にしやまゆう

小説/エッセイ/写真/イラスト/ごちゃまぜポートフォリオ@徳島

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  • ハリネズミのステさん

    ハリネズミのステさんの写真

  • 実はウチの犬、ちょっとだけ話す。in徳島

    徳島を舞台にしたファンタジー小説。高校生のタケルと、気が向いたときに話す犬のタマが主人公の「ファンタジーエッセイ」。気が向いたときに連載中。

  • 【ファンタジー小説】カエルの女神と夜の王

    【連載中】伯爵家の令嬢として育てられた両性具有のラナデアは、村はずれの森にある闇の館へ嫁ぐよう言い付けられる。夫となった領主は夜にしか現れず、暗い屋敷には亡霊や妖精、不思議な生き物たちが棲みついていた—。

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実はウチの犬、ちょっとだけ話す。 第一話「ケロケロピエール二世」

 実はウチの犬、ちょっとだけ話す。名前はタマ。タマなんて猫の名前じゃないかと思うけど、先代ペットの猫のタマが死んで悲しんでいた爺ちゃんがつけたから仕方がない。タマはオスで今年の十月に十歳になる。それで俺は飼い主のタケル。十六歳で徳島市内の公立高校の二年生だ。徳島ってどこか知っている?讃岐うどんで有名な、四国の香川県の下にある県だって言えば大抵の人は分かる。 「おい、また俺を置いていくのか」 「仕方ないだろ、まだこの時間は暑いぞ。蒸し蒸ししているし」  出掛けようとしたら毛繕い

    • ジャンクフードむしゃむしゃ

      • 実はウチの犬、ちょっとだけ話す。 第九話「うどんとバタリアンヌ三世」

         俺はうどんが好きだ。そばも好きだけど、本場香川県のお隣だから徳島にはうどん屋が多い。気軽さから大手チェーンのものもよく食べるがこれも美味しい。今日の昼は肉たっぷりのぶっかけうどんを食べてきた。体に良くないと分かっていても天かすを山盛りにしてしまうんだよね。 「ふんふん、いい匂いがするぞ。これは……かしわ天!」 「さすがだな。正解だよ」  リビングに入るなりトコトコと寄ってきたタマに、かしわ天も食べていたのを看破されて苦笑いした。 「タケルばっかり、ずるいぞ。俺だって天ぷら

        • 実はウチの犬、ちょっとだけ話す。 第八話「徳島のゆるキャラ」

           徳島県の公式マスコットキャラクターの「すだちくん」を知っている?特産品の「すだち」をモチーフにしたキャラクターで、緑の顔に弾けるような笑顔を浮かべ、イニシャルSの書かれた服を着てスーパーマンのような真っ赤なマントをはためかせている。平成五年に開催された東四国国体で誕生したキャラクターだから、俺より十歳も年上だ。ちなみに性別は男でも女でもない、中性。 「またうんこマンのグッズを買ったな、タケル」 「うん。駅ビルの雑貨屋さんに入荷していたから」  県の中心駅である徳島駅は複合

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        実はウチの犬、ちょっとだけ話す。 第一話「ケロケロピエール二世」

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        • 実はウチの犬、ちょっとだけ話す。in徳島
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        • 【ファンタジー小説】カエルの女神と夜の王
          8本

        記事

          実はウチの犬、ちょっとだけ話す。 第七話「焼きたてクロワッサン」

           徳島駅前のデパートが来月末に閉店する。デパートはこの一軒しかないから困る人は大勢居るけど、郊外にできたショッピングモールなどに客足は流れてしまっていた。関西へのアクセスが良いから、そちらへ行ってしまう人も多い。 「ああ、デパ地下のクロワッサンが食べたい」  リビングのソファでスマートフォンをいじっていたら、給水器から水を飲んだタマがつぶやいた。デパートがなくなれば当然地下の食品フロアもなくなるのだろうけど、県民に長年愛されていた、神戸の有名なパン屋さんとかも撤退してしまう

          実はウチの犬、ちょっとだけ話す。 第七話「焼きたてクロワッサン」

          実はウチの犬、ちょっとだけ話す。 第六話「エビフライと脚気」

           俺は中華料理が好きだ。徳島駅前にもある某有名チェーン店の中華はとにかく美味い、安い、早いの三拍子が揃っていてよく食べに行く。特にエビチリが好きでいつも必ず注文する。 「おい、尻尾をくれよ」 「ダメだよ。犬にはエビやカニがよくないって聞いたことがある」  とはいえ家族がご飯を作ってくれるし、行くのは大抵二週間に一度くらいだ。今日の夕飯のおかずはエビフライで、タマがねだっているのはその尻尾だ。 「本当か? 昔は食べてもなんともなかったぞ。そら、その四角いのに聞いてみろよ」  

          実はウチの犬、ちょっとだけ話す。 第六話「エビフライと脚気」

          カエルの女神と夜の王 第七話

           朝早くには立ちこめていた霧もすっかり晴れていて、薄い雲ごしに陽の光が届いていました。昨日は薄暗くなってから着いたからよく見えなかったけれど、闇の館の庭には様々な植物が生い茂っていました。まず目についたのは血のように赤い薔薇の花で、その鋭い棘で侵入者を阻むためか屋敷の周りをぐるりと囲うように植えられていました。ラナデアはそんな薔薇の壁にひとつだけ造られたアーチをくぐりましたが、そこの棘はちゃんと手入れされていたので新しい服を破かないですみました。 「なんてきれいなんでしょう」

          カエルの女神と夜の王 第七話

          実はウチの犬、ちょっとだけ話す。 第五話「アイスクリーム」

           二、三日前から徳島市内でもセミが鳴き始めた。このところ雨続きだったが今日は珍しく晴れている。駅前へ行ったら俺と同年代の少年少女で溢れかえっていたけど、このご時世、人がたくさん居過ぎると怖いからすぐに帰ってきた。 「アイス。アイスクリームは買ってこなかったのか」  リビングにある専用ベッドでくつろいでいるタマが不満そうに言うのに、首を横に振るとため息をつかれた。そもそも、お前はアイスなんか食べちゃダメだろう。  徳島の日差しは、首都圏に比べると格段に眩しい。ちゃんと日焼け止

          実はウチの犬、ちょっとだけ話す。 第五話「アイスクリーム」

          カエルの女神と夜の王 第六話

           あくる朝早く、初めてボガートに邪魔されずにぐっすりと眠ることのできたラナデアは、とてもすっきりした心地で目覚めました。景色を楽しみにしていたので急いで窓際へ行きカーテンを開けましたが、外は一面の白い霧で何も見えなかったのでがっかりしました。それからお腹がグゥと大きく鳴って、そういえば昨夜は夕食をとらずに寝てしまったことを思い出しました。 「今度から、ノックスさまの朝食のときに一緒にいただけるようお願いしなくっちゃ」  実のところラケルタはうっかりしていて新参者の夕食のことを

          カエルの女神と夜の王 第六話

          実はウチの犬、ちょっとだけ話す。 第四話「イギリスの友だち」

           俺には外国人の友だちがいる。留学はおろかホームステイすらしたことがないけど、今時ネットがあるからね。無料の通話アプリでしょっちゅう話している。教育熱心だった両親のおかげで三歳から英会話塾に通わせてもらえたから、あまり正確ではないけど俺は英語を話すことができるし、日本人と友だちになりたい外国人は世界中にたくさん居る。みんな漫画やアニメに夢中だからね。ブームは終わる気配をみせなくて、海外の友だち募集掲示板で相手を探すとすぐに見つかった。 「この騒ぎが収まったら日本へ行くから、ま

          実はウチの犬、ちょっとだけ話す。 第四話「イギリスの友だち」

          カエルの女神と夜の王 第五話

           ノックスは飲み物だけの朝食を終えるとどこかへ行ってしまったので、ラナデアは薄汚れた花嫁衣装を着たままひとりドローイングルームでぼんやりしていました。ベールの上に載せられた薔薇とオレンジの花輪はすっかり萎れてしまっていたし、白く幼い顔に施されていた化粧も取れかかっていました。けれどもこの屋敷には鏡がひとつもなかったから、ラナデアはそんな自分の姿には全然気がつかないでいました。 「おや、まだここに居たのかい。悪いね、つい片付けに夢中になってしまって」  ふいにラケルタの声がして

          カエルの女神と夜の王 第五話

          実はウチの犬、ちょっとだけ話す。 第三話「徳島のバス」

           今日も蒸し暑い。俺は徳島駅前バスターミナルで時間待ちしていた。徳島はとんでもない車社会で、公共交通機関はあまり発達していない。なんと全国で唯一電車が通っていないんだよ(代わりに汽車がある)。 「暑い。いや、寒い。息ができない」  背負っているリュックの中から声がした。実はこのリュック、普通のものではなくてペット用のキャリーだ。サイドはメッシュ生地になっていて息ができるし、内側には飛び出し事故防止用のショートリードが縫い付けられている。 「何言ってるんだ、息はできるはずだよ。

          実はウチの犬、ちょっとだけ話す。 第三話「徳島のバス」

          カエルの女神と夜の王 第四話

           ラナデアは主の花嫁のはずでしたが、屋敷の中はシンと静まり返り出迎えはありませんでした。だだっ広いサルーン(※玄関ホール)の真ん中には豪華なマントルピースをもつ巨大な暖炉があったけれど、時節柄火は焚かれておらず外よりも寒いくらいでした。そしてマントルピースを飾る鋳造レリーフに興味を引かれたラナデアが近づいてみると、花や葉、鳥や馬などのよくあるモチーフではなく、コウモリやトカゲ、それから悪魔などの不気味なものたちが象られていました。 「領主さまは、もういらっしゃるのかしら」 「

          カエルの女神と夜の王 第四話

          実はウチの犬、ちょっとだけ話す。 第二話「明け方の雷」

           明け方、不穏な雷の音で目が覚めた。タマのために冷房をきかせているから少し肌寒くて、被っている羽毛布団の中でモゾモゾしていたら枕元で声がした。 「タケル。お前怖くないのか」 「……タマこそ」 「俺は怖くないぞ。経験を積んでいるからな」  自分の方が長く生きているかのようなの言い草に、顔をしかめた。まだ九歳のくせに。デジタル表示の電波時計を確認すると四時半だった。もう一度寝よう。  次に目が覚めた時は九時だった。ゆっくり起き上がるとベッドにタマは居なかった。きっと一階で爺ちゃん

          実はウチの犬、ちょっとだけ話す。 第二話「明け方の雷」

          カエルの女神と夜の王 第三話

           ラケルタの言うとおり庭園らしき場所に差しかかってからゆうに二十分は走り続けて、ようやく屋敷の尖頭アーチが見えてきました。まだ明るい時間のはずなのに屋根の上の空はどんよりと曇っていましたが、呑気なラナデアはこれから雨が降るのかしらと考えていました。邸宅の大きな窓にあかりはなく、今にも幽鬼が現れそうな雰囲気だったけれどシルキーのミセス・ラピスに育てられたラナデアは別段怖く思いませんでした。 「ねえラケルタさん。このお屋敷にボガートはいるかしら」 「ボガート? そんなふざけた奴は

          カエルの女神と夜の王 第三話

          カエルの女神と夜の王 第二話

           いっこうに回るのをやめない半人半馬のふたりに話しかけるのを諦めたラナデアは、小さなため息をつくとまた元のように小屋の前にしゃがみこみました。わずかに頬を膨らませて地面を見つめていましたが、不意に蹄の音が止んだのでハッと顔を上げました。 「あんたが、ラナデアかい」  低いしゃがれ声でそう言ったのは、いつの間にか目の前に立っていた一頭の狼でした。狼の顔はラナデアのものよりもふた回り、いや三回り以上大きく、光沢のある灰色の毛皮とふさふさとした長い尾を持っていました。そしてその赤く

          カエルの女神と夜の王 第二話