私が見つけなかったのは・・・
私の父は、私が高校2年生なったばかりのまだ桜すら咲いていない、肌寒い4月に自宅で自ら命を絶ちました。
遺書などは残っておらず、うつ病の療養中におそらく魔が差してしまったのだろう…と、言うことにしています。
なので心の中では父は、病気で亡くなったのだと今でも思っています。
その日の朝、父の葬式の夢を見ておきました。
「なんだか、いやな夢だ。」
と思いながら階下に降りると、父がどこにもいないと家族が探していました。
車もある、くつもある。でも、父はいない。
胸騒ぎを感じていますが、気づかないふりをしていました。
私も父を探しながら、使っていない部屋を開けて見たり、地下室に行ってみたり。
車庫の奥にあるその地下室の奥の物置前にスリッパが並んでいるのを見つけました。
地下室に降りる時に使う共用のスリッパです。
「なんでこんなところに、スリッパがあるのかな?」
と、不思議に思いながら、私はその前を通り過ぎました。
虫の知らせのようなものでしょうか。
「もう父には会えないのかも知れない…」と、ずっと頭をグルグル回っていました。
スリッパの前を通り過ぎた10分後くらい。
まさに地を這うような祖母の凄まじい悲鳴が、地下室から轟きました。
(あぁ、父が見つかったんだ。もう会えない。私がしっかりしなきゃ。)
そう思いながら、地下室へ行きました。
泣き、叫び、狂ってしまった祖母を抱き締め、スリッパの並べられた物置で既に旅立ってしまった父の最期を確認しました。
父には、もう会えないんだ。
虫の知らせが本物になり、体中を冷たく貫くような気がしました。
指先から、悲しみなのか何なのか・・・冷たくなっていく感覚が今でも忘れられません。
スリッパに1番最初に気づいた私が、第一発見者になっていたかも知れません。
でも、父は私に自分の亡くなった姿を1番に見つけて欲しくは無かったのかも知れません。
いつもはないスリッパが、そこに並べられていたのを目にしたのに。
ちゃんと意識の中で認めていたのに、私はその先に進まなかった。
その事実は、何かの意思が働いたように思いました。
そして、心のどこかでそうであって欲しいと願いました。
祖母には申し訳ないけど、祖母が先に見つけてくれたから私は心を壊さなくて済んだと思っています。
一番最初に見つけてしまった祖母が、あの一瞬に全て背負って心を壊してしまったから、私はあのわずかな時間で一生分に近い覚悟ができた。
だから健やかに成長出来て、今も元気に生きている。
父と別れてから、少しだけ寂しい人生だったけど。
父のことが、今でも大好きです。
最期、誰にも分からないけど、きっと父は最期の最期に自分を守ってくれたのではないかな。
そうやって信じることで、私の覚悟はしっかり今も続いている。
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