京町家にてファミリーロマンス
京都在住のアーティスト、安藤明子さんの最新アルバム・『次の日曜日』がリリースされたのは確か5月のことだったような気がする。4月のことだったような気もする。僕が店番をしている京都の誠光社という本屋がCDをリリースしており、りんごの絵画があしらわれたジャケットは、これまた京都在住のnakabanさん。リリース日になった途端に数々のサブスクサービスで配信され、CDは全国のタワレコに並び、大きなお金が動く音楽の対極にあるアルバムであるような気もする。住んでいる土地で、自分が属するコミュニティで作品を作り、そのコミュニティに集まってくる人たちを相手に作品を発信することは、高度資本主義の中にある健全な営みであるような気がする。
7月の最後の日曜日、Bonjour!現代文明という、京都は丸太町河原町付近にある町屋で『次の日曜日』リリース記念演奏会が行われた。長方形の和室の空間で、床は全て畳。お寺の一室でよく見るような、横に長い半紙に四字熟語が、それも右から左に読むように書かれた書道作品がいくつか飾られている。そこに30人ほどのお客がくつろぎながら開演を待つ。このライブの主催は我らが誠光社であり、イベントのチラシを制作したのは、何を隠そうこの僕であるので、忘れないようにここにビジュアルと一緒に書き記しておく。
お客が入って落ち着いたらどこからともなく安藤さんと一緒にアルバムを制作したというwandaさんが登場し、アルバムの1曲目「夢」から演奏会が始まる。ライブハウスやホールで楽器がかき鳴らされるライブとは違い、ミニマルでアコースティックなギターの音とピアノのしなやかなが和の空間に浸透している様子が心地よい。
このアルバムのアーティスト名義は「安藤明子とファミリーロマンス」となっている。このファミリーロマンスというのはなんだろうと思って、誠光社でげっとしたCDを聞いてみれば、そのわけがわかる。安藤さんのお子さんの声も楽曲に取り入れられているのだ。
そんなファミリーロマンスよろしく、会場には家族づれで来ているお客が多く、演奏に聴き入る大人と、まだ何も分からないので無邪気に遊ぶがきんちょたち。演奏中でもお構いなくがきんちょは笑い、喋り、泣く。その声がまさにアルバムの楽曲の中にある子供の声のようで、なかなか絶妙な重なり方をする。時に、がきんちょはICCOCAを握りしめて演者の前を走り抜け、それを追ってその子の父親とみられる大きながきんちょも走ってくる。安藤さんはこの演奏会のことを「親戚の集まりのような演奏会」と言っていたが(親戚の集まりにしては少し数が多すぎて、どこぞの島の親戚なのだと思うところもあるが)、場所の雰囲気もあってか、本当に親戚が集まったような空気だ。そんな光景を見ながら、ハートランドの小瓶を片手に微笑ましく僕は、夏の盛りの中で小さなファミリーロマンスを見たのであった。