「首の手術後に腕が動かなくなる?C5麻痺の原因と予防法に迫る」
今日は「C5麻痺」について掘り下げていきます。
これは首の手術後に腕が上がらなくなる、結構つらい症状。
聞いたことがない方もいるかもしれませんが、
手術を受けた患者さんの一部に起こる合併症で、
発生率が5%ほどと意外と高いんです。
なんでこんなことが起こるのか?そして予防法は?
さっそく見ていきましょう。
C5麻痺って何?そのメカニズムをざっくり解説
まず「C5麻痺」という言葉から説明します。
C5とは、首の骨、つまり頚椎の一部です。
頚椎には脊髄が通っており、
その脊髄から腕や肩の動きを司る神経根が分岐しています。
C5は肩や腕の動きに関係しているため、
ここで麻痺が発生すると腕が動かしにくくなるわけですね。
つまり、手術後に腕がうまく動かなくなるというわけです。
この症状は、特に頚椎手術の後に発生することが多い
とされていて、頻度はおおよそ5%前後。
とはいえ、手術を受ける患者さんの5%が
麻痺になってしまうわけですから、
医療に携わる人にとっては結構な問題です。
そこで、なんとか予防法を見つけようと
研究が行われているわけです。
そもそも、なぜC5麻痺が発生するのか?
では、C5麻痺が発生する原因について見ていきましょう。
いくつかの仮説がありますが、
どれもまだ完全には解明されていません。
以下に、現在考えられている代表的な原因を挙げていきます。
神経根の損傷
手術中に神経根が直接的に損傷されることが原因ではないか、
という説があります。
手術ではどうしても神経根に近い部分を操作するため、
直接的な損傷が避けられないこともあるのです。
神経の牽引(引っ張り)
手術中、首の中で神経根や脊髄が引っ張られることがあり、
この引っ張りが原因で麻痺が生じるのではないか
という考えもあります。
特に、複数の椎骨をまたぐ除圧手術(多椎間除圧)では
神経が大きく引っ張られる可能性があるのです。
血流の変化
また、手術中や術後に血流が変わることが
原因である可能性も指摘されています。
神経は血流に依存しているため、
血流が悪くなると神経への酸素供給が不足し、
ダメージが蓄積される可能性があるのです。
脊髄の移動
ここで特に注目したいのが、
手術後に脊髄が圧迫から解放されることによって、
脊髄が移動するという現象です。
手術後の脊髄移動が神経根を引っ張る「牽引」の
原因になるのではないか、
という説が最近注目されています。
この研究でも、脊髄移動によりC5麻痺が発生する
可能性に焦点を当てています。
対象と方法:どんな研究が行われたのか?
今回の研究の対象となったのは、頚椎手術を受けた190人の患者です。
これらの患者は、頚椎の圧迫や狭窄症といった病気があり、
手術を受けることで症状の改善が期待されていました。
手術には、首の前方から行う「前方アプローチ」と、
後方から行う「後方アプローチ」の2つがあり、
それぞれの方法でC5麻痺のリスクが検証されました。
また、手術後にはMRIなどの画像診断が行われ、
脊髄や神経根の位置や圧迫の状態を観察しました。
こうして、C5麻痺がどのように発生するのか、
そのメカニズムを探ろうとしたわけです。
研究結果:C5麻痺の発生とその原因に迫る
分析の結果、190例中5例(約2.6%)で
C5麻痺が発生したことがわかりました。
これが多いとみるか少ないとみるかはさておき、
原因がわかれば予防が可能になるわけです。
発生時期
C5麻痺は、手術直後に発生するわけではなく、
術後2〜4日後、もしくは3週間後に発症することが
多いことがわかりました。
遅れて麻痺が生じるということは、
手術中の直接的な神経損傷よりも、
術後の変化が影響している可能性が高いということです。
手術の種類と麻痺リスク
今回の研究で興味深かったのは、
前方アプローチと後方アプローチ、
どちらの手術方法でもC5麻痺は発生するという点です。
しかし、多椎間の除圧手術を行った場合には
リスクが高まることが確認されました。
多椎間除圧手術では、脊髄が大きく移動しやすく、
それにより神経根が引っ張られて麻痺が生じる
可能性があるということです。
脊髄の移動
研究の画像診断からは、
手術後に脊髄が圧迫から解放され、
減圧方向に移動することが確認されました。
この移動が神経根を引っ張る原因になり、
C5麻痺が引き起こされている可能性が示唆されています。
C5麻痺発生のメカニズムとその対策
今回の研究から得られた知見をもとに、
C5麻痺の発生メカニズムについて詳しく見ていきましょう。
以下の2つのポイントに注目することで、予防や対策が見えてきます。
1. 脊髄の移動による牽引
手術後に脊髄が圧迫から解放されると、
自由に移動することができます。
この移動が、脊髄から分岐するC5神経根を
引っ張る原因になるのです。
特に多椎間の除圧手術を行うと、
この牽引が強まるため、
麻痺が発生しやすくなるというわけです。
2. 椎間孔の狭窄と神経根の位置変化
C5麻痺が発生した患者には、
手術前からC4/5やC5/6部位に狭窄が見られました。
手術によって脊髄が移動すると、この狭窄のある部分で
神経根が引っ張られる(tethering)ため、
麻痺が生じやすいのです。
予防と今後の課題:どのようにしてC5麻痺を防ぐか?
今回の研究により、
C5麻痺の発生には術後の脊髄移動が大きく
関与していることがわかりました。
では、どのような予防策が考えられるでしょうか?
1. 手術前のリスク説明
まず重要なのは、手術を受ける前に、
患者さんにC5麻痺のリスクがあることをしっかり説明することです。
合併症について事前に理解してもらうことで、
手術後に万が一麻痺が発生した場合も、
患者さんが納得しやすくなります。
2. 術後の監視
術後の数日間は特に注意が必要です。
麻痺が遅れて発生することが多いため、
術後2〜4日間は定期的に患者さんの様子を確認することで、
早期に異常を発見できます。
3. 追加手術の選択肢
C5麻痺が発生し、自然回復が見込めない場合には、
追加の減圧手術を行うことも有効です。
牽引されている神経根の位置を調整し、
再び脊髄が動かないようにすることで、
麻痺が改善する可能性が高まります。
まとめ:今後の臨床応用に期待
C5麻痺は、頚椎手術後に発生することがある厄介な合併症です。
しかし、この研究によって、
その発生メカニズムが少しずつ解明されつつあります。
特に、脊髄の移動が神経根を牽引し、
それが麻痺の原因となる可能性があるという点は、
今後の手術計画や予防策において非常に重要です。
また、今後の課題としては、
脊髄や神経根の動きを予測し、
牽引や狭窄が起こりにくい手術法の開発が期待されます。
医療が進歩すれば、こうしたリスクを最小限に
抑えることができるようになるでしょう。
タイトル: 「頚椎術後に発生するC5麻痺の成因と予防」
著者: 高瀬 創, 村田 英俊, 中村 大志, 上野 龍, 池西 優理子, 園田 真樹, 善積 哲也, 佐藤 充, 周藤 高, 川原 信隆
掲載誌: 脊髄外科 (Spinal Surgery)
巻号: 第25巻 第3号
ページ: 304-306
発行年: 2011年12月
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