんな時代だった。

その数年後、マイルドな転勤族だった我が実家は隣県に引っ越し、数年しか住まなかったこの家はずっと借家として今も一度も会ったことのない人に貸している。

いつかは姉弟で相続する事になるんだろうけど、今の相場はどのぐらいになっているのだろうか、近所の似たような広さの家でも売りに出ていれば参考になるだろうと、不動産検索サイトで探してみた。するとあの全く同じ形の家が売りに出されていた。◯さんの家だ!◯さんは3つか4つ年上で綺麗な黒髪が印象的な清楚なお姉さんだった。(わりとどうでもいい情報)

この家、近日中に外壁も内装も水回りもほとんどリフォームする予定だそうだが、リフォーム前の家の中の写真が紹介されていた。

親の家はストリートビューで見たり、大人になってから近くの友達の家に行った時に前を通って見たりしたことはあったけど、家の中の事は幼児~小学生だった頃の記憶の中にしかない。

そもそも◯さんの家だし、その後取り付けられた廊下の手すりなんかは違うけど、間取りは同じ。記憶というのはすごいもので、古い空き家になった写真を見たら脳内の空かずの引き出しに入りっぱなしだった当時の思い出が、ついさっき見てきたかのように鮮やかによみがえってきた。ここにピアノを置いていたとか、台所の掃出し窓から弟が転がり落ちておでこ強打したとか、母が待望の電子レンジを買ってウキウキしながらケーキを焼いたこととか、子ども心に開けるのがちょっと怖かった階段下の収納もお風呂のタイルの色も何もかもが「そういえばそうだった。」階段の途中にある窓からよく眺めた遠くの工場の夜景も、もっと遠くの冬になると白くなる山も。

両親はもう既に老後ライフに入りかけているがこの家に戻るつもりはおそらく全くなく、弟二人もそれぞれ家を建て、私も今住んでいる街に家を建てるので今後、親の持ち家には両親も姉弟も誰も住まないと思う。なのでたぶん二度と見る事のない親の持ち家とほぼ同じ家の中を見ることができたのは本当にラッキーだった。スクリーンショットを撮って親に送ってみよう。



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