相澤理

『東大のディープな日本史』著者

相澤理

『東大のディープな日本史』著者

マガジン

  • 日本史論述・チャレンジ課題

    各時代のチャレンジ課題をまとめています。

  • 日本史論述ポイント集・文化

    文化①〜⑤をまとめました。

  • 日本史論述ポイント集・近代

    近代①〜⑩をまとめました。

  • 日本史論述ポイント集・戦後

    戦後①〜③をまとめました。

  • 日本史論述ポイント集・近世

    近世①〜⑥をまとめました。

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二度読むということ

 初めまして、相澤理(あいざわ・おさむ)と申します。  予備校・通信制高校などで講師をしております。  『東大のディープな日本史』(KADOKAWA)の著者と言えば、ご存知の方もいるかもしれません。  思うところあって、noteを始めることにしました。  当面は、以前に書いた文章を、自分で振り返る意味も込めて、投稿していきたいと思います。  どうぞよろしくお願いいたします。  1959(昭和34)年に初版が刊行され、長きにわたって受験生のバイブル的存在であった、『新釈現代文

    • 【倫理】共通テスト以降に初めて出題された思想家・用語

       2021年に共通テストが始まり、従来のセンター試験ではあまり見られなかった思考力や応用力を問う問題が多く出題されるようになったことは、ご承知のとおりかと思います。  「公民」の1科目である「倫理」(2025年度からは「公共、倫理」)においても、資料文をもとにして判断する問題や、具体的事例に即して考える問題が増加しました。  一方で、「倫理」では、2010年代後半のセンター試験末期のころから、年に1~2人は新たに出題された思想家が見受けられるようになり、その傾向は共通テストに

      • 『東大のディープな日本史』アーカイブ②・浮浪・逃亡した農民はどこに行ったのか?

         『歴史が面白くなる 東大のディープな日本史 傑作選』の刊行を記念して、過去に収録した問題から特に面白い(と私が思う)ものをアーカイブとして公開していく第2弾は、古代の浮浪・農民に関する1990年度の問題です。東大日本史の面白さ・奥深さは、史料文(資料文)を読み込んでいくことで、歴史に対する固定観念が打ち破られ、新しいこの国の〈かたち〉が見えてくることにあります。本問はそれが凝縮されている問題です。 ・律令国家の対〈浮浪・逃亡〉政策 ――詔して曰く、「諸国の役民、郷に還ら

        • 『東大のディープな日本史』アーカイブ①・「日本」はいつから始まったか?

           2月26日に、『東大のディープな日本史』の最新刊である〈傑作選〉が刊行されます。そこで、出版元のKADOKAWAさんの厚意により、これまで1〜3に収録した問題の中から、泣く泣く〈傑作選〉から外したものを、記事として紹介していきたいと思います。  1回目となる今回は、「日本」の国号の成立にも関わる遣隋使・遣唐使に関する問題です。 ・〈外交音痴〉ではなかった古代の朝廷  昨今の領土問題やTPP参加問題をめぐる政府の対応を見ていると、日本人はどうしてこうも〈外交音痴〉なのだろ

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        二度読むということ

        • 【倫理】共通テスト以降に初めて出題された思想家・用語

        • 『東大のディープな日本史』アーカイブ②・浮浪・逃亡した農民はどこに行ったのか?

        • 『東大のディープな日本史』アーカイブ①・「日本」はいつから始まったか?

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          5本
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          10本
        • 日本史論述ポイント集・戦後
          3本
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          6本
        • 日本史論述ポイント集・中世
          7本

        記事

          この国の歴史を学ぶ意味~文春新書『大人の学参 まるわかり日本史』出版によせて

          このたび、ご縁により文春新書から『大人の学参 まるわかり日本史』を出すこととなりました。予備校講師にすぎない私が、尊敬する半藤一利氏や保阪正康氏と著者として肩を並べるという身に余る光栄に打ち震えるとともに、「入試問題を一般向けに解説する」という私の仕事が、このような形で評価されたことに、思いもひとしおです。 私が『東大のディープな日本史』以来心がけていることは、独りよがりに面白く書こうとするのではなく、問題そのものの面白さを十二分に引き出すということです。そのような姿勢が、

          この国の歴史を学ぶ意味~文春新書『大人の学参 まるわかり日本史』出版によせて

          「万物の悪しきもの」としての人間

           かつてセンター倫理で出題された問題で、気になっていたものがありました。(2014年度本試験第3問問4)  問題じたいは難しくありません。国学者である賀茂真淵の著作ですから、①の『国意考』が正解です。これは、センター倫理の受験者ならば、必ず学習している内容です。  しかし、賀茂真淵が人間を「万物の悪しきもの」と捉えているというのは、どういうことなのでしょうか? 教材を整理していてまたこの問題にあたり、良い機会ですので調べてみることにしました。  原文には次のようにありま

          「万物の悪しきもの」としての人間

          渋沢栄一の倫理

           渋沢栄一はかつてセンター倫理で出題されたことがあります。それは、渋沢がたんに実業家であるだけでなく、経済活動と倫理の関係を探究した「思想家」でもあるからです。以下にその問題と解説を掲載したいと思います。 〈問題〉  渋沢栄一は、経済活動と倫理の関係について、次のように論じている。その趣旨を踏まえて、渋沢が説く望ましい「実業家」として最も適当なものを、下の①~④のうちから一つ選べ。  「仁をなせば則ち富まず、富めば則ち仁ならず」……というように、仁と富とを全く別物に解釈

          渋沢栄一の倫理

          「勉強」の語源について

          「勉強」という言葉には、その字面から「無理してやる」というネガティブなイメージが付着していますが、語源をたどると、それが誤りであることが分かります。中国の古典『中庸』にある一節の、書き下し文を掲げましょう。 (書き下し文) 或ひは生まれながらにして之を知り、或ひは学んで之を知り、或ひは苦しんで之を知る。其の之を知るに及びて一なり。或ひは安んじて之を行なひ、或ひは利して之を行なひ、或ひは勉強して之を行ふ。其の功を成すに及びては一なり。 ここで言う「之」とは「道」のことです

          「勉強」の語源について

          『東大のディープな日本史』と〈教育の機会均等〉

          お蔭さまで拙著『東大のディープな日本史』は多くの読者に恵まれました。これもさまざま人の支えによると感謝申し上げます。 東京大学の入試問題をただ解説するという本を私が執筆した動機は、「東大の日本史の問題は面白いから世に知られるべきだ」という単純なものでした。 しかし、書き進めているうちに、私が20年以上にわたる予備校講師生活を支えてきた一つの思いにたどりつきました。それが〈教育の機会均等〉です。この記事ではその点を掘り下げたいと思います。 『東大のディープな日本史』に対し

          『東大のディープな日本史』と〈教育の機会均等〉

          日本史論述チャレンジ課題・文化

          今回は、文化史のチャレンジ課題です。 これまで再三述べておりますが、この課題は、私が出講している高校の課外講座で、毎回の授業の終わりに取り組ませているものです。完璧な答案を仕上げるというよりも、教科書の該当箇所を読み、自分でまとめ直すことに力点を置いています。 なお、授業用の課題という都合上、問いとして練り切れていなかったり、解釈が多様に考えられたりするものもあります。これも上記の目的を優先したものとご理解ください。 皆さんもぜひ教科書を片手に挑戦していただけたらと思い

          日本史論述チャレンジ課題・文化

          日本史論述ポイント集・文化⑤

          今回は、近現代の文化です。 明治日本は、西洋から制度・技術・文物を取り入れ、近代化を達成しました。欧米以外の国で日本だけが19世紀末の段階で近代化を成し遂げたのはなぜか?これは世界史的にも大きな問いですが、一つの答えとして、近世の段階で近代を受け入れる基盤が出来上がっていたから、ということが指摘できます。 少し古いですが、地主制の発展について問うた1978年度の東大の問題では、以下のようなリード文が掲げられていました。 明治新政府は、富国強兵を標語に近代的な国家の建設を

          日本史論述ポイント集・文化⑤

          日本史論述ポイント集・文化④

          今回は。近世の文化について見ていきます。 〈担い手〉という観点から近世の文化を概観すると、京都→大坂→江戸とその中心が移動していきます。 16世紀後半に開花した安土・桃山文化は、大名・豪商を担い手とした豪華で壮大な文化でしたが、17世紀の寛永期の文化では、それが京都の上層町衆に受け継がれ、洗練されていきます。 その特色は、俵屋宗達の「風神雷神図屛風」のような装飾画にうかがえるでしょう。また、多方面で才能を発揮した本阿弥光悦も、宗達と同じく京都の上層町衆出身です。 続く

          日本史論述ポイント集・文化④

          日本史論述ポイント集・文化③

          今回は中世の文化についてです。 その時代の文化の特徴を捉えるうえで、担い手を押さえることが肝心であるということを、繰り返し述べてきましたが、中世には武士や民衆が新たな文化の担い手として登場しました。 特に、民衆が担い手として登場する背景としてあったのが、経済の発達です。 中世には、二毛作の開始・普及や商品作物の栽培によって農業生産力が向上するとともに、鋳物師・紺屋などの手工業者が独立して生産を行うようになりました。すると、必要な物資を調達する場として寺社の門前や交通の要

          日本史論述ポイント集・文化③

          日本史論述ポイント集・文化②

          前回は、論述における文化史問われ方について説明しましたので、今回はよりレンジを広げて、文化史の学習方法についてお話ししたいと思います。 文化史の勉強のしかたは、図説で作品を見る、これに尽きます。 作品名を字面だけ追っていても、覚えられるものではありません。現物を見る、そして、大まかな特徴をつかんでほしいのです。 たとえば、今回扱う浄土教に関係する空也上人像は、教科書などでもおなじみですね。 口から何か吹いていますね。六体の阿弥陀仏です。なぜ六体なのか分かりますか?空也

          日本史論述ポイント集・文化②

          日本史論述ポイント集・文化①

          今回から文化史に入っていきますので、まずは、論述において問われること、捉え方・学び方などについてお話ししたいと思います。 最初(古代①)に述べたとおり、人名や年号などの知識の多寡を問いたいのであれば、論述形式で出題する必要はありません。単答問題や正誤問題では問えないもの、一つ一つの史実を意味づけ、背景や結果を踏まえて筋道立てて説明する力を、論述問題で試しているわけです。 ですから、文化史の論述問題でも、文物の名前などをたくさん書いたところで、評価は得られません。文化を体系

          日本史論述ポイント集・文化①

          日本史論述チャレンジ課題・戦後

          今回は、戦後のチャレンジ課題をお送りします。 以前にも書いたとおり、私は歴史の〈流れ〉という言い方が好きではありません。流れゆくものに学ぶべきことがあるとは思えないからです。 それよりも、一筋縄では行かぬそのごわごわした手触りを大切にしてほしい。その方が、歴史の面白さを飽きることなく感じられて、学び続けることができるでしょう。 そういう思いで、授業でこの「チャレンジ課題」を生徒にぶつけています。ときに自分でも結論の出ていない問いもあるのですが、答案を見ながら新しい着想を

          日本史論述チャレンジ課題・戦後