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読書録:「人はなぜ夢を見るのか」①基礎知識・深層心理学編

夢を記録していると私の場合、意味不明な「なぜこの夢を見るのだろう?」と疑問に感じる夢であることが多い。最近は普段は考えもしないことを自分がしていたり(貴重な植物を探しにいく、など)、感情に影響を与えるようなとんでもない夢(好きなキャラクターに嫌われる、キャラクターが銃で撃たれて死ぬ)などの夢が増えてきた。

夢研究の2大分類

①フロイト・ユングの深層心理学の流れを汲む夢研究。主に夢の意味をさまざまに解釈すること目指している。
②レム睡眠・脳波など、脳生理学に基づく研究。科学的な研究なので、科学的反証性や統計的有意性などを適用することができる。

夢解釈の歴史:創世記・ウパニシャッド・荘子

夢に見た内容を現実と結び付け、様々に解釈する文化=夢解釈は「創世記」の出エジプトの伝説に登場する。ファラオは7頭の痩せた牝牛が肥えた牝牛を食べてしまう夢、7つの茎のついた1つの稲穂が7つのしなびた稲穂に変わってしまう夢を2日続けてを見た。ヘブライ人の奴隷ヨセフは、これを7年の豊作の年・続く7年の飢饉の年と解釈した。ファラオはヨセフが言った通り7年の豊作の間に食料を蓄え、次の7年の飢饉に備えた。
夢で実際に予言ができるとは思わないが、夢に意味があると信じさまざまな解釈を試みるという文化がさまざまな形で継承されていることが分かる事例となっている。(夢の有意味性・解釈技法)

「ウパ二シャッド」では、睡眠中に自我(アートマン)はどうなるのかという哲学的な議論が登場する。アートマンの状態には覚醒・夢見・熟眠・第四の状態があるとされている。アートマンが夢見状態になると、五感の世界からそれぞれの要素が夢の世界に持ち込まれ現実世界の模型のようなものを作るとされている。熟眠状態となると、無意識で無限の歓喜のみを味わう状態となる。第四の状態となると、無意識からさらに突き抜けて純粋な意識のみが存在する状態となる。

近年では夢見の状態中には人間はレム睡眠をしていることが明らかになっている。

また、熟眠状態・第四の状態のような変性意識状態を瞑想やドラッグによって人工的に作り出せる、ということもわかっている。
「荘子」においては夢と現実のどちらが真の現実であるか、と問いかける形而上学的な議論が登場する。荘子は夢の中で胡蝶となるが、逆に胡蝶が荘子となる夢を見ているのではないか?と考える。夢はどのように存在しているのか、現実世界が幻想ではなく本当に存在していると確証する方法があるか、という問題は存在論と呼ばれている。

・出エジプト - 夢の解釈学
・ウパニシャッド - 夢の意識科学・脳生理学
・荘子 - 夢の存在論

夢象徴説 - シュルナー、シューベルト

夢に登場するものはなんらかの象徴であるとする「夢象徴説」は、フロイト心理学より若干前の「夢の生活」(シュルナー著)や「夢の象徴」(シューベルト著)で提唱された。
例えば、夢の中で男の子が2列に並び、近づいて殴り合った後また離れるという奇怪な運動を繰り返していた。これをシュルナーは歯の噛み合わせに似ている、と解釈した。

シュルナーによると、夢象徴の基本形は人体そのものが家・建物として表現されることである。特に平らな家は男性の身体を、窓やバルコニーのついた家は女性の身体を表しているらしい。例えば頭痛がひどい状態で就寝すると、天井に大きな蜘蛛がうようよと這い回っている悪夢を見るという。

人体を表す象徴として、特に生殖器やセックスを表すシンボルが夢には頻繁に登場するという。男性の生殖器の象徴としては高い塔・パイプ・楽器・ナイフ・銃・暴れる動物、女性の生殖器としては狭い中庭・階段などが登場するという。正直、これらはこじつけのような気もする(笑)

「夢の象徴」では、夢に現れるイメージは「映像言語」であるとする映像言語説が登場する。イメージとしては、古代エジプト・マヤのヒエログリフや壁画のようなものが連続的に現れていると想像できる。

夢象徴説に大きな影響を与えたのが、カントやバークリーのような合理主義的人間観に対する反発から始まった19世紀のドイツ・ロマン主義である。ドイツ・ロマン主義は主に文学・芸術方面から始まり、シェリング・ショーペンハウアー・ニーチェといった哲学者・ワーグナーのような劇作家に影響をあたえた。フロイトの夢象徴説とその流れを汲む力動精神医学がこじつけっぽいのは(笑)このように文学・芸術の要素をも組んでいるためとも考えられる。

サン・ドニ伯爵「夢とその操縦法」

サン・ドニ伯爵は、「夢とその操縦法」という本でオルゴールに録音した音楽が特定の人物を夢で登場させる効果があることに言及した。このように夢を意図的に操作する訓練を三ヶ月続けた結果、

・夢を見ていることを自覚できる(明晰夢)
・夢見の最中に任意で目覚める
・夢の特定のシーンに集中して深掘りする
・夢の一部を念じた通りに操作する

などの精神的な力が身についたらしい。
サン・ドニ伯爵の明晰夢は念じた通りになんでもできる、というタイプの夢ではなかった。例えば、自分を自殺させる夢を見ようとすると、どうしても塔から身投げする男を見物する夢しか見れなかったらしい。

フロイト心理学による夢研究

フロイトがヒステリー症状の研究をしていると、催眠状態(つまり覚醒中に変性意識状態になった人たち)になった患者が児童期・思春期の心的外傷に言及することに気がついた。特にこの心的外傷を象徴する夢をさまざまに解釈することで、症状が緩和するというケースもあることを発見した。フロイトは、夢を自由連想法でその意味を解釈するという方法での治療に一部成功していた。ヒステリー症状のような異常心理状態の正体は、夢が形成されるのと同じメカニズムではないかとフロイトは考えるに至った。

フロイトは夢に現れる象徴は充足したい願望を表すという、「願望充足説」を提唱した。特に身体や精神が切迫した状態だと「水を飲みたい、何かを食べたい」「汚物を遠ざけたい」「セックス・自慰をしたい」「誰かを殺したい」といった解釈を要さない「願望充足夢」そのものが現れることが多い。

多くの夢がこのような願望充足夢ではないのは、意識と無意識の間では検閲のような作用が働いて本来目指している願望充足が異なる形で現れるためである。これを「顕在夢」という。顕在夢が本来持っていた願望充足の目的は、「夢の潜在内容」と呼ぶ。

夢の潜在内容に対する検閲は、圧縮・置き換え・逆転・映像化・象徴的表現などさまざまな種類がある。身体が家や道具として表現されたり、自殺する夢が妨げられたりするのはこのせいと考えられる。

顕在夢の象徴や願望充足夢に現れる内容の1つは、その前日の昼間に満たされなかった願望であるとフロイトは考える。これを「昼間の残留物」を呼ぶ。
昼間の残留物の他に夢の題材=願望充足の目的となるのは、「幼児性願望」であるとフロイトは考える。人間の性欲は多くの場合大人同士の恋愛・結婚など社会性を伴ったものに発展するが、これが誤った方向に方法づけられるとエゴイズムや反社会的人格といった人格の歪み、サドマゾヒズムや異常性癖といった性癖の歪みになるという。人間の幼児性欲は生殖や社会性による制約を受けない、というフロイトの仮説は「幼児性欲論」と呼ばれている。

このような昼間の残留物・幼児性願望に基づいた非合理的な意識下での思考を、フロイトは「一次過程」と呼ぶ。フロイト心理学では、どのような人格・性癖の歪みを抱いているかでどの発達過程に心的外傷や固着があるかが判定できる、という幼児性欲論に基づいた精神分析を行なっている。

「夢判断」の身体を表すシンボル集

・男性の性的シンボル
傘、ステッキ、柱、木、ナイフ、剣、やり、銃、蛇、風船、飛行船、鍵、機械、そのほか棒状・突き刺す形状・膨らむ構造のもの

・女性の性的シンボル
穴、水差し、袋、箱、ポケット、船、貝殻、カタツムリ、果物、そのほか容器形のもの

・恥毛
森、茂み、草、などなど

・性行為
ダンス、乗馬、登山、運動、飛行する、などなど

ユングの深層心理説

ユングは「夢判断」を見てフロイト心理学に感銘し、心理分析運動に加わった。ユングはフロイトの幼児性欲論よりも精神病患者の妄想や子供の夢に神話や宗教儀礼に近しいものがある、という事例に注目していた。

ユングは神話や夢に共通する共通の人物像を「元型」と名付けた。元型に対応する「原始心像」は、このような形で夢に現れるという。

- 意識的に実現しなかった自分と正反対の人格。
夢では同性かつ反対の性格の人間として現れる
アニマ - 男性が抱く内なる女性像。
夢では魅力的な見知らぬ女性として現れる
アニムス - 女性が抱く内なる男性像。
夢では魅力的な見知らぬ男性として現れる
大母 - 万物の根源であり大地・生命の象徴としての女性像。
夢では渦巻のシンボル、壺、石棺として現れる。
老賢者 - 無意識の知恵の象徴。
夢では忠告や教訓をくれる高齢の同性として現れる
自己 - 無意識を含めた自分自身中心部。
夢では秘密の古文書・宝石・マンダラの絵などなどとして現れる

深層心理学による夢分類

・願望充足夢 
身体や精神が切迫した状態であるとき、それを解消する方法を直接的に見る夢。セックス・自慰をする夢、汚物を処理する夢、嫌いな人を殺す夢、などなど

・顕在夢
意識と無意識の間で起こった検閲を経て見る夢。この状態の夢が一般に「意味不明な夢」となる。身体を表す家や建物、男性や女性・セックスを表すシンボル、昼間の残留物・幼児性願望・人格や性癖の歪み・心的外傷といった精神の変調、原始心像などなどの象徴がこうした夢で表現される。

創造夢
意識的にはできなかった科学的・芸術的な着想を得る夢。科学者ケクレはベンゼンの構造式をウロボロスの夢を見たことがきっかけで発見した。

夢象徴説の重要点

①夢では人体そのものが家・建物などとして表現される。特に生殖器やセックスを表すシンボルが夢には頻繁に登場する

②夢に現れるイメージは「映像言語」である

③身体や精神が切迫した状態だと願望充足夢を見る。普段は意識 / 無意識間の検閲により顕在夢を見る。

④夢には前日の昼間に満たされなかった願望、もしくは日常満たされない幼児性願望が現れる。病的な人格の歪み・性癖の歪みを抱えている人はそれらも夢に顕著に現れる。

⑤夢に登場する人物はユングの原始心像に対応している。個人的には、原始心像よりもフィクションのキャラがそのまま出てくることが多い。

⑥一部の人には音楽で夢を操作する・明晰夢を訓練して見れるなどの能力が身につく。今「音楽で夢を操作することができるか」を統計的仮説検定で検証できないか実験中

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