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実はウチの犬、ちょっとだけ話す。 第三話「徳島のバス」

 今日も蒸し暑い。俺は徳島駅前バスターミナルで時間待ちしていた。徳島はとんでもない車社会で、公共交通機関はあまり発達していない。なんと全国で唯一電車が通っていないんだよ(代わりに汽車がある)。
「暑い。いや、寒い。息ができない」
 背負っているリュックの中から声がした。実はこのリュック、普通のものではなくてペット用のキャリーだ。サイドはメッシュ生地になっていて息ができるし、内側には飛び出し事故防止用のショートリードが縫い付けられている。
「何言ってるんだ、息はできるはずだよ。やっぱりその保冷剤、大き過ぎたかな」
 熱中症になっては困るから、タマのために通販で買ったアメリカ製の保冷剤をタオルに包んで入れていた。ちょっと奮発してLサイズを買ったから十三インチのノートパソコンくらいの大きさがある。背負っている俺にも冷たさが伝わるくらいだから冷やし過ぎかもしれない。
「いいから外に出せよ。犬だって座席に座ってもいいだろ」
「駄目だよ。きっちり頭まで入るキャリーの中に居ないと乗せてくれないぞ」
「ふん」
 徳島のバスは、体が完全に入るキャリーに入れていたら無料でペットを乗せてくれる(ただし蓋が閉まってもスリングは駄目だ)。電車や汽車なら手荷物料金がかかるからありがたいよね。他の県はどうか知らないけど、徳島にはまだ交通系ICカードが普及していない。だから現金か回数券で運賃を払い、定期券を持っている人は運転手に見せる。市内は均一料金で二百十円だ。

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 俺たちは発車時刻五分前に来たバスに乗ると、二ステップ分高くなっている後部の座席に座った。特別にしつけたわけではないけど、タマは静かにしている。今日は健康診断をしてもらいに少し離れた町の動物病院へ行く。

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「三百グラムも増えてたじゃないか」
 タマのかかりつけの動物病院は人気だからちょっと時間がかかった。このご時世待合室で「密」になっては大変だから、車で来ている人は車内で待つようにしている。もちろんバスで来た俺たちは院内で待っていたけど、タマが可愛いメス犬のお尻を嗅ぎに行こうとするから気を遣った。
「いいじゃないか、三百グラムくらい誤差だよ」
「人間とは比率が違うだろ。体重五十キロの人間なら……」
「数字のことは分かんないよ。犬なんだから」
 タマは都合が悪くなると殊更に「犬」ぶってみせる。呆れた俺は彼を抱いてリュックへ入れると、頭の毛がジッパーに巻き込まれないようスヌードを被せた。

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