文部科学省「大学入試のあり方に関する検討会議(第12回)」議事概要7月21日(火)
1. 外部有識者・団体からのヒアリング
【宮田 一雄(日本経済団体連合会 教育・大学改革推進委員会企画部会長)】
・デジタル革新が急速に進展し、世界の産業構造が劇的に変化する。Society5.0において、デジタル技術を最大限活用しながらイマジネーションの想像力と、クリエイティビティの想像力を発揮して、様々な社会課題を解決し、新たな価値を生み出す人づくりが重要である。
・こうした観点から、Society5.0の人材には文系・理系であることを問わず数理的推論・データ分析力、論理的文章表現力、外国語コミュニケーション力などのリテラシーにくわえ、論理的思考力と規範的判断力等、高度専門職に必要な能力が求められる。
・入試の現状の課題として「近年、センター試験を利用する大多数が私立大学であり、かつセンター試験の結果のみで入学者選抜を行っている大学もある。」「大学全入時代を迎える中、定員割れを防ぐために実質無試験で学生を入学させるなど」APが形骸化している大学も存在する。入試の改革が求められる。
・自らのAPに基づいて「学力の3要素」を評価する入学者選抜のあり方を改めて真剣に考えることが必要。
・各大学は共通テストと個別入試との組み合わせで受験者が当該大学入学後の教育・研究に必要な学力を有しているかを判定することが重要。
・政府に対し共通テストの実施目的、各大学が実施する個別入試との役割分担の明確化を求めている。会員企業へのヒアリングでは、共通テストは各大学の提示する基準点に到達しているかどうかを判断するための試験だという意見や、大学教育を受けるための最低限の学力を担保するための試験という意見があった。一方個別入試は、APに基づき専門性の高い講義に対応できる学力を評価する試験であるという意見や、論理的思考力や表現力を確認するために必要という意見があった。各企業からは共通テストと個別入試の組み合わせでAPに沿った選抜を行うべきとの共通認識が得られた。
・ビジネスにおいて英語は世界共通語となっていることや、アジア諸国と比べても日本人の英語力は低いことを踏まえれば、英語4技能をバランスよく育成することが喫緊の課題。新学習指導要領では英語4技能を総合的に扱う科目や英語による発信能力が高まる科目の設定などの取組みが求められている。都市部と地方の地域格差を踏まえると、入試における英語4技能の測定は、Society 5.0の人材に必要な能力の評価だけでなく、英語の授業方法の改善、ひいては教育格差の是正につながる。大学入試センターは「成績提供システム」において、英語4技能を評価する英語検定試験の成績を一元的に集約・管理した上で、多くの大学が英語検定試験の成績を入試に活用できる仕組みを構築することが必要。
・「数学の試験」では、Society5.0では、数理的推論・データ分析力等が求められることを踏まえると、文理を問わず、数学の試験は全ての大学が課すべき。「記述式問題」では論理的な文章構成・表現力を測定する観点から、個別入試に記述式問題を課すべき。ヒアリングした企業からも、記述式問題は、文章表現力を評価するために、各大学の個別入試で実施すべきであり、他方、共通テストでは、採点上の公平性の担保が難しいことから、記述式の導入は避けるべきとの意見が出た。
≪意見交換≫
・Society5.0は学術的な基礎がないことについてどのようにお考えか。(芝井委員)
→Society5.0は経団連の方で企業・有識者の方々からの意見をいただき、まとめあげた。学術的基礎がないのはその通り。産業界で大事にしていることは将来の社会をイメージした上で、子供たちを育てていくことが重要であると考えている。(宮田氏)
←「Society5.0では、数理的推論・データ分析力等が求められることを踏まえると、文理を問わず、数学の試験は全ての大学が課すべき。」というのは、小中高大の関係者にとってはかなり不思議な提言。Society5.0を全ての人が共有できれば、そういうこともあるかもしれないが、未来のあり方はそれぞれの人が描くべきであり、単純にバックキャストして提言されても現実感がない。(芝井委員)
・Society5.0というあり方はあると思う一方で、そうではないような社会のあり方を考えている大学もあるのではないか。また、入試に英語4技能を導入することで教員間のバラつきが一定になるというより、都心部であれば塾に通うなど、さらに格差が広がるのではないか。(両角委員)
→英語民間試験を受け成績提供システムに登録され、その結果を判定に使う流れになればよい。これは教育界の先生のご意見を伺った上での意見。教育が入試に偏っている現実がある。聞く・話すを含め大学のAPに英検何級等が含まれていれば検定試験を受けさせるということに繋がる。(宮田氏)
←個別試験で民間試験などを活用する大学も増えている。共通テストでなぜ必要とお考えか。(両角委員)
→大学に任せると、重視する大学と重視しない大学がでてくる。全大学が変わってほしい。(宮田氏)
←むしろ大学教育の方で、英語教育を充実させていくという考え方もある。(両角委員)
→基礎的な能力として身に付けた上で、大学入学後すぐにグローバルな人たちとコミュニケーションがとれる能力などを身に付けてほしい。(宮田氏)
・経団連の会員企業でリベラルアーツを重視している姿勢が見えていない。会員企業にどのように理解を求めているのか。また、会員企業は比較的就職戦線に影響を与えるが各大学のAPをどれほど理解しているのか。(牧田委員)
→リベラルアーツ教育について、大学の先生と話した上で初めて理解した。リベラルアーツ教育が必要であると文章で明確にし提言に盛り込んだ。2点目のご質問はその通りで、企業側は体育会系等を採用し、大学で何を学んできたのか、論文を読んでいる人事部門の人があまりいなかったのは事実。これまでの姿勢を反省し、論文等を採用の際にみるとか、専門性を持った人材の採用に心がけている。(宮田氏)
【春田 雄一(日本労働組合連合会 経済社会政策局長)】
・大学入試と高校教育や大学教育との役割分担は、「学歴社会」から何を学んできたのかという「学習歴社会」へ転換し、過度の年齢主義による入学・就職システムから脱却しなければならない。そして、再び学校等で学び直しができることが重要で“学びの場”の多様性を拡げる必要がある。
・成人年齢の引き下げや選挙権など、受験生の世代を取り巻く環境は、大きく変化している。将来を見据えたときに対話型の方に進むのではないか。小論文や面接で選抜していたものを、プレゼンなどで何を大学で学びたいのか、対話をするような方法が大事になってくるのではないか。
・共通テストを大学入学資格試験と位置づけ、この資格取得をもって志望大学の個別入試を受ける。共通テストなので、学習指導要領に基づいてシンプルな形に持っていったらどうか。1点刻みの入試の改善の必要性と入試の公平性・公正性の確保のバランスは、文科省が責任をもち公平公正な制度を構築し、丁寧な説明につとめるべき。CEFRは学習の成果を大枠で判断するものさしであり、このような判断基準も必要である。
・国語・数学の記述式問題導入は、約50 万人の受験生の解答を短期間で正確に採点できるのか、そのための採点者や採点の質が確保できるのか、受験生が正確に自己採点できるのか懸念される。
・英語コミュニケーション能力は、公平公正性の観点から共通テストで行うべき。
・個々の大学において、理解力・思考力・創造性・問題解決能力等の学力の質を多角的にはかることができる。共通テストの枠組みで評価すべきか否かについては、評価すべきでないと考える。記述式問題導入は自己採点結果に確信を持てないまま出願先を決めざるを得なくなり、教員も自信をもって進路指導ができなくなるなど、様々な不安や困惑の声がある。
AOはペーパーで読み取れない受験生の人物像を、対話により多角的に引き出すことができる役割がある。また、ノンエリート大学で学力によらない能力を評価できる。学力は大学の中で高校の復習を行い補っている。個別入試への国の支援の在り方は、大学の入学選抜方法の多様化や評価尺度の多元化を支援すべきであり、AO入試を充分に実施できない主な要因は人手不足である。そのために、教員の雇用の改善に向けた費用や制度の整備への支援が必要である。大学入試、特に二次試験で丁寧な対応が必要ではないか。そんな中で、面接やプレゼン、小論文を課していくことになると、人員不足の話もある。財源の問題含め、非常勤の方も多い。そういった意味での大学への助成金や人への支援を含めて大学入試は考えないといけない。その時に財源を投入すれば広い意味での人的投資に繋がっていく。
≪意見交換≫
・既に高校を卒業されていて、高卒資格を持っているが高等教育の進学機会がない方が相当数いる。そのような方々への入試のあり方について、詳しくお話をいただければ。(末富委員)
→誰もが等しく教育を受ける、大学入試においてもその意味では同じ。入試の詳しい仕組みまでは分からないが、入試を受験したい者が全て受験できる形で仕組みを作っていく必要がある。(春田氏)
・入試を変えるよりも大学教育を充実させてくれと聞こえる。根本は大学をどうにかしてくれということではないかと思うがその点についてはいかがか。(渡部委員)
→今の入試を変えても教育は変わらない。入試が変わることでより何のために大学に行くということをプレゼンテーションしてもらい、大学に入った後のことについて意識してもらえれば良い。(春田氏)
・日本は早くに学部で専門教育に入るため経験していないことで専門教育をしている。自分がなりたい職業を選ぶタイミングが世界的に早いと感じている。早期に特定の学問分野に進ませることは日本の教育にとって良くないのではないか。(芝井委員)
→発言された側面はある。ただ、入試を通じてなぜ大学に行くのかは入試改革することで、目的意識を思ってもらえたらいいなと考えている。(春田氏)
2. 大学入学者選抜に関する実態調査について
・文部科学省より【大学入学者選抜に関する実態調査(概要)】について、エビデンスに基づいた検討に資するため、R2年度入試の選抜区分(一般、AO、推薦)ごとの選抜実態について総合的な調査を行っている旨説明があった。
≪意見交換≫
・学部別調査について「入試方法別の募集人員の割合を今後どのようにしていく予定か」は経営方針にも関係しているため機密情報扱いになっている大学もある。募集人員は出願状況を踏まえ、少しずつ変えている大学もあり予定で決めるものではない。また、結果的に推薦入試が5割を超える大学もあり、設問に答えにくい大学がある。「個別選抜」の配点や換算割合が非公開の大学もある。「入学者の多様性を確保するための取組」については、年齢・性別を配慮してはならないというのが文科省の方針ではなかったか。(小林委員)
→全ての項目で大学名が分からないように対応する。「入学者の多様性を確保するための取組」は入試だけでなく大学全体の取組で回答いただけるのではないかと考えている。現状でお答えできる範囲で答えてほしいと考えている。「入試方法別の募集人員の割合を今後どのようにしていく予定か」はシンプルに増やすか減らすかを尋ねており回答が出来ない場合は対応を考えないといけない。
3. 自由討論
・実態調査について、これほど大規模なものはこれまではなかった。「これまでの意見の概要」をさらに整理し、より幅広く一般の方からWebでの意見集約をしていただきたい。(柴田委員)
→Web意見募集を実施すべきだという意見は最初のころからあった。「これまでの意見の概要」の整理は座長・副座長と相談の上、検討したい。(文部科学省)
・この会議の進め方について意見を述べたい。共通テストを見極めた上で報告を出さなければ今後の大学入試のあり方を検討したことにはならない。テストについての信頼性・公平性・妥当性の検証。試験の質や得点分散、第1回と第2回共通テストの結果が重要になる。検討期間は柔軟に考える必要がある。(末富委員)
→検討スケジュールの件は事務局とも相談している。(座長)
・大学入試で「主体性評価」の観点があり、その観点のヒアリングはなかったと思うがいかがか。(萩原委員)
→別の会議で協議が行われている。状況をまとめて報告することはあるかと思う。(文部科学省)
←再度きっちりと整理しておかないといけない。(萩原委員)
→どの様な形で2つの会議の連携が取れるか相談したい。(文部科学省)
・検討スケジュールは共通テストの実施を見極めて取りまとめることが重要。共通テストを身軽なものにしてはどうか。記述式や英語4技能評価の扱いは、各大学の個別試験で実施することに賛成だが共通テストの方向性の中で判断をしていく必要がある。また、各大学が個別試験で実施する場合には、支援が必要。(斎木委員)
・私立大学は自主性、自律性に委ねて多様性を認めるべきであると主張しているが、共通テストと個別入試を組み合わせる方向性など統制色が強くなってきている。芸術系やスポーツ系が共通テストにどれほど重きを置いているかはヒアリングしたい。英語4技能で驚いたのはCEFRはきちんとした基準ではないこと。イギリス系の英語は査察機関もあり検証されて作成されているが英検等も適切な検証がなされているわけではない。(小林委員)
・共通テストはSATをモデルに複数回実施していくということが出発点であった。議論の途中では基礎学力テストを実施することとなっており、高校教育課程で一定の学力がついたことを証明できる。それができればAOやスポーツ推薦でも問題を解決できたが、「学びの基礎診断」に変わり選抜に活用できなかった。最後にどこかのタイミングで複数の解決案を示してほしい。バタバタと最後に案を決めるのではなく複数の案を示し十分な議論をしたい。(芝井委員)