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【配信を拝診㉒】どれだけ藻掻いても過酷で醜悪な現実は変わらず...されど行動しない人生に価値無し!! 勝利者の居ない絶望的なシーソーゲームに興じる怪人と人間たちを描いたドラマシリーズ『仮面ライダーBLACK SUN』

 結論から言おう!!・・・・・・こんにちは。(・ω・)ゞ
 昨晩からの雨に因んで、昔ボキャ天で観た山下達郎さんの「クリスマス・イブ」の替え歌の"兄は夜更け過ぎに ユキエへと変わるだろう"を思い出しちゃった、O次郎です。

※前段階で妹さんとコーヒー飲んでる時に小指がピーンと伸びてるのがなんとも芸が細かくてよろしい。何十年も経ってたった一分足らずのダジャレネタVTRを覚えているということはそういう細部への拘りもあってこそでしょう。

 今回は先月末からAmazonプライムビデオで配信中の特撮ドラマシリーズ『仮面ライダーBLACK SUN』です。
 僕はリアルタイムで最初に触れた仮面ライダー作品が『仮面ライダーBLACK』であり、また一方で白石和彌監督の人間のエゴと血反吐に塗れた毒々しいフィルモグラフィーの数々にも毎作胃もたれを起こしつつも惹かれてきたゆえ、本作発表時点から作品をどう料理してくれるか大変気になっておりました。
 一話45分×全10話という長尺の中に差別被差別・同化異化・使役服従・優劣意識・マジョリティーマイノリティー・政治等が絡み合って今現在の日本の醜悪な部分を炙り出しており、そこに原作者の石ノ森章太郎先生のオリジナルモチーフもかくやという粘液質なリアル志向の怪人たちによる生々しい戦闘が上乗せされています。
 原作ファンへのリスペクトは勿論有りつつも白石監督のニヒリズムが終始横溢としており、それゆえに『仮面ライダー』である必要性を疑問視する向きもあるかと思いますが、とにもかくにも結果として商業性に縛られないハードなヒューマンドラマとして好事家以外にも楽しめ、それがそのまま日朝に放送中のライダーシリーズに対する一つのアンチテーゼにもなっていると思います。
 既に視聴済みの方はもとより、昭和ライダー好きな方々、特撮は疎いけどビターで骨太なドラマは好物で視聴を迷っている方々、参考までに読んでいっていただければ之幸いでございます。ネタバレ含みますので予めご注意下さいませませ。
 それでは・・・・・・・・・・・・"よけるな"!!

残念ながらこっちは動画が見当たらなかったけど、
武田さんが働いてる工事現場に浅野さんがウェディングドレス姿で現れるシーンで
武田さんが彼女の身体を避けちゃって浅野さんが工事中の穴に転落していく
"よけるな~(よけいな~)"とかも覚えてる。
あとはパンチョ伊東さんの顔をコラージュした”ロケットパンチョ”とかも有ったな。



Ⅰ. 作品概要

 第二次大戦末期、強靭な兵士を人工的に造り上げるべく政府高官の肝煎りで秘密裏に行われた他生物との遺伝子交配実験で"怪人"が生み出される中、偶発的にその超個体"創世王"が誕生して数十年、学生運動が下火になりつつある1970年代前半に怪人二世の若者を中心に怪人のための人権結社"ゴルゴム"が旗揚げされる。
 同じく怪人二世でありつつ、創世王を屠る力を秘めたキングストーンをそれぞれ幼少期に親の思惑で体内に移植された南光太郎と秋月信彦。
 二人は同年代の学友たちが結社したゴルゴムに参加し、怪人が社会の表裏で弾圧される現状を打破しようとかつて怪人を生み出した政府高官直系の現総理の孫を拉致するものの、ゴルゴム内の思想の対立や裏切りによって分裂。ゴルゴム内で二人が思いを寄せていたユカリが処刑されたことで二人は絶望し、その下手人たるビルケニアに信彦は囚われ、光太郎は何処かへと逃げ延びる。
 さらに半世紀の時が流れた現代。人間と怪人の差別被差別問題は怪人三世の若者世代まで持ち越され、相変わらず市民レベルでの対立が野放しになっている中、国際的に注目される怪人のための人権活動家の少女アオイが創世王殺しの石キングストーンの在処を知っているという情報が流れて秘かに怪人たちに狙われる。
 ひょんなことからアオイを守ることになった光太郎は怪人の力の源である人肉エキスを接種せずに世捨て人のように暮らしてすっかり中年に。
 政府与党の票集めのために政治結社となったゴルゴムは、余命間近で手術での怪人化に必要なエキスをほぼ分泌しなくなった創世王を政府の秘密管理下に差し出し、幹部である三神官が総理とのパイプ役となることでその命脈を保っていた。
 光太郎と同じく創世王殺しの力を持つ信彦は人肉エキスを接種し続けて若い肉体を維持しており、ここに来てゴルゴムの軛から脱出。
 常に甘言を以て侮蔑の態度で人間から搾取弾圧されてきた怪人たちの被虐の歴史に終止符を打つため、"差別のない世界を"という死んでいったユカリとの約束を果たすため、光太郎と信彦の神殺しならぬ創世王殺しの旅路が始まる…。

 Wikiの個別ページが存在しないので自分なりにあらましを書いてみましたがこんなところでしょうか。
 劣等扱いされて差別されるマイノリティーの人々に救いの手を差し伸べると見せかけてその実、自分たちの票集めに利用する政治の狡猾さや、相互不理解が困難と悟った際や裏切られたと感じた際には結局は武力に頼ろうとする人間の浅はかさ等、白石監督のアイロニカルな社会観・人間観が背後に筋として通っています。
 そして登場人物たちの戦いの末に光明は見えるのですがそれはあまりにも小さく、対して醜い現実はあまりにも強固で堅牢です。
 安易に明るい未来を提示せず、膨大なエネルギーと犠牲の末に得られる微かな希望しか示さないことで、逆説的にハイリスクローリターンでも行動することの意義を観客に問うているようでもあります。
 "生きることは辛いな"と言葉にしてしまうとあまりにも浅薄ですが、無駄な苦労は極力避けて賢く生きたい今日の世の中に在って、愚直な負け犬の美学をドンと目の前に突きつけられたような不思議なカタルシスを持った作品と言えるのではないでしょうか。

Ⅱ. 個人的ヒャッハー!だった点

・リアルで粘液質な怪人同士の格闘アクションの数々

 本作は配信作品ゆえ、変身ベルトやサイドカーひいては武器オプションといった玩具展開を念頭に置いておりません。ゆえにそうした商業化されたある意味華やかな戦闘シーンは見られず、武骨で粗暴で血まみれの戦斗が展開されます。
 モチーフとなった生物そのものの生々しい姿の怪人が、相手の四肢を切断したり、自分の身体の一部をもぎ取ってそれを武器にしたりと、ビジュアル的になかなかにエクストリームでグロテスクな限りです。

一方で人間態での戦闘は主役二人に集約。
学生運動時代から殴り合った二人の腐れ縁はなんとも昭和テイストです。
そしてブラックサンとシャドームーンの仮面ライダー二人は
イナズマン的な驚愕の二段変身!!
原理を劇中で説明してなかったのが玉にキズですが、
まぁ西島さん中村さんの変身ポーズ見られたので良しとしよう。(´・ω・`)
僕と同じアラフォー世代の方々には90年代初頭にオリジナルビデオ作品として
リリースされた『真・仮面ライダー 序章』のグロテスクさをイメージすると解り易いか。
当時、雑誌等でこのビジュアルを見た親が「気持ちワルッ!」とか言ってて
こちらはムキになって「コレもアリ!」的なスタンスを取ってたのも懐かしく。
本作や来年の『シン・仮面ライダー』に肖ってシレッと続篇作ってくれてもええんやで。

 "己の欲しいものを力づくで他者から奪い取る"という作品の世界観にこの暴力的なビジュアルが非常にマッチしており、綺麗事では済まされない怒りの応酬の物語を補完してもいるのでしょう。

・旧作TVシリーズへのオマージュの数々

 冠した名前がある以上、旧作TVシリーズの『仮面ライダーBLACK』との比較は免れませんが、泰然とした三神官の存在感や敵同士として出会いながらも相通じ合うクジラ、己の倫理と力の誇示に余念が無い無頼派のビルケニアに、幼馴染みの親友同士でありながら次期創世王としての頂上決戦を運命づけられた光太郎と信彦の悲運等々、各キャラクターのエッセンスをこのハードな世界観に上手く落とし込んでいると思いました。
 最終話でTVシリーズのOPテーマ『仮面ライダーBLACK』が使われつつその画面作りもオマージュされていたのはリアルタイム世代としては鳥肌モノです。
 それを思うと数年前の炎上騒ぎが無ければ恐らく倉田てつをさんのカメオ出演なり有り得たと思いますので、勿体無い限りでもあります…。

濱田岳さん演じるクジラ。
旧作では人間態は出てきませんでしたが、どこかお人好しで思いやりのある
クジラの人物造形にピッタリだったのではと。
コウモリ怪人を音尾琢真さん
全方向に尻尾を振る日和見的な立場ながら、最後はちゃっかり憂さ晴らしも。
やっぱ現実でもこういう人が上手く世渡りするよねっていう。


Ⅲ. 個人的ムムムッ!だった点

・学生運動を絡めたドラマ作りの消化不良感

特にかねてよりの問題意識等も無く、周囲の熱狂とヒロイズムへの傾倒で
運動に身を投じていく…というのは確かにリアルなのかもしれませんが。

 主人公二人は学生運動華やかなりし頃に青春時代を過ごしています。
 それゆえ、腐敗した巨大権力に対しての怒りと個人的な恋愛等の鬱屈を打破する手段として暴力に訴える志向はさもありなん、というところなのですが、であるなら現代と並行して描かれていた70年代初頭の過去パートの顛末が些か消化不良だった思いがします。
 メンバー同士の思想のズレや方法論の違いによる対立は有りましたが、次第に互いに疑心暗鬼になっていく描写が些か浅薄であり、ビルケニアが勢い余ってユカリを処刑してしまった後の事態の収束も早過ぎる感が有ります。
 思想で集った筈なのに思考を放棄して暴力支配に辿り着く矛盾やそれによる夥しい死を撒き散らした結果の諦念としての権力への追従なら解るのですが、時間を掛けたわりにはゴルゴムの内部分裂と権力との癒着による腐敗の過程がすっぽり抜けて片手落ちだったように思いました。
 調べてみると白石監督は74年生まれ、学生運動はすっかり下火の筈なので自身の原体験として持ってきたわけではないのでしょうがであればなぜ?という気は正直しました。

中村梅雀さん演じるダロム。
怪人社会存続を唯一にして至上命題としつつ、時の政権に飼い殺される悲運にも黙々と耐え忍ぶ。
その背景に同士間で殺し合った忌まわしい記憶が有ればより物語が重層的になったのですが..。
ビルケニアは現代パートでは三神官ほど政権には服従していない模様。
学生運動時代からの彼らの変わりようと自分のスタンスとの折り合いの付け方など、
彼目線の時代の追い方の視点も描かれていれば印象変わったのかもですが。


・そもそも怪人が基本的に弱すぎる問題

 そして今作で個人的に一番気になったのがココです。
 ブラックサンとシャドームーンは激強なのですが、その他の怪人たちが悉く弱過ぎるのです。三神官ですら二人の力には及ばず、彼我のパワーバランスとしてまず如何なものかというところでしょう。
 また、人間より強靭な怪人の誕生率がこれだけ低ければそもそも戦中末期の実験開始当初から量産が断念されていた筈であり、必然性が欠けるところです。
 怪人が基本的に強くない設定のためか、怪人多くのデザインが決してカッコ良くなく、メイン二人の対決以外のバトルシーンに迫力が乏しいのも大いにマイナスです。
 怪人を非力に設定するにしても、それであれば人間より強力な個体を増やすために例えば複数の怪人を掛け合わせたキメラ怪人が生み出されて人間よりも強力になったものの組み込まれた各怪人の個々の人間性が犠牲にされるなど、ビジュアル的にも人間ドラマ的にももう少し消化のしようがあったのではないでしょうか。

例えば十面鬼ゴルゴスみたいに?
ってあれは人数分の力で増強されてるわけではないか。

 また、個々人の怪人の力が強大なほうが人間から怪人への潜在的恐怖からして対立構造が深まり、怪人に対抗するための武装の正当化に端を発した武力対立の深刻さが描けたのではないかと思います。
 優越意識から来る排除欲求も現代的ですが、相手への恐怖からのそれもまた同様に現代的でしょう。
 全体として観ると怪人たちの悲愴感を強く押し出すあまり、特撮作品としての醍醐味である非現実的なビジュアルのカッコ良さや超人的な戦闘シーンのケレン味といった本来的な面白さが割りを喰ってしまったのは紛れも無いところかと思います。

ヒロインのアオイちゃんもラストでどういうわけだか変身シーンを披露!!
自分も怪人に改造されてマイノリティーの側に立ったことで、
先人たちのように武力闘争の道を選んだラストは賛否の分かれるところでしょうが、
意に反して次期創世王となってしまった光太郎をサタンサーベルで解釈してあげる
慈悲の一撃はなんとも胸を打つものでした。
余談ながら彼女の学友である鳥怪人の少年の金切り声が正直苦手だったかも…。(´・ω・`)


Ⅳ. おしまいに

 という訳で今回はAmazonプライムビデオで配信中の特撮ドラマシリーズ『仮面ライダーBLACK SUN』について語りました。
 配信ドラマシリーズということで尺としては恵まれながらも、反面で毎回の次回に向けての引きの展開を用意する必要からショッキングな二転三転が必然になってしまい、それに振り回されて一本筋の通った物語展開やキャラクター造形に取り組み切れなかった感が有ります。

吉田羊さん演じるビシュムは何が何でも権力に依拠して影響力を維持するという
無言の決意が滲み出る凄みが有りましたが。
・・・ていうか今調べたらご本人、年齢非公表なのね。

 大人向けに振ったライダー作品という意味ではこれまでにも既に製作されていますが、これだけ人間社会を露悪的に描いた、という意味では間違いなくライダー史に残る一本になったのではないでしょうか。

"主役二人とヒロインとの三角関係"という面では
仮面ライダー THE FIRST』(2005)も思い出したり。
本作ではそのメロドラマ性を押し出し過ぎたり、
続篇の『仮面ライダー THE NEXT』(2007)はホラー映画風味が過ぎたりと
非特撮視聴層を意識し過ぎて微妙な出来栄えだったのがなんともかんとも。
両作ともライダーのリファインされたデザインは素晴らしかったので猶更勿体無いよね。

ともあれ、今回はこのへんにて。
それでは・・・・・・どうぞよしなに。




※主題歌でいうとコレが未だに一番印象的かも。
ストーリーはメチャクチャ単純一本道だったんだけど、それだけに当時の幼児としては鮮烈に刻まれたな。


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O次郎(平日はサラリーマン、週末はアマチュア劇団員)
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