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個人的2022年ベストアルバム10選
毎年恒例の年間ベストアルバムをまとめる時期がやってきました。
…というのは嘘で実は年間ベストをつけるのは今年が初めてです。
新譜を追って聴くというよりかはまったり旧譜を聴くタイプなのですが、今年はぼちぼちディグをしたので折角なのでまとめてみようといった感じです。年間ベストと銘打った手前アレなのですが、音楽にシビアに順位付けをするタイプではないので、順位はオマケであって無いようなものだと思って頂ければ幸いです。ジャンルは適当に付けています。
ジャケット画像の下に各種サブスクへのリンクを付けていますので、良ければリンク先で聴いてみてください。
10 . Cola / Deep in View
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ジャンル:ポストパンク,オルタナティブロック
ほど良く肩の力が抜けて気怠さが漂ってるボーカルの温度感や、ローファイなサウンドからBeckを彷彿とさせます。テレキャスのチャキチャキした音からは邦ロックの趣きも感じられ、ぶっきらぼうで豪快なストロークが強いアクセントになっています。繰り返して聴くほど、作り込まれた精緻な音楽というよりスタジオのヤニの匂さが漂ってくるような愛おしい泥臭さが感じられる作品です。
9 . Psycada / Hiking Lung
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ジャンル:サイケデリックロック
ジャケットとアルバム全体のサイケデリックな雰囲気が絶妙にマッチしていていて素晴らしく良いです。マッチというより、ジャケットがアルバムそのものを体現していると自分は感じました。全体的に展開がかなり控えめで、似たような楽曲が続きます。アルバムを通して同じフレーズが繰り返されていて、さっきも聴いたぞ?という感覚を意図的に聴き手に想起させるような作りになっています。まさに熱帯雨林のジャングルを彷徨い続け、歩き続けても変わり映えしない風景が続いていくといったような印象を受けます。時にスローダウンして、もうここで息絶えてもいいかも…と思わせるような瞬間もあります。よくアルバムを映画に例えて説明する人がいますが、この作品こそ鬱蒼とした森林を徘徊し続け、最後にサイケデリックな幻想を見る人間を描いたかのような強烈なストーリー性を感じます。最後のフィードバックギターは何を意味しているのでしょうか。。
8 . Robocobra Quartet / Living Isn't Easy
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ジャンル:ポストパンク
トーキングヘッズを彷彿とさせるソリッドなサウンドに、スポークンワード的にボーカルがぼそぼそと語りかけてくる楽曲が特徴的なアルバムです。歌メロがゴリゴリなUK風味で、語りかけパートでは強いブレスが感じられます。こういう日本語では出来ないカッコよさがあると英詩はやはり強いなと思います。ギターが入っていない分すっきり聴こえるのかドラムの金物の音鳴りが綺麗に聴こえて良いです。アルバム後半は平板で落ち着いた雰囲気の曲が多く、欲を言うともう少しアップビートの曲があると個人的に嬉しかったですが、割とリピートして聴いたので入れました。
7 . Courting / GuitarMusic
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ジャンル:インディーロック,ポストパンク,ノイズロック
これもUKバンド特有のblurやXTCのような捻くれた歌メロが個人的にかなりツボで良かったです。ガレージで録ったようなローファイでザラっとしたボーカルも曲にフィットしていてかなり好きです。ソニックユース系統の唸るギターに多重でファズ、ノイズが上乗せされ、最後には歪みの洪水の中で揺らいでいるような感覚になります。所々でヴェイパーウェイヴの要素もあり、ギターの音粒はどこかアンビエントの趣も感じられる作品になっています。
6 . Mom / ¥の世界
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ジャンル:オルタナティブロック
心の奥底に沈んでいたノスタルジーを掘り起こしてくれるようなアルバムです。特にお気に入りの曲が3曲目「ロストシング」で、0:37~0:46の「時計の針が12時を指し僕は数万回目の食事を済ませる」という歌詞の裏で鳴っているシンセサイザーが言葉にならないほどエモーショナルで、音楽の原体験を揺さぶられているような感覚になります。
Parannoulや、betcover!!の楽曲からもこの独特のエモーショナルな青春像を感じました。アジア圏の20代男性ソロプロジェクト特有のエモい音と言えるかもしれません。なぜか女性だとあんまりこういう音無いんですよね。
これは私個人に由来する主観以外の何物でもなく恐らくアーティストのリファレンスにもルーツにも引っ掛からない話だと思うのですが、なぜか聴いたときにものすごいノスタルジックでファンタジーな西洋の城を想起させるんですよね。パッと脳内に浮かんだイメージを羅列するとこんな感じです。
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かなり雑多な印象ですが自分の中では一貫したノスタルジアがあり、この楽曲はこの筋に属するものではないかと思います。自分でもなぜ西洋なのか、何故このシンセがこのようなイメージを想起させるのが説明が付かないのですが、どこか異世界に飛ばしてくれるような不思議なパワーを感じます。これは個人の体験に深く依存するもので、誰とも共有できない話かもしれませんが思ったのでメモ程度に残しておきます。(音楽の感覚や嗜好にまつわる疑問はルーツが明らかになった時特有の気持ちよさがあるので、見知らぬ誰かがこの感覚の謎を解いてくれることも期待しています)
5 . Dry Cleaning / Stumpwork
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ジャンル:ポストパンク
ボーカルのいかにも神経質そうなウィスパーボイスとタイトなベースから一見お堅い音楽に聴こえるのですが、ポストパンクやジャズ、時にはネオアコの風味も感じる面白い音楽です。ギターがかなり変なことをしており、ソニックユースのような(便利すぎる言葉)開放弦を含んだ不協和音を鳴らしたかと思いきや、コーラスが効いた明るいポップな表情を見せてくれる瞬間もあり通しで聴いても飽きが来ない曲順になっています。ジャンルの分類としてはsquidやBC,NR、black midiにくくられるポストパンクとも言えそうですがこれらのバンドと比べるとストリングやサックスが控えめでさっぱりしたバンドサウンドで楽しめるところがお気に入りです。
4 . sobs / Air Guitar
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ジャンル:インディーロック,ギターポップ
かなり砂糖多めのポップミュージックで大好きです。Beabadoobeeとか好きな人に特にオススメですね。シンガポールのバンドなんですけど、どこかフレンチポップの香りも漂っていて、不思議な感じがしました。といってもシンガポールという国単位でディグしていないので、こういう音楽が出てくる土壌があると思うとシンガポールは宝の山ですね。5曲目「Friday Night」で途端にドラムンベースになってイケイケシンセが入ってくるのが最高です。アジア圏特有のポップミュージックからしか摂取できない滋養を感じます。
3 . jockstrap / I Love You Jennifer B
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ジャンル:トリップホップ,テクノポップ,フォークトロニカ,エクスペリメンタル
最初に聴いた時にはちょっと難解な印象があったのですが、何回か聴き返してみるとかなりポップなところもあり、音の質感が現代的でまさに2022年の音楽といった感じで好きになりました。色々なジャンルが混合されている闇鍋感が魅力だと思ったのですが、むしろ聴き込んでいくと3曲目「Greatest Hits」や6曲目「Concrete Over Water」などメロディーが持つ普遍的なポップネスが強く感じられる箇所も良いですね。ちょっと目(耳)を離したうちに曲調が変わる雰囲気は、ジャンルは違いますがこの動画を思い出しました。
ストリングスの入れ方が映画サントラや、ロマン派クラシックのようなベタに感情を揺さぶられる感じがありますが(それっぽいこと書いてますがかなり適当言ってます)ベタどころかかなり上品な仕上がりになっています。
2 . Alvvays / Blue Rev
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ジャンル:ドリームポップ,シューゲイザー
ドリームポップのギターの凄まじい轟音をこれでもかとひたすらに浴び続けられるアルバムです。ザラっとしたノイズテクスチャーがかかった映画のワンカットのようなジャケットも印象的です。ギターの歪みによる気持ちよさと、メロディアスかつポップな要素を掛け合わせた楽曲が並び、アルバムとしての統制感も強く感じます。アルバムの1曲目に開幕にふさわしい楽曲「Pharmacist」があり、ギターソロの入りの来るぞ…来るぞ…感がとても良いです。ふわふわかつドロドロでまさにドリームポップを体現したような9曲目「Tile By Tile」が一番のお気に入りだったのですが、3周目以降は少し控えめな11曲目「Belinda Says」が一番光って聴こえますね。分厚いシンセとストリングスで多幸感の溢れるドリーミー感の中にどこか人匙の寂しさもあり、たまらなく良いです。
1 . Louis Cole / Quality Over Opinion
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ジャンル:ポップ,R&B,ソウル
恥ずかしながらルイスコールを知ったのはかなり最近です。実は前から触れてはいたのですが、spotifyのお気に入りに1曲だけ登録した後に忘却の彼方へと消えてしまい、アーティストとしてはスルーしていました。改めて新譜を聴いてみたのですが、後に旧譜をまとめて追うほど衝撃的な出会いになりました。ルイスコールの魅力は一聴して彼と分かる個性的なシンセや、独特なグルーヴ感のあるドラミングなど様々ですが、最も特筆すべきは抜群のメロディーだと思います。こちらは音楽メディアの記事の一文ですが、私がもやもやと思っていたことを明瞭に言語化してくれていたので引用します。
彼の生み出す自由度の高いメロディは、ほとんどJ-POPでしか聴けないそれなのだ。星野源の近年の音楽にルイス・コールからの影響を感じるが、それは日本のポップ・ミュージックとルイス・コールとの親和性からくる必然なのだろう。
これを読んでかなり腑に落ちた後に、自分の音楽の嗜好を形成する核となるものがポップミュージックにあると改めて気付かせてくれたのもルイスコールです。ルーツを調べたらマリオカート等の任天堂のゲームミュージックからも来ているようで、個人的に謎の解けたような気持ち良い納得感がありました。今回はアルバムは過去作と比べても楽器の音像がかなりくっきり録られていて、3曲目「Not Needed Anymore」のアコースティックギターの弦とボディーがバチバチにこすれ合う音や5曲目「Bitces」の豊かなドラミング、11曲目「Planet X」の極太ベースなど歌モノでない楽器に耳をひそめて聴いても楽しいですね。一枚通して、表情豊かな色々な景色を見せてくれるアルバムです。
というわけで以上の10選でした。
軽い気持ちで書き始めるか〜と思って始めたのですが、想像以上に音楽を言葉にする作業が難しかったです。ちょうど良い言葉が見つからなかったり表現に悩む箇所はあったのですが、5000文字くらい書いてしまった手前没にするよりか良いだろうということで公開することにしました。全体を通してアルバムに対する音楽レビューは見た目以上に大変な作業だなと痛感しました。それと同時に記事に書くことでより愛が深まることも分かりました。
この記事の選盤と大体の執筆は11月末期に終わっていたのですが、12月に聴き返した後に順番を大きく変えたくなり、記事が出来上がった状態で加筆もしつつ入れ替え作業をしました。音楽メディアや個人の記事も拝見したのですが、Courtingを聴いてblurとXTCをドンピシャで例える方がいて、2バンド上げてそこまで解釈がピッタリ合うことあるかと思いつつも、偶然の一致(?)を楽しむ形でそのまま残して記載しました。
サブスクであまりに膨大に音楽が聴けてしまうので、来年はもっと私個人と趣味が合うキュレーターを探したいなとも思いました。いわゆる評論筋で掘っているとSobsなどのポップさが強い故に音楽メディアの評価は高めに来ない音楽などを聴きそびれてしまい、それはとても勿体無いので…
最後まで読んで頂きありがとうございました。
それでは良いお年を。