油を塗りたいお年頃
土曜日。陽光は強かったが、時折激しい雨が降る日だった。
ここ数年購入を検討していたワイヤレスイヤホンを買うべく、車を出して街へ向かった。今住んでいる場所から結構な距離があるため、本当ならば一泊して繁華街で酒でも飲みたいところだったが、時世を考え日帰りとした。
正午に到着、ラーメン店で昼食を摂り、Apple StoreでAir Podsを購入。
ワイヤレスで音が聞けるのは想像以上に快適で、マイクの集音も問題なく、満足出来る買い物だった。
十四時に友人宅へ。コーヒーを飲みながら二時間ほど話をした。
先月に越したばかりの友人は、現在家具の類を買い集めている最中だったので、折角なので使わなくなった古いコーヒーミルをあげた。というか、この友人にコーヒーミルを与えるという名目で、兼ねてから欲しかった新しいミルを買う事にしたのだった。
友人に古いミルを譲り、代わりに購入したRussell Hobbsのコーヒーミル。
グラインダーと豆をいれるカップが別になっており、挽いた粉をスムーズにネルに移せる。佇まいも美しい。
先日何某から譲り受けたのだというクロスバイクについて相談を受けた。サドルが硬く尻が痛くなるという事だったので、まず自転車屋に行ってフィッティングして貰う事を勧めた。フィッティングは馬鹿にならない。ハンドルとサドルとペダルに適切に荷重を分散させねば、ロングライドは身体に毒だ。「自転車」と「フィッティング」の二つの単語は、自転車乗り以外はあまり噛み合わないところだろう。チェーンに差すオイルについて聞かれたが、それは良く分からんので良く分からんと答えた。自転車屋に聞いてくれ。
いつか友人に居酒屋で「男の一人暮らしは中華鍋が一つあればなんとかなる」と適当な事を言ったところ、彼はそれを間に受けて、先日マジで中華鍋を購入したとの事で、その手入れについても質問を受けた。
中華鍋の扱いは簡単なものだ。使い終わったらゴシゴシ洗って火に掛けて水滴を全部飛ばしてしまえば良い。最初こそ使い勝手が悪いものの、使えば使う程鍋肌に油が馴染んで使い易くなっていく。ツンデレヒロインみたいな奴だ。
彼は鍋底にも油を塗って手入れをしていると言っていたので、それは無駄なことだと教えておいた。だが、気持ちは凄く良くわかる。
長年の相棒のフライパン。中華鍋の幼馴染。フレンチトーストを焼き上げるときに重宝する。
それにしても、自転車といい中華鍋といい、この男はアラサーになってよく物に油を塗るようになったなと思ったが、改めて思い返すと、彼は十代の頃からよく物に油を塗っていた。十代の頃、彼から貰った誕生日プレゼントは、皮財布の手入れ布と保湿クリームだった。靴磨きの話題で盛り上がったことも、一度や二度ではない。
革製の靴や財布にクリームを塗るのは楽しいものだ。それが生まれながらに持っていた皮目や、使うにつれて増えていく細かな傷に、クリームの油が馴染み、息を吹き返したように艶を取り戻していく様子、使い込む程、自分にとっての唯一無二になっていく過程。中華鍋やフライパンにもそれに通ずるものがある。
油といえば、俺は先日買った鋼の包丁によく油を塗っている。椿油が良いらしいが、不乾性油なら大丈夫との事だったので、オリーブオイルを塗っている。別に趣味で塗っているわけではないが、鋼の包丁は油を塗らないと錆びるのだ。
俺は以前から、男と言う生き物はアラサーになると、ホームセンターによく通うようになるか、ハードオフによく通うようになるか、長い棒を持たせればゴルフのスイングをやるようになるか、その三つしかないと思っていたが、よく物に油を塗るようになると言うのも、進化の分岐の一つに含めてもいいのかもしれない。進化の分岐は現在四つ。卿等はどれ?
納得のいくデザインの物を見つけたので、漸くMacBookのハブを買った。現場快適。USBやSDやHDMI端子を使えるのはとても便利だ……と思ったが、そもそも現行モデルのPCには、まだそれくらいの端子は搭載しておいて欲しい。なぜノーパソにSD挿すのに1万円近いハブを買わねばならんのか。