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2024年ベストアルバム25

今年もやります。みなさま2024年お疲れさまでした。
下半期で仕事が無限残業編に突入し、それまでは毎月〜隔月くらいで書けていた新譜記録noteのルーティンが完全に崩壊した1年でしたが、聴いた新譜をとりあえず突っ込む用のプレイリストによればなんだかんだ220枚くらいの新譜は聴けていたようです。マメな記録の形になれず、脳から零れ落ちていった音楽体験たちを、年の瀬に慌ててまとめて掬い上げるような、そんな意味合いも帯びた年間ベスト記事になりました。来年は余裕が欲しいです。

はじめに / ざっくり振り返り

個人的に、今年はずっとニューウェーブが頭の片隅にある1年でした。1月の『Stop Making Sense』4Kレストアに始まり、NewDadやトリプルファイヤーの新譜、フジロックのジザメリ、ソニックマニアのTESTSET、書籍『マッドチェスターの光芒』、映画『きみの色』、そして極めつけはThe Cureの新譜に年明けのNew Order来日決定(そして、近親ジャンルとしてジェームス・チャンスの訃報も)と、なんとなくニューウェーブのオリジネイターやその影響を今に生かすアクトたちに触れる機会が多かったように思います。さらに、一度意識すると、今年ニューリリースのあったZAZEN BOYSやPrimal Scream、Medicine、Bleachers、OGRE YOU ASSHOLE、果てはGalileo GalileiやGroup_inouといった面々も、その外縁を描いているように見えてくる。ニューウェーブやポストパンクにカテゴライズされる音楽は以前から好んで聴いていて、なんなら自分の好みのかなり核の部分を成している自覚はあったのですが、それは要するに、体に響くリズムだったり、往々にして耽美なムードとして現れる美学への忠実さだったりなんだろうな、というところまで敷衍して考えられたのが今年の一番大きい気づきかなと思います。上記の通りのニューウェーブ豊作っぷりを見るに、世の中的にも実はトレンドだったんじゃないかという気もする。

あとは、ハードコアをよく聴くようになりました。こちらは逆に昨年までそれほど親しみはなく「パンクのすごい版」程度の認識しかなかったのですが、昨年末のSPOILMANの滝野川西区民センターでのライブでDIY精神ってこれか……という衝撃を受け、以来聴くようになりました。そういうDIYのスタンスとか、出音にダイレクトに現れる感情の魅力とかが、ライブで生で体感して初めてちゃんと分かったという感じです。Codeineやuri gagarn(あと配信だけどTurnstile)のライブを見る機会があったのも大きいし、折しもShellacやJesus Lizardの新譜、フォロワーさんのスロウコアディスクガイドに触れられたのもタイミングが良かった。ジャンルを調べていく過程でここを読み返して周辺のオルタナ・グランジについても改めて整理できたりと、やっぱりこの1から勉強していく行為は定期的にやった方がいいなと思いました。去年はヒップホップについて似たようなことをやったので、来年も何かしら開拓したいですね。

ちなみにライブという点では、4月に10年ぶりにBUMP OF CHICKENのライブに行き、メチャクチャになったのが個人的にメモリアルでした。10年前の自分に、君は未だにメーデーで号泣したりしてるし飴玉の唄のギターソロを生で浴びられたよと伝えてあげたい。
あとはなんといっても8月の宇多田ヒカルが圧倒的でした。年間ベストライブとしてはこちらを挙げたいです。あのぐらいナチュラルに、ご機嫌に、そして小細工のない超人になってみたいものです。

年間ベストアルバム25枚

前置きが長くなりましたが以下本題です。順位とかはあえて付けず、大まかにジャンル別に並べているので、気になるゾーンがあればそこだけでもぜひ眺めていってください。アルバムタイトルからSonglinkにも飛べます。

一曲ずつ選んだプレイリストはこちら。

EXTRA - トリプルファイヤー

トリプルファイヤーというバンドにとって、ブチ抜く吉田こと吉田靖直氏の悲哀とユーモアに溢れた歌詞・歌唱が大きな特徴であることは間違いないと思いますが、今作ではGt. 鳥居真道氏の陣頭指揮のもとバンド側の存在感もグッと増しており、作品としての聴き応えは過去最高でした。先行配信されたM9「相席屋に行きたい」の2分間にも渡るイントロで、あろうことか吉田氏の歌を排し、フルートやパーカスも加えた演奏をじっくり聴かせたのは特に象徴的。当の吉田氏も、歌メロなら歌メロ、ポエトリーリーディングならポエトリーリーディング的に割とはっきりしたスタイルを使い分け、楽曲としてのバンドとの一体感を意識させるようになっていたのが印象的でした。一方で、歌詞の内容に目を向けると、自分の秘められたポテンシャルには相変わらず縋ろうとする一方で、バーのくだらないノリや相席屋に身を投じるしかない悲しさだったり、腰掛けのバイト先に案外居場所を見いだしてしまう滑稽さだったりを自嘲気味に描く諦めの感情も垣間見え、これはこれで別の角度からの鋭さを増していました。

私は吉田氏の自伝『持ってこなかった男』で描かれた、あらゆることに失敗して負け続けた男がトリプルファイヤーという唯一無二のスタイルを確立するに至る半生にいたく感銘を受けたことがあり、本作では言うなればその延長線上にある音楽家としての新たなステージを見たような気持ちになりました。長いこと待っていてよかったなと思います。新曲のストックもあるようなので、今後もまた定期的に音源を出してくれたらうれしいですね。

らんど - ZAZEN BOYS

バンドサウンドも歌詞も、これまでになく素直で直情的なものへと変化したように思います。ファンク好き酔いどれおじさんの自我がそのまま出た序盤、ノスタルジーとともにメロウな酩酊状態に沈む中盤にかけて、素直な言葉と装飾を削ぎ落とした演奏でパーソナルな存在感を感じさせるからこそ、M10「永遠少女」以降が(M13「胸焼けうどんの作り方」でさえも)強烈な畏怖と圧力を持って刺さる。「繰り返される諸行無常」が酔っ払いの放言ではなく、明確にこちらを向いて投げかけられた言葉だったことに気づく。他者と「関係したい」と言い続けてきた向井秀徳にとって、センチメンタル過剰でもなく、逆にとことん冷徹になることもなく、ようやく剥き出しの自己をそのまま提示することができた作品なんだろうなと思います。M3「八方美人」の「寂しいんだよ」なんて、堪えきれずにこぼした「Sabaku」の「割と寂しい」よりももっと素直で、だからこその重さを感じます。

10月の武道館公演もそのモードが色濃く出ていて、武道館という舞台の割に「メモリアル」感は至って希薄な、素の自分たちでやれることを3時間やり通したいライブだったんだなと思います。私はなんとなく身構えて行っていたのですが、いい意味で期待を裏切られるライブでした。

ラヴの元型 - AJICO

恥ずかしながら、こんないかついメンバーのバンドがあったとは知りませんでした。平均年齢59歳にしてオルタナティブであり続けている、落ち着き払った老練さの中に若々しい遊び心を潜めたイカした大人4人組という印象。前提として全員演奏が上手すぎますが、泰然自若のリズム隊に、浅井健一のルーズでメロウな歌とギター、そしてUAの自由奔放な歌唱と、全メンバーのキャラが立っていて「バンド」としての聴き応えが極上でした。私も30年後はこんな感じでありたい。

HAPPY - group_inou

昨年11月の「理由は謎」の新曲リリースを経て、正月に唐突にドロップされたEP。「暴れん坊のコギャル猫」とか「旺盛なビラ」みたいな謎のキラーフレーズで謎の盛り上がりへと突き抜けていったり、意味があるのか無いのか不明な歌詞がトラックの雰囲気も相まってなぜかエモーショナルな像を結んだりする、この2人にしか作れない音楽のエッセンスが6曲の中にバッチリ詰め込まれた素晴らしい復帰作だと思いました。フジロックで、朝4時に深夜テンションで混濁する頭を掻き回されながら死ぬほど盛り上がったのも良い思い出です。

水金地火木土天アーメン - しろねこ堂

映画『きみの色』の劇中バンドによるEP。まずもってこの映画が本当に良くて……人のことが「色」で見える主人公が、その美しさに惚れ込んだ友人たちとできることを寄せ集めて、音楽性とか編成みたいなルールなんて気にせず「この人たちと楽しいことをやりたい」という感情で音楽を作っていく様子を描いた、愛と友情、そしてDIY精神への最高の讃歌といえる美しい映画でした。山田尚子監督作とあり、「けいおん!」ファンとしての義務感も込みで観に行った作品でしたが、「けいおん!」もきららアニメとしてデフォルメされつつ実は似たようなメッセージをかなりじっくり描いた作品だったよな……ということを思い出してしんみりしたりもしました。

音楽としても「New Order流のJpop」という感じのクールでユーモラスな楽曲揃いで、特に表題曲「水金地火木土天アーメン」はキャッチーな歌詞とシンプルながらエモーショナルな楽曲構成とで今年最高のアンセムに推せる一曲だと思います。M3「反省文~善きもの美しきもの真実なるもの~」のド直球のBlue Mondayオマージュも、映画を観ながら流石に笑顔になりました(劇中SEでは唐突なBorn Slippyカバーもありこちらも笑顔案件)。音源にはギターで永井聖一(相対性理論 / TESTSET)も参加していて、ソニマニを経て得た「永井聖一ってジョニーマーじゃん」という気づきともリンクする部分があって面白かったです。

MANTRAL - Galileo Galilei

インディーロックだエレクトロニカだと色々言われたところから、一度バンドの形を解体したからこそ、そうした様々な要素をフラットに再構築できるようになったアルバムなのかなと思います。節々で、例えば1975風だったりOasis風だったりBUMP風だったり、リファレンスがなんとなく想起される箇所はあるのですが、そこに窮屈さみたいなものが全然無くて、むしろ自分たちの手札にあるピースを自由自在に使いこなす、伸び伸びとした空気の心温まるアルバムでした。M2「若者たちよ」、M4「オフィーリア」、M12「タタラ」、M14「やさしいせかい.com」など、爽やかな開放感があって良い曲ですよね……。

SMILE! :D - Porter Robinson

そのGalileo Galileiと来年共演が決まっているのがPorter Robinsonです。ギターが前に出てきていないだけで、やっていることは完全にエモだなと思いました。なんとなく想起したのはMotion City SoundtrackとかJimmy Eat Worldとかの、明るくて力強いサウンドの奥に深い悲しみを湛えたあの感じ。(あとM1 "Knock Yourself Out XD"のイントロはピロウズの "Thank you, my twilight"が想起されて涙。フリクリ好きなのかな)もともとの爆泣きアンセムを書けるナイーブな感性が、ハッピーな曲たちの中に垣間見える瞬間にイーモゥを感じます。2021年の "Nurture" でのイノセントなままで到達したセカイ系のような壮大さもかなり好きだったのですが、今作はもっと近い距離感で音が鳴っていて、このくらい直接的にエモーショナルに迫ってくれるのもグッと来ました。

MADRA - NewDad

シューゲイザーやドリームポップとゴス、ニューウェーブとを結び直す一枚。冒頭述べたように「自分が好きだったのはこれだ!!」と再認識するきっかけとなった点で、個人的な今年ハイライトの一枚でもあります。地面の底や廃墟の一室、部屋の隅の暗がりから漏れ聴こえるような音楽でありながら、そこから天上を夢見るような恍惚としたロマンもあり、総じて耽美的。Siouxsie And The Bansheesのカリスマティックなサイケ味と、"Disintegration"期のキュアーの重厚なダークさ、ノイジーなギターで空間を埋めるシューゲイザーの方法論(これは結局ゴスの直系にあるSmashing Pumpkins的でもある)、そしてBeach FossilsやDIIVら10年代のCaptured Tracks的なDIY精神とレイドバック具合をも通過した、オルタナ〜インディーの系譜に好きなものがあれば何らかの形で刺さるであろう一枚だと思います。

Heaven - softcult

NewDadが聴かれるならこっちももっと話題になってよくない?という、カナダの双子デュオ。まずもってビジュアルが好きです。

カッコ良すぎる。サタニックなタトゥーにゴスなアイメイク、他方では長髪にラフな Tシャツのグランジスタイル……という、アー写の時点で喝采したくなる稀有なケース。音楽も当然間違いなく、Cocteau TwinsやSlowdiveのドリーミーかつポップな耳触りから、スマパンやNirvanaといった90sUSパンクの攻撃性、そしてSoccer MommyやAlvvaysなど同時代のインディー/ドリームポップまでもが想起される、ダウナーな耽美さとアグレッシブなパンク精神を合わせ持つ大満足のEPでした。アイルランド出身のNewDadと比べるとやっぱりUSオルタナ寄りのサウンドで、よりオルタナ直系に近そうなMommaやSlow Pulpとかとも通ずるところがありそうです。まとめて来日してくれ〜

My Method Actor - Nilüfer Yanya

R&Bとインディーロックとヒップホップを「リズム」を軸に行き来する、良い意味でどこのシーンに属しているのかわからないユニークな人 / アルバムだなと思います。前作ではポストロック調のアレンジが鋭い緊張感を生んでいましたが、今作ではむしろ、輪郭の弛緩した音と冷ややかなビートとの違和感が緊張と同時に高揚感ももたらしているように思います。冒頭では意外にもシューゲイザーのようなギターを組み合わせ、一方で中盤以降は上がりも下がりもせず宙吊りになったグルーヴの静かな浮遊感だけが残り、全体的にこれはドリームポップの系譜として捉えてもいいのかもしれないなと思いました。Blonde RedheadやRadio Dept.の静かな高揚感を、ヒップホップ的なマシンビートでより淡白・端的に取り残した感じ?

Songs Of A Lost World - The Cure

自分はキュアーで一枚選べと言われたら、ギターポップとしての闊達さから"Wish"か"Kiss Me, Kiss Me, Kiss Me"を挙げる側の人間なのですが、一方で"Pornography"や"Disintegration"に代表される陶酔的でありつつ重苦しいムードこそがキュアーの本領だとも思います。16年ぶりとなった本作はかなり後者寄りのモードで、絶望感に溢れた歌詞やヘヴィなリズム隊を軸とした重厚な楽曲が展開されますが、その一方でアレンジ面は全体的に非常に壮大で、どの曲もアルバムのクライマックスを張れる力強さを持っているように思います。単に沈鬱としているだけではない、その絶望すらもドラマチックに燃え上がらせてしまう、ゴスの、ひいてはオルタナティブロックの巨人としての凄味がここにあります。往時から全く変わらないロバートスミスの歌声が現代のタイトかつクリアな録音に乗っているのを聴けるという点でも胸が熱くなる。レジェンドの堂々たる帰還(であり、終焉??)といった一枚でした。

Synthesizer - A Place To Bury Strangers

逆に、こちらはなぜか今80年代のノイズロックのサウンドを貫いている人たち。"Psychocandy"期のジザメリがゾンビと化したようなあまりにも荒いノイズを、Sonic Youthの影を感じるNYパンク / アンダーグラウンドのカオスさと性急さに乗せて、さながら濁流のようにこちらを飲み込もうとする強烈な一枚でした。M1 "Disgust"のイントロから超高火力のサウンドに面食らってしまうのですが、M5 "Bad Idea"が特に凄まじく、ノイズの嵐の中で楽曲の形がギリギリ保たれている感じが完全に一周回って最近のhyperflipとかにも近しいのかもなと思ったりしました。

plastic death - glass beach

エモであり、同時にプログレでもあるような、今まで絶妙に聴いたことがなかったバランスの音楽だなと思いました。プログレやフュージョンを思わせる大胆な展開と緻密な構成、そして高い演奏力で、聴き応えたっぷりの壮大な世界観を構築する一方、その中身になる個々のフレーズやボーカルのダウナーな歌声はかなり感傷的でエモっぽく、なんというかジュブナイルもののSF映画にめちゃくちゃ合いそうな雰囲気。強いて言えば、インディーのエモに限りなく近づけたBMTHというのが近いのかなと考えていましたが、書きながら聴き返して、もしかしてRADWIMPS……?という気持ちにもなってきました。『アルトコロニーの定理』前後の時期でさらに壮大なスケールを指向していた世界線のRADはこのバランス感覚になっていたのかも。いずれにせよ、テクとエモの間のすごく良いラインを突いた音楽性だなと思います。

Disaster Trick - Horse Jumper of Love

スロウコアというジャンルの存在をまともに意識するようになったのが本当にここ一年くらいのことなのですが、枯れたギターサウンドと重たいリズムに強い魅力は感じつつ、ジャンルとしての塊から一歩踏み込んだ、個々のバンドのスタイルの違いまでちゃんと聴き込んで理解できているわけではないのが個人的な現状です。ただその中で、ひときわ個性が立って聴こえたのがこちらのアルバムで、上記の枯れたギターサウンドと重たいリズム、そしてエモのコード感というスロウコアの要素は確かに押さえつつ、豊かなメロディラインや深いリバーブのかかった轟音など、どちらかというとシューゲイザー的な湿っぽいアレンジが乗っていたのが印象的でした。他人の空似的なところがある2ジャンルだと思うのですが、この重たさというか閉塞感の中で漂う感じをシューゲイザーに求めていた節もある気がしていて、いわゆる「エモゲイズ」と呼ばれるようなParannoulやTitle Fight、そして揺らぎなどともパラレルの関係にあるのかなと思いました。

Volume 9 - Bardo Pond

21分超の大曲であるM4"War Is Over Pt.2" があまりにも凄すぎる。スロウコアにしてもゆっくりすぎるくらいにゆっくりと、霧の湖に浮かんで漂うような幽玄な演奏を体に染み込ませたのち、10分を過ぎたあたりからじっくりとビルドアップして、気付いたら大海原で太陽を眺めていたような爆音の大団円に到達しているカタルシスはこの上ありません。今年のシューゲイズ系のリリースの中でも屈指の名トラックだと思います。深いリバーブのかかった出音と、テーマを繰り返す中から衝動的に逸脱するプレイングが本当に気持ちよくて、ずっと同じパターンの上でインプロを繰り返しているだけなのに、無限に聴けてしまう。2月のリリースとあり、今年の冬場に1人で車を運転する時はよく流していました。特に、とある用事のために真冬の朝4時に車を走らせていた時にも流していたのですが、その時の凍てつく寒さと徐々に白んでゆく空の情景と分かちがたく結びついていて、それも含めて今年の思い入れの強い一曲となりました。

Rack - The Jesus Lizard

26年ぶりの新譜にも関わらず、"Goat" など90年代の名盤たちと全く同じテンションで聴くことができて素直に驚きました。シンプルなペンタトニックの渋さを基調にしつつ随所で一癖も二癖も加えた特徴的なギターリフを軸に、エッジの聴いたサウンドでリフとユニゾンしながら絡み合う攻撃的なベース、終始タイトかつパワフルにビートを刻み続ける骨太なドラムと、ハードコアの「速くしたBlack Sabbath」的な側面も再認識できる、ヘヴィなロックが好きなら一聴してねじ伏せられる強烈なパワーを持ったアルバムだと思います。一度ライブを見てみたいし、聴いていると楽器でデカい音を出したくなります。

Underground Renaissance - Us

音源もそうなんですが、フジロックで見たライブがかなり印象に残りました。The Strypes以来の、ブルースをルーツに真っ直ぐガレージパンクをやっている、暑苦しくも爽やかなムードの非常に気持ち良いバンドです。ライブで一曲が終わるごとに毎回ビシッとお辞儀するのが良くて、パンキッシュなアティチュードとは裏腹に真面目な人たちなんだろうな……という印象です。
なんといってもブルースハープ専任のメンバー(Pan Hirvonen)がいるのが良いのです。前提としてめちゃくちゃ上手いし、ボーカルと分かれていることでリードが2人いるような華やかさも感じました。ライブだと、ハッピーマンデーズのベズやビークルのケイタイモみたいに、ヒマな時は踊りまくって盛り上げ役に徹しているのも好感持てました。ギターが2人ともソロを弾き倒すのと、リズム隊がハードコア好きそうなストイックかつ熱い演奏をしていたのも良かった。また後から知ったのですがギタリスト2人とブルースハープのPanは兄弟らしいです。総じて、なんというか応援したくなる感じのバンドでした。今後の展開も楽しみです。

for the rest of your life - twikipedia

ブラジルの宅録シンガーソングライターらしい。宅録万歳、SoundCloud万歳と声を大にして叫びたくなる内容です。同時代の宅録SSWとしてParannoulからの影響を公言しているそうですが、Longinus Recordings周辺のダウナーな感じはあまりなく、むしろポップパンクのような突き抜けた明るさを感じる曲が多いのが好みでした(ボーカルのミックスバランスはかなりParannoulですね)。例えるならば、ギターポップが好きすぎたUnderscores、元気なParannoulといったところでしょうか。これ以前の作品ではいわゆるハイパーポップやemo rap的な楽曲を制作していたようで、そこからあえてギターサウンドに手を伸ばすにあたってそうした明るさ的なところに目が向いたのかもしれません。ロックスターにはなれなくても、部屋で1人高らかに爆音をブチかまし、ロケットを打ち上げ、それを地球の裏側まで届けることはできるんだという、そのことを本当に大事にしていきたいものです。
(しかし、Parannoulの影響力の大きさはまさに2020年代前半を形作ったなあとしみじみしてしまいますね……)

for a moment i saw myself as inexorably beautiful - smiling broadly

またコテコテのインターネット宅録が来たな~と思ったら、Twinkle Parkの別(新?)名義らしいです。Eleanor Forte、小春立花、鈴音アリカといった合成音声の使用はもちろん、エモ、シューゲイザー、ブレイクコア、Nintendo64のサントラ、そしてアニソン(M2 "close" でのあまりにも露骨な "God knows…" の引用は必聴)と、ここ数年のインターネットインディー音楽が参照していた要素を全部乗せしたような濃厚な一枚でした。インターネット音楽をリスナーとして追っていた身としてもグッとくる部分が多く、同好の方にはぜひお勧めしたい内容。Bandcampでの紹介文によれば、Twinkle Parkとして楽曲を発表し始めてからの6年に渡って制作していた楽曲たちらしく、インターネットシーンで活動してきた中で見えていた景色が反映されていると考えれば、全部乗せみたいになるもの自然なことなのかもしれません。先のemo rapからギターロックに転向したtwikipediaもそうですが、様々な要素が「逆にカッコいい」みたいになるギリギリの大味さ/荒さを見極めて貪欲に取り込んでしまえるインターネット宅録作家の器用さには改めて敬服するばかりです。

おとぎ話を追って - Muuelly

年末にものすごいのが来ました。年間ベスト記事って、年末のリリースの扱いが難しくなりがちという課題があると思っているのですが、そういうのを飛び越えて突き刺さってしまう。フレネシ、やくしまるえつこ、さよならポニーテール、Nyaronsで育ってきた私の感性は、このウィスパーボイスとチープなトラックの組み合わせが生み出す、超然としたイノセンスと不可思議なノスタルジーから逃れられない。調べてみると、制作で錚々たるメンバーが関わっていることがわかるのですが、肝心のボーカル「ほとり」が何者なのかは一切わからず、しかしそのミステリアスな感じがまた最高だなと思います。「ドリームポップ」と一言で銘打たれているものの、その実は一般的なドリームポップというよりも、Vaporwave以来の諧謔混じりのレトロ趣味と、フレネシやさよポニのような日本のインディーアーティストたちが平成のサブカルチャーの中で独自に育んできた美学をも継承した、複雑な文脈の上に成り立つ作品のような気がします。上記のあたりを聴いてきた人には問答無用で刺さるのではないでしょうか。これからどのような活動をしていくのか、とても楽しみです。

niconico - kuragari

今年のシューゲイズ系のリリースでは断トツでヤバい内容だと思います。もはや「シューゲイズ」や「ノイズロック」という形容では不十分に思えるほどの、猛烈なノイズの嵐。前作まではかろうじて残っていたビートがほとんど希薄になり、音楽としては全くめちゃくちゃな状態になっているはずなのに、完全なアウトサイドに逸脱してしまうことは決して無く、コード進行とメロディから成る歌モノとしての面影がまだギリギリで保たれているところに強烈な切なさを覚えます。例えるなら、エヴァ旧劇のデカ波や、進撃ラストの終尾の巨人を見た時の感覚に近いのですが、音楽でその気持ちになったのは初めてでした。宅録というインディペンデントなスタイルが生み出した怪作にして大傑作です。

The Time Machine School - kinoue64

宅録作ではこちらも素晴らしい作品でした。アップテンポながらどこかよそよそしい打ち込みのドラムと、ノイジーなギターと、低い声で囁くようなボーカルとが、どれも絶妙に不整合で、だからこそ作家が一人でギターを掻き鳴らし歌う姿が際立って見えて良いです。3月にライブを見ることができたのですが(ライブ活動をしていることすら知らなかった)、わざわざステージの端っこに立って一人楽しそうに踊りながら演奏するステージングがまさにそんな感じでした。これまではVOCALOIDを使った楽曲が中心でしたが、本作以降(今年だけでフルアルバム3枚、EP1枚という多作っぷり)では自身での歌唱がメインとなっていて、個人的にはこちらの方が好きかも。アンサンブル全体のバランスで見たときにどうしても中〜高音域が要求されてしまうシューゲイザーのボーカルにおいて、あえて低い声で埋もれさせる発想はまさにParannoul以降だなあと思いました。ちなみにAsian Glowとは交流があるみたいですね。

(come in alone) with you - Magnolia Cacophony

"Vocaloid Shoegaze" という概念に真っ向から挑んでこれを超えられるものはもう出てこないんじゃないか。この記事ではあえて順位とかは付けていませんが、1枚だけ選んで挙げろと言われたら間違いなくこのアルバムになります。My Bloody Valentineやその子孫たち(Guitarやburrrnなどを想起)へ直系で連なるオーセンティックなノイズギターに、あえてボーカロイドを選ぶところから伝わるキャッチーでエモーショナルな歌メロへの指向を掛け合わせて「轟音+美メロ」というシューゲイズの根幹を真正面から完璧に換骨堕胎した傑作。日本でしか起こり得ない特異な文脈ゲームの極北として、・・・・・・・・・『』に並ぶ邦シューゲの金字塔とすら言える作品です。

本作ではボーカルに重音テトSVと歌愛ユキとが使い分けられており、この点も個人的に興味深いポイントでした。自分もこういう合成音声を使った曲を作ることがあるのですが、Synthesizer Vは従来のボーカロイドと比べて「合成音声っぽさ」がかなり希薄になっているため、いわゆる「電子の歌姫」的な美学を軸とするやり方で曲を作るのもなんか違うんだよなと感じていました。その一方で、合成音声であるところに何か意味を見出そうとしてしまう気持ちもあり。

本作収録の「空」に出会ったのは、ちょうどそんなことを考えながらボカコレ2024冬に初音ミクの曲を投稿したタイミングでした。実際に意図されているところなのかは分かりませんが、合成音声っぽさとかボカロックっぽさに全くとらわれていないような、突き抜けたシューゲイズバンドの音源と言われても遜色ないサウンドをボカコレのフィールドで決めていたことにかなりの衝撃を受けました。「Synth Vって、もう合成音声だからとか拘らずにもっとフラットなツールとして扱ってしまってもいいんだ」という気持ちが確信に変わった瞬間でした。

というかむしろ、Synthesizer Vというツールの可能性はそこにこそあるのかもしれません。自分で歌わない / ボーカルがいない人に向けて、「ボカロック」や「ミクゲイザー」みたいなマナーから自由に開かれた選択肢を与えるということ。その一方で、キャラクターに愛着を持ったり、人格を見出してメッセージを託すような合成音声特有の親しみ方も両立させられること。少なくとも、Synth Vの扱いに悩んでいた自分にとっては、そういった新たな地平が見えてくるような作品でした。

mikgazer 2024 - 路傍の石

"mikgazer 2024"というアルバムタイトルを最初に見たとき、「大きく出たなあ」と思ってしまったのですが、聴いてみて確かにこれは紛うことなき「ミクゲイザー」だなと思いました。轟音のギターサウンドに初音ミクの声を掛け合わせたときの、音色的にも概念的にも透き通ったものがノイズの中心から聞こえてくる代えがたい感傷は間違いなく受け継がれていて、ただその一方で、ナカノイズやWintermuteといった往年のミクゲイザーPが「ボーカロイド」から「シューゲイザー」にアプローチした印象だったのに対し、こちらは逆にシューゲやオルタナへの愛着からスタートしている感があり、ミクゲイザーではありつつCruyff In The Bedroomや東京酒吐座のような硬派な邦シューゲが想起されるサウンドなのが新しくて面白かったです。

路傍の石は生ボーカルを据えたバンド形態でのライブ活動も活発で(3月にライブを見ることができました)、そちらでは「ボーカロイド」の文脈があえて強調されていないのも面白いポイントだなと思います。先ほどのMagnolia Cacophonyや、11月のVOC@LOID M@STERで頒布されていたコンピ「NO-TERNATIVE」なども併せて、「ボカロだから」とか「バンドじゃないと」みたいな垣根が(技術の進歩も相まって)徐々に融解していっているんだなあと感じます。そうした2024年のミクゲイザーの旗振り役という意味でも、"mikgazer 2024"というタイトルは象徴的です。なお、今年はこれ以外にフルアルバム2枚+単発曲多数をリリースしているという多作さで、その中ではSonic Youthを意識した曲やポストブラックメタルに接近した曲もあり、自らの嗜好に忠実に、次々と垣根を乗り越えて形にしていく器用さと熱量が凄いなと思っています。これからの活動も楽しみです。

ひとりごと - inuha

シューゲイザー、ポストロック、エレクトロニカなど、いくつもの影響元が複雑に絡み合っていることを感じさせる音楽性ながら、どの曲も極めてキャッチーかつエモーショナルな歌モノで、あくまでも「ボカロ」の「いい曲」としてパッケージしようとする執念と、地に足をつけてそれを実現できる卓越した作編曲の才能に驚嘆する一枚でした。特にM5「バンドワゴン」は個人的な今年のベストトラックの一つです。このリファレンスが単純に見通せない音楽性と、それにも関わらず「いい曲」すぎてねじ伏せられてしまう感じはBUMP OF CHICKENにも通ずるところがあるなと感じます。結局、多種多様な影響を貪欲に吸収した上で、それをポップに提示できる人が好きなんですよね……(BUMPの場合は、特に初期は無自覚だったのだろうけど)。どうもまだ10代らしく、とんでもない人が現れたなと慄くばかりです。

おわりに

以上、今年聴いて特によかったなと思ったアルバムたちでした。改めて振り返って、ひとつ「ニューウェーブ」みたいな軸を持って音楽を聴けたのはよかったなと思います。仕事がキツくてなかなか音楽を掘れない期間もありましたが、空いた時間で積んでいたディスクガイドや熱量のある個人ブログの選盤から良さげなものを見つけて流しておく、みたいなある程度体系立った(流れを意識した)聴き方が徐々にできるようになってきた実感はあるため、来年はその感じで新譜digも継続していければと思います。

素晴らしい音楽を生み出してくれた方々に心から感謝します。また来年も素敵な音楽体験ができれば嬉しいです。


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