個人と組織の良い距離感
マネージメントをするにあたって個人と組織について考えることが増えた。今回はその考察を行う。一応最初に自分が出した結論だけ先に書いておく。
個人と組織の指向性の違い
そもそも個人と組織は根本的な部分では利害が一致しない。個人は個人の利得を最大化させようとするし、組織は組織の利得を最大化させようとする。もちろんそこには感情の要素があるのでまっすぐに利得を最大化させる行動をみんながとるわけではないけども、個人と組織の指向性の違いを最初に理解して置くべきだと思う。
個人の利得
体感的に個人の利得を最大化させる行為というのはマズローの欲求に従い階段を登っていく事に近いと感じる。
1.生理的欲求
2.安全の欲求
3.社会的欲求
4.承認欲求
5.自己実現の欲求
下の階層の欲求が満たされないと上に行けないし、
一度下が満たされなくなると階段を降りる事になる。
個人の利得を追求する行為はより5の段階に近づこうとすることであり、
さらに持続的にその状態が達成し続けられることなのではないかと感じる。
少しややこしいのは「お金」という存在。お金の存在によって一気に1~4ぐらい、場合によっては5までまとめて満たすことができるので個人の意識レベルでは個別の欲求を満たす代替として金銭的な価値を得る事にフォーカスを当てる行動も起こり得るとは思う。
なのでこの欲求を満たせなくなる不安を埋める為に、良い待遇を求めるし、その組織での経験によって更に良い待遇を目指せたり、周りから承認されたり、自己実現につながるという事を志向するのだと思う。
組織の利得
組織の利得とは究極的にはその組織の目的が達成され続けることを目指すのだと思う。
企業における組織を前提に考えると事業の目的・目標があり、目的・目標に対する戦略があり、戦略に対して戦術を設計していくはずである。もちろん目的・目標が曖昧だったり、利益を上げることが目的などとなっている例もあるだろうが、プロセス自体は同じはず。
この前提で考えると、戦略・戦術に合地しない人材は不要な人材となる。
改めて考えると非常に自然ではあるけども組織は個人のためにあるわけではない。
組織を作る個人の役割
組織と個人のそれぞれがそれぞれの利得のみを真っ直ぐに追求すると関係は瓦解してしまう。
なのでその橋渡しをする人間が必要となり、その役割を担うのがマネージャーと呼ばれる人達かと思う。大きなミッションとしては前述のとおりだけどその役割をもう少し細分化してみる。
どれも大事ではあるものの、今回の考察のメインは組織と個人の関係なので、3と4をメインに考えてみる。
採用した人員の能力の最大化
組織として採用した人材に期待する事はその人材を採用する事によって組織の成果が最大化される事なので、その成果を最大化する為に必要な要素を列挙してみる。
1.環境へのアジャスト・キャッチアップについて
まず如何に高いスキルを保持した人材であっても組織に適応する必要がある。チームメンバーとどのようにコミュニケーションを取るべきか、ドキュメントはどこにまとまっているのか、プロダクトのアーキテクチャはどうなっているのかなど業務を進めていく上で必要になる知識は必要となる。
またもう少しスコープを広げると、ボトムアップ型の組織でどんどん意見を伝える方が仕事が進めやすいのか、トップダウンで意思決定がなされるので求められたタイミングで意見を挟むのが仕事が進めやすいのかなど空気感の様なものもアジャストできると結果的に個人の能力がその組織において最大化されやすくなる
2.個人のスキルと組織が求める成果とのアジャスト
個人がいかに高いスキルを保持していようともその使い方が組織が要求する成果につながらなければ意味がない。
例えば、バックエンドからフロントエンドまで幅広い領域で高度な専門知識を保持したエンジニアを採用し、組織の技術力を底上げしようとしていたとする。そう言う状況において組織としては組織的な技術力の底上げを求めたいのに、入社したエンジニアがガリガリと実装だけを頑張るとなるとスキルと成果のアジャストができていない状態となる。
こういった不幸な自体を起こさないようにするためには、入社前に期待値をすり合わせる必要がある。そこに双方納得した状態で個人が組織にジョインする事が望ましい。さらに入社前にすり合わせたからOKという事もまれで継続的にコミュニケーションを取り続ける必要がある。ただこういう問題は起きがちというのは自分の体感として強くある。
3.モチベート
入社時に期待値のすり合わせもできていて、環境へのアジャストも完了したとなったら後は放置しても大丈夫かというとそうではない。
人間のモチベーションやテンションにはもちろん上がり下がりがあるし個人のWILLもCANも常に変化し続ける。
個人のWILLやCANの変化を適切に捉えて何度も何度も「2. 個人のスキルと組織が求める成果とのアジャスト」を継続的に行っていく必要がある。
(4. 成長)
「3.モチベート」でも軽く触れているが人は常に変化する。比較的ポジティブな変化が多いがそれでも良くも悪くも人は変化する。その自然変化に対応だけしていればよければ1~3の項目のみを達成できれば良いとは思う。とはいえ成長して困る組織は稀だと思うので組織としての成果を最大化させるために個人の成長に対しても対処するのが重要となる
どうやったら採用した人員の能力の最大化できるのか?
前述の通り、人員の能力最大化の為に必要な要素は見えてきた。
ではどうやってその要素を満たしていくのか。1のキャッチアップについてはオンボード施策などで頑張るとして、残りの部分について重要になってくるのが「目標設定」と「評価」の2点になると思う。
銀の弾丸的なアプローチとして全員に相場を大きく超える賃金を支払うという手もあるが投資対効果は低いように思う。それは後述する個人の視点から見たときの利得最大化に対する答えにズバリはハマってないからだと考える。ただしその個人が退職するまで確実に相場を超える賃金が支払われると保証できるなら少し話は変わるがそういう前提を置くことはおそらく現実的ではない。
まずここで「目標設定」と「評価」という2つをセットに論じるのには理由がある。そのためにまず「評価」から語っていきたい。
適切な評価を行うためにある程度公平な基準が必要になる。評価の経験者ならご理解いただけると思うが完全に公正で誰が評価を行っても同じ評価を行えてかつ個人の能力を向上させるモチベーションになる基準を作ることは難しい。特に高度人材であればあるほど求める成果の難易度は高まっていき多くの不確実性をはらむ。更にいうとその不確実性を低減させ成果を出していく人材こそ価値があるというのもその理由の1つにある。
誰が行っても同じ評価が行えるというだけであれば、例えば社歴で評価を決めればいいが、そういう評価がなされたときに能力向上のモチベーションにつながるかというとNOだと自分は感じる。
ではどうするべきかというと、やはり「能力向上のモチベーションに繋がるある程度公正な基準」を作ることにほかならない。どういう評価基準を作ればこのある程度公正な基準となるのかは今度考えてみようとは思うが、まずそれが必要である。そしてこの基準は職種ごとに異なるものである方が良いと思う。多くの職種に適用できる基準を作ろうとするとあまりに抽象度が高くて曖昧なものになってしまうからだ。そしてこのある程度公正な基準ができたとして、重要になってくるのが「目標設定」となる。
「目標設定」のフェーズで、今のあなたはこれぐらいの事ができているからこの評価になっている。だから次にこれぐらいの事ができるようになればこの評価を行えるよという評価基準を個人とすり合わせるのが重要になるしそれを評価よりも前のフェーズで行っていく事により納得感が醸成される。
さらにこのフェーズで組織の求める成果とちゃんと紐付けた基準感ですり合わせる事で個人の能力発揮と組織が求める成果も擦り合うし、個人の能力向上に向かってもらう方向づけにもなる。
そういう意味で評価よりも目標設定の方が実は重要だと自分は考えている。この目標設定が適切に行えていれば、評価のタイミングで下振れしていれば程度によってステイ評価、ダウン評価を行うし、上振れしていれば程度によってステイ評価、アップ評価を行うことができる。さらにその基準は合意していた内容になるので評価のタイミングでモチベーションが左右される可能性も低減させられる。(もちろん人間なので合意していた内容でもダウンを食らうとテンションは下がるとは思う)
個人の目線から組織が求める成果との距離について
最後にもう一度個人の目線からここまでの内容を眺めてみたいと思う。
組織としては、求めるスキルや成果を提示しそれに則って評価を行う事でスキルを保持している人材や成果を出した人材を厚遇していこうとする。
それは組織の力学として尤もな事だと思う。では個人の視点からこの点についてどういう目線で向き合えばいいのかを考えたい。
個人として考えると、自分が出していきたい成果であったり、伸ばしたい能力が組織が求めるものと合致している間は良好な関係を保てると思う。
ただそれが異なる場合は組織と距離を取るのも選択肢としてはもちろんありだと思う。
例えば、「毎日1億人に使われるような大規模サービスをさばけるバックエンドエンジニアになりたい」という強いモチベーションを持っているエンジニアに対して、「フロントエンドのエンジニアが足りないのでそっちで頑張って欲しいし、今後もその領域で能力を伸ばしてほしい」というオーダーがあればそれはミスマッチとなる。個人の選択としては、大量のトラフィックをさばく経験を積める場所を求めるのは自然なことだと思う。
組織が成果を求めるように、個人も環境を求めるのは非常に当然な事なので異動願いであったり、転職も全然ありだと思う。
重要なのは自分が「どの能力を向上させたいのか」「どういう環境を望むのか」「どんな成果を上げたいのか」という答えを持っている事だと思う。
ただそこには2つ程注意点がある。
1点目は、「本当にその能力を得たいのか」という事
自分の中で得たい能力、出したい成果がクリアだったとしてそれにぴったりな場所自体はレアだったりする。そうなったときに不意に自分の希望と違う要求だったとしてもそれを達成する事で自分が出せる成果、保持する能力がスタックし、それが未来につながるなら、横道にそれるのもありだし、そういう横道がキャリアのオリジナリティにつながる事もある。マネージャーとしては組織として求める成果や能力を個人に当てはめたときにそれが個人にとっても利益になる考え方を提示したり、そういう場になるように環境を作っていくというのが重要なミッションとなるのではないかと思う。
2点目は、「どういう価値を提供できるのか」という事
個人として得たい能力、出したい成果がクリアだったとして、その環境で活躍できる能力を保持していなければ組織はその人材を採用したいと思わない。異動や転職は基本的には双方の合意が必要なので相手が欲しがるものをちゃんと自分が持っている事が重要になる。ここはただ環境を欲しがるだけではなく自分がどういう価値を出せるのかを冷静に見極める事も重要である。これは転職できるかどうかというだけの話ではなく、実際転職した後に価値を出せるかという点に置いても非常に重要である。
まとめ
最初の結論に書いたところに戻ってくるんだけど結局は上記のとおりだと思う。マネージャーとしての役割という観点から見ると、個人の利得と組織の利得の折り合わせて個人が高いモチベーションで組織の成果にコミットできる状態を作るのが重要なミッションかと思う。
あとがき
読み返すと非常に長い文章をつらつらと書いてしまったし、まとまりない文章になってしまったので整理する力が弱いなと改めて自分の脳力のなさを感じる。
ただ完璧に整理できてから書こうと思うと一生かけない気がするので、こんな感じでこれからもまとまり無い駄文をWebの世界に投下していきたいなと思う。