実はウチの犬、ちょっとだけ話す。 第四話「イギリスの友だち」
俺には外国人の友だちがいる。留学はおろかホームステイすらしたことがないけど、今時ネットがあるからね。無料の通話アプリでしょっちゅう話している。教育熱心だった両親のおかげで三歳から英会話塾に通わせてもらえたから、あまり正確ではないけど俺は英語を話すことができるし、日本人と友だちになりたい外国人は世界中にたくさん居る。みんな漫画やアニメに夢中だからね。ブームは終わる気配をみせなくて、海外の友だち募集掲示板で相手を探すとすぐに見つかった。
「この騒ぎが収まったら日本へ行くから、また東京で遊ぼう」
「いいよ。秋葉原には絶対行くんだろ?」
イギリスの首都ロンドンに住んでいるイーサンは、三つ上の十九歳で去年の夏休みに日本へ来たことがある。最初は徳島にも来ると言っていたのだけど、日程や宿泊・交通費の関係で結局東京で落ち合った。
「当たり前だろ。予約のグッズの受け取りもするつもりだし」
もちろんイーサンはオタクで、日本のエンターテインメントに精通していた。アニメにも詳しいけどどちらかといえばアイドルオタクだから秋葉原のあのグループで入門して、最近のお気に入りは七十年代から八十年代に活躍した往年のアイドルたちだ。
「おい。また画面の中のお友だちか。ハローハロー、こんにちは」
「やあ!久しぶりだね、タマ」
俺はタマが人間の言葉を話すことを秘密にしていて、タマ本人も他人の前では黙っていることが多い。けれども一度、通話をしているのを知らないで俺に声をかけたことがあってイーサンにはバレていた。彼は最初、タマのことをよくできたCGかロボットじゃないかと疑っていたけど、何度か話すうちにすっかり打ち解けて今は熱心に英語を教えている。
「ポテチが欲しいとき、なんと言いーマスカ?」
「キャン・アイ・ハブ・サム・クリスプス」
「イギリスではポテチはクリスプスなんだよね。ポテトフライがチップス」
アニメを字幕なしで観ることのできるイーサンの質問に、タマが途切れ途切れの発音で答えた。前回のおさらいなのだけど間違っていない。この調子ならそう遠くない未来、日本語と英語を使いこなすバイリンガル犬が誕生するかもしれない……。