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2024年6~9月の新譜記録

こんにちは。タイトルの通り、私が6~9月に聴いて良いなあと思った新譜について、感想とともにまとめておく記事です。

新譜、聴いてはいたんですが、なんかあまりハマれるものがない期間が続き、気づいたら4ヶ月も経ってしまいました。この前まで毎月ペースで書けていたのに……

良かった新譜

アルバムタイトルからsonglinkのページに飛べます。(songwhip、今までありがとう)

EXTRA - トリプルファイヤー

トリプルファイヤーというバンドにとって、ブチ抜く吉田こと吉田靖直氏の悲哀とユーモアに溢れた歌詞・歌唱が大きな特徴であることは間違いないと思いますし、私も「吉田のヘロヘロな歌+ノーウェーブみたいな奇怪でストイックな演奏」の組み合わせに強い魅力を感じていました。その意味で、今回先行配信されたM9「相席屋に行きたい」の2分間にも渡るイントロであろうことか吉田氏の歌を排し、フルートやパーカスも加えてラテンなノリの引き出しも感じさせるファンキーな演奏をじっくり聴かせたのは、あくまでも「バンド」としての形をよりしっかり持った存在であろうという意思の表れなのかなと思い、かなりグッと来ました。当の吉田氏も、それに呼応する形なのか、歌メロなら歌メロ、ポエトリーリーディングならポエトリーリーディング的に、割とはっきりしたスタイルを使い分けるようになっていたのが印象的でした。歌詞に目を向けると、自分の秘められたポテンシャルには相変わらず縋ろうとする一方で、BARのくだらないノリや相席屋に身を投じるしかない悲しさだったり、腰掛けのバイト先に案外居場所を見いだしてしまう滑稽さだったりを自嘲気味に描く諦めの感情も垣間見え、これはこれで別の角度からの鋭さを増していました。

私は吉田氏の自伝『持ってこなかった男』で描かれた、あらゆることに失敗して負け続けた男がトリプルファイヤーという唯一無二のスタイルを確立するに至る半生にいたく感銘を受けたことがあり、本作では言うなればその延長線上にある新たなステージを見たような気持ちになりました。長いこと待っていてよかったなと思います。新曲のストックもあるようなので、今後もまた定期的に音源を出してくれたらうれしいですね。

SMILE! :D - Porter Robinson

ギターが前に出てきていないだけで、やっていることは完全にエモだなと思いました。なんとなく想起したのはMotion City SoundtrackとかJimmy Eat Worldとかの、明るくて力強い(インディー的でない)サウンドの奥に深い悲しみを湛えたあの感じ。もともとの爆泣きアンセムを書けるナイーブな感性が、ハッピーな曲たちの中に垣間見える瞬間にエモ(原義)を感じます。このモードで来年ガリレオガリレイと共演するのめちゃくちゃ楽しみです。

My Method Actor - Nilüfer Yanya

前作よりもR&B的なグルーヴ感は強まっているものの、相変わらず体温は低そうなまま。冒頭のシューゲイザーみたいなギターがビートの冷ややかなグルーヴに合っていて好き。中盤以降は上がりも下がりもせず宙吊りになったグルーヴの静かな浮遊感だけが残り、全体的にこれはドリームポップの系譜として捉えてもいいのかもしれないなと思いました。Blonde RedheadやRadio Dept.の静かな高揚感を、ヒップホップ的なマシンビートでより淡白・端的に取り残した感じ。

水金地火木土天アーメン - しろねこ堂

映画『きみの色』の劇中バンドによるEP。人のことが「色」で見える主人公が、その美しさに惚れ込んだ友人たちとできることを寄せ集めて、音楽性とか編成といった出来合いのルールを気にせず「この人たちと楽しいことをやりたい」という感情で音楽を作っていく様子を描いた、純粋な友情、優しさ、そしてDIY精神への讃歌のような美しい映画でした。曲としてもNew Order流のJpopという感じのクールでキャッチーなキラーチューン揃いで、ギターで永井聖一(相対性理論 / TESTSET)が参加しているあたりが、個人的に最近あった「永井聖一ってジョニーマーじゃん」という気づきともリンクする部分があって面白かったです。

機械上位時代 - this year's loid - ex. happyender girl

最近たまたまなのか、人格を持った初音ミクが壊れたりする二次創作が頻繁にTLに流れてきます。それ自体は正直あまり好きではない(「マスター」とか呼ばせる文化がずっと苦手)のですが、そのたびに、初音ミクに人格を見出す付き合い方をしつつも、主従のない「バンドメンバー」として扱うex. happyender girlもとい蝉暮せせせ氏の誠実さに想いを馳せます。一方で、その誠実さは、創作という行為に自らを縛りつける呪いにもなり得るようです。本作ではそんな泥沼に溺れた自分自身を憐れんでめった刺しにする歌詞を、他でもない呪いのコアである初音ミクに歌わせているところに、深い哀しみを覚えました。「機械上位」とは、一般的に「マスター」に隷属する「スレーブ」と捉えられてしまう存在から呪われて支配されている、主従の転倒を指しているのかもしれません。

Disaster Trick - Horse Jumper of Love

枯れたシューゲイズ、という形容がぴったりな気がする。SlintやCodeineのそれを思わせる乾いたサウンドと重たいビート感が静かで寂しい情景を描く一方、いわゆる「包み込むような轟音」でより直接的にエモーショナルに訴えかけるアプローチも多く、残業後の帰路などに沁みました。真夏のリリースでしたが、これからの季節にも聴き込みたい一枚です。

Stony - Precocious Neophyte

ジャケ写と名前に惹かれて初聴。シカゴ在住の韓国人・Jeehye Ham氏による宅録プロジェクトとのことです。韓国宅録シューゲイズの重い轟音や爽やかさと、Smashing Pumpkinsのリフ感やメランコリックな美学が見事に溶け合ったように聴こえるのは先入観でしょうか。昨年には元NothingのBrandon Settaと"1979"のドリーミーなカバーをリリースしたりもしていたようで、アメリカでオルタナティブに受け継がれてきた感性が、韓国を経由してやってきたシューゲイザーと「ドリームポップ」的なムードで再合流するような趣があり、私の好みにはかなり刺さりました。

自然とコンピューター - OGRE YOU ASSHOLE

『自然とコンピューター』という題が端的に示す通り、人間味を排した機械的な演奏に徹していながら、音使いのアナログな質感からは確実に人間の気配も感じます。廃墟にかつての住人の影を見出すときにも似た気味の悪さと、その距離感の不思議な安らぎが永遠に続くアルバムだなと思いました。

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というわけで久々の新譜記録でした。このペースだと次は年末の振り返りとかになってしまうだろうか……


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