事業部組織 vs 職能別組織
数年エンジニアマネージャーをしていく中で、どういう組織の形が良いのだろうかと考えてきました。そのテーマの一つとして「職能別組織 vs 事業部組織」というものがあります。過去の自分の経験も含めてそういった組織の形についての現時点での考えを整理を込めてまとめようと思います。
まずは職能別組織と事業部組織、マトリックス組織のそれぞれの特徴についての考察をしてみます。ちなみに今回の考察は単一事業ではなく複数の事業ドメインを持った企業を想定しております。
事業部組織とは?
経営トップの直下に事業毎の組織が配置され戦略策定、指揮命令、評価などが事業部単位で行われる。
■ 事業部組織のメリット
部のトップが事業責任者である事が多く、事業推進の為の戦略設計や実行を行いやすい。また事業成果を評価に反映させやすく、事業を成功させるための方向づけを行いやすい。
■ 事業部組織のデメリット
事業優先となりやすく中長期的な個人のキャリア形成が難しい。事業寄りの成長環境は整えられる事も多いが、高い専門性を伸ばしていく方向でのキャリア形成が難しい。
職能部組織とは?
経営トップの直下に職能毎の組織が配置され戦略策定、指揮命令、評価などが職能部単位で行われる。ただし1つの職能で完結する業務はほとんどないので事業やプロジェクト単位で各職能部から人員が集まりチームが組成され業務が行われる事が多いように思う。
■ 職能部組織のメリット
複数の事業に対する専門的なサポートを行いやすい。組織のトップが職能のトップなので高い専門性を伴う中長期の戦略設計・実行を行いやすい。また職能毎のキャリア形成に対するサポートが行いやすい。
■ 職能別組織のデメリット
評価者が同じ専門領域の人なので専門領域での能力評価に偏りがちでプロジェクトしての事業貢献の観点が漏れがち。その為に各メンバーの事業貢献意識が下がりやすい。
マトリックス組織とは?
経営トップ直下に事業部と職能部を配置し事業に管する意思決定は事業部が、専門技術やキャリアマネージメントに関する意思決定は職能部が行うような組織構造。基本的に領域は違えど意思決定の優先度はつかない。
■ マトリックス組織のメリット
事業推進に偏ったり技術領域に偏ったりせずにバランスをとった戦略実行を行いやすい。
■ マトリックス組織のデメリット
それぞれの組織長単独で意思決定できる内容が曖昧になりやすく、事業組織長と職能組織長の連携がかなり必要となる。また意思決定に関わる関係者が増えることにより意思決定の速度が落ちやすい。
組み合わせパターン
ここまでそれぞれシンプルな形で説明してきたんですが実際はこれらが組み合わさっていることも多いのではないかと思います。例えば、経営トップ直下は事業部制になってるんだけど事業部の中は職能別組織に細分化されるみたいな構造です。
こういった組み合わせパターンは究極的には「事業部組織」「職能別組織」「マトリックス組織」の特徴の重みをカスタマイズしたものだと考えています。
この例にある組織図は、「事業部制をベースとして職能毎のフォローも行う組織」となっています。この組織図が表しているコンセプトとしては「最も大きな方針は事業部単位で行い実行していく。その中で各専門領域ごとに戦略設計と実行を行っていく」という感じです。
「マトリックス組織=組み合わせパターン」ではないのか?
そういう捉え方も普通にありだと思いますし、よくそういう使われ方もされてるんですが今回の説明では明確に違うものとして扱います。
マトリックス組織は事業軸の組織と職能軸の組織が直行していてそれぞれの組織長が同程度の権限を有しているものとしています。上記の例であげた「組み合わせパターン」がマトリックス組織と違う点としては事業部組織の配下に職能別組織があり、明確に意思決定の序列が決まっている点です。
どうやって組織の形を決めるのが良いか?
ここまでの内容の通り通り、それぞれの組織の形には意味がありメリットもデメリットもあります。その中でより現在の状況に即した組織にしていくのが重要だと思っています。
といいつつほとんどの組織では「事業部配下に職能組織」がくる組織構造となってるのではないかと思います。例えばそうではない組織があったとしてもシングルドメインの事業を運営していて、経営トップの配下に職能組織が配置されているという構造で実質的にある事業部制の組織構造を切り取ったものとなっているのではないかと思います。
なぜこうなってることが多いのかを考えるとおそらく事業戦略と組織戦略それぞれを考えるときに、事業戦略を起点に考える必要があるからだと思います。もちろんバランスはありますが、事業戦略はある程度単体で考えられますが、組織戦略はどういう事業戦略をとるのかがないと単体では考えられない事が多いです。そういう意味でこの構造が取られているのだと思います。
ただし例外はあります。わかり易い例で言うと「法務部」「経理部」などです。これらは事業戦略への依存度が低い専門職です。加えて多くの事業部を横断でケアする必要がある為、事業部配下ではない配置をされるのだと思います。
ここまでの話をまとめると、組織の形にはそれぞれ特徴があるが事業を起点に意思決定を行う必要があるため、事業に直接関わる領域とバックオフィス系の領域で分け、全社は事業部制組織とし、後者は職能別組織としてそれぞれ経営トップ直下に配置する事が多いのではないかと感じています。
組織の構造ってそこまで気にする必要があるのだろうか?
ここまで事業軸、職能軸で組織の割り方をいろいろ書いてきたけど、事業や組織のフェーズによってこういう問題はいらないだろうなとは思います。
例えば、10人ぐらいの会社にはおそらく関係ない話だろうし、100人ぐらいの組織でも多分いらない気がしてます。事業のスケールに合わせてそれぞれの業務を効率的に回すべく分業化が進み、気づけば「自分が関わるプロジェクトのメンバー」と「同じ職能の人」しか顔と名前が一致しなくなったぐらいでやっと必要になる話な気がします。
加えて、それはそれぞれの組織の特徴に書いた内容から分かる通り、どういう軸で組織を切ってもその狭間の領域はあり、全てを吸収することは出来ないと思います。重要なのはどういうメリットに重きをおいてどういうデメリットは許容するかというコントロールをしていくという事にあるのではないかと思うのです。おわり。