12月22日 水

僕がここ数ヶ月抱え続けていた悩みの種である自動車教習所は、ついに、今日、満を辞して、終了した。朝早くから卒業検定を受けに行き、1週間前と全く同じ説明を1時間ほど受けて、車に乗って卒業検定は始まる。基本的に、1班4人で構成され、2人ずつに分かれて、2回卒業検定が行われるのだけれど、僕の班は1人が欠席であったために3人グループで検定に行くことになった。本来、2人分の検定が終わると帰ることができるのだが、今日は3人分が終わらないと帰ることはできない。僕が先頭バッターだ。もしもブレーキを踏まれると、そのあとは何もすることなく、残り2人の検定が終わるまで後部座席で不毛な時間を過ごさねばならない。

検定が始まる。以前は歩行者で注意されたので、今回は、とにかくゆっくり、歩行者以外にも譲り合うことが必要な場面に出会すと、僕が譲る側になろうと決めていた。そのおかげか、安全不十分でブレーキを踏まれることなく、コースを完走することができた。「その信号を超えたら車を左に寄せてください」と言われる。僕は前回ブレーキを踏まれているために、この言葉を聞くのがとても嬉しかった。まだ教習所内で方向転換が残されているが、あんなものは敷石やポールのポイントを覚えてさえいれば、間違える方が難しい。安全確認と合図さえ怠ることがない限り、減点はされない。やっと卒業できる!そう確信して、道路の左の方に車を寄せた。すると、ガリガリガリっと音がする。完走できたことに感極まり、力が入り、寄せすぎて歩道の少し高い段になっている場所に車の車体を擦ったのだ。「あぁっ!」と声を漏らしながら、急いでハンドルを切って車を止める。ブレーキは踏まれていない。失格とかは言われない。ただ「最後までお願いします」と言われる。そこでエンジンを切って、シートを戻して、交通の流れが少なくなった状況を見て降りる。

2番目の人と運転を変わっても、僕は擦ったせいで失格になったのか、それとも減点ですんだのか、気が気でない。何か一言言ってくれたらいいのにと考えていると、急に車が止まって驚いた。2番目の人は、開始3分くらいで補助ブレーキを踏まれて失格になっていた。3番目の人も同様で、5分も経っていなかった。2人とも横断歩道の歩行者保護が不十分らしい。気持ちはすごいわかるが、共感している場合ではない。もし今日不合格なら、また補習を受けて、朝はやくから意味のない説明を聞かないといけない。卒業検定のために2週間連続で休んでいるゼミも報われない。そう考えていると、教習所に戻っていた。果たして、僕が乗っているこの車は、駐車場に向かうのか、コースに向かうのか。路上で失格になると、方向転換などは省略されるため、僕以外の不合格が確定しているこの状況において、僕が合格ならコースに向かい、不合格なら駐車場に向かうはずだ。

コースに向かうのを祈っていると、コースに向かってくれた。ホッとした。後はもうぬるい仕事だ。予め教えられたポイントを目印に、さっさと方向を変えて卒業検定を終え、無事に僕は合格をしたのだ。擦った車体にはほとんど傷はついていなかった。

家に帰って、卒業記念にたくさん買ったおつまみやお菓子をつまみながら缶ビールを飲み、伊丹十三の映画を観て、夕方には卒業式に行く。卒業式といっても、殺風景な教室で、卒業証明書をもらって、学科試験などの軽い説明を受けるだけである。教習所における最後の不毛な時間に耐え、僕は堀川商店街に向かった。

今夜は、堀川商店街の中のカフェの横にある、堀川会議室という入り口が大きく開放された小さなイベントスペースにて、YeYe Bandの投げ銭ライブがある。YeYeさんは大阪を拠点に活動するアーティストで、TENDREやLucky Tapesと同じレーベルに属している。「暮らし」とか「うんざりですよ」とかが有名な曲で、僕は2年前ほどから音楽を好んで聴いているのだけれど、生演奏はまだ見たことがない。開場の30分ほど前に到着した僕は、寒いし腹が減っていたので、どこか店に入ることにして、堀川商店街を散歩した。すると、「生ビール(黒ラベル)300円」書かれた看板が目に入り、店に入る。白がモチーフの店内はとても清潔で、スタッフは女性が2人で、接客から料理から注文、会計まで全てこなしている。めちゃくちゃ笑顔な接客からは人柄の良さが伝わる。壁にはバンクシーや村上隆の絵画が飾られている。新しいお店なのかもしれない。僕は生ビールを頼んで、赤星の瓶(350円)でも良かったかなと思いながら、ポテサラとチーズカリカリ揚げを頼んだ。スタッフは少ないし、席は埋まっているので、なかなか注文が来ないのはしょうがない。気長に待つことにした。やがて運ばれたポテサラは、「お待たせしたので大盛りにしときました」と、またもや人柄の良さを感じさせられる。料理も美味しいし、スタッフさんの愛想は抜群によく、何より安い。地元の常連さんに愛されそうなお店だと思った。全ていただいて、お会計を済ませ、頃合いのいい時間に店を出て、堀川会議室に戻った。開場時間の数分前に入れてもらった僕は1番目のお客だったらしく、YeYeバンドやイベントの企画者らしき人たちがが温まるストーブの輪に入れてもらった。少しだけおしゃべりした。こんな時、内輪で固まっている人たちの会話に参加していける人が羨ましい。しばらくして、たばこを吸う際、ライターを忘れたことに気がつき、ドラムのリッキーさん(折坂悠太のドラムとかも担当されている)にライターをお借りしたところ、「これあげるよ」と言って、ライターをひとつ頂戴した。家宝にしようと思った。

YeYe Bandのライブは最前列に席を取って、間近で音楽を堪能した。4人が縦に並んで、前のメンバーの方を両手で持って歩いてくる入場や、曲の合間に突如始まるカードを用いたゲーム、メンバーのいじり合い、クリスマスソングを盛り込んだセットリスト、曲の合間にちょっと背伸びをするYeYeさん、みんな仲良しで、可愛くて、やさしい空間に身をおいた1時間だった。給料前のなけなしのお金を投げ銭坪に入れた。

いいなと思ったら応援しよう!