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実はウチの犬、ちょっとだけ話す。 第七話「焼きたてクロワッサン」

 徳島駅前のデパートが来月末に閉店する。デパートはこの一軒しかないから困る人は大勢居るけど、郊外にできたショッピングモールなどに客足は流れてしまっていた。関西へのアクセスが良いから、そちらへ行ってしまう人も多い。

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「ああ、デパ地下のクロワッサンが食べたい」
 リビングのソファでスマートフォンをいじっていたら、給水器から水を飲んだタマがつぶやいた。デパートがなくなれば当然地下の食品フロアもなくなるのだろうけど、県民に長年愛されていた、神戸の有名なパン屋さんとかも撤退してしまうのだろうか。タマが欲しがっているのはそのお店の焼きたてミニクロワッサンだ。
「なんだか俺もクロワッサン、食べたくなってきたなあ」
「そうだろう? 一っ走り買ってきておくれよ」
「ええ、この暑いのに? というか、クロワッサンなんか食べちゃダメだろ」
 タマがこんなに人間の食べ物を欲しがるのは、爺ちゃんのせいだ。この前だってわざわざアイスクリームを買ってきていたし、俺が居ない時はやりたい放題なんだ。
「カサカサした茶色い皮でいいから、おくれよう」
「哀れっぽくしてもダメだぞ」
「ふん」
 情に訴えかけたのは一瞬だけで、すぐにいつものふてぶてしさを取り戻したタマは、リビングから続きの台所へ入っていった。その尻尾に「盗み食いするんじゃないぞ」と釘を刺す。クロワッサンのことなんか考えるから腹が減ったんだ。返事がないのにため息をついてスマートフォンに視線を戻したら、仕事を終えた母さんからのメッセージ通知があった。
『今デパ地下にいるんだけど、何かいる?』
「……あ、悪運の強い奴め」
 スマートフォンを持っている手がわなわなと震えた。母さんは特段タマに甘いわけではないけど、別のものをリクエストしたとして帰った時に奴が「クロワッサンが食べたかった」と言えば、俺を咎めるに違いない。
『クロワッサン……。タマの分も』
 台所から戻り、返信を入力している俺を見たタマがぺろりと舌舐めずりした。

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