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国際紛争に関する研究、北アイルランド紛争 #02、政治・武装勢力編

北アイルランド紛争とIRAに関する基礎知識が身についたので、今回は北アイルランドの政治と紛争に関係する政治勢力・武装勢力について整理してみました。ここではアイルランド全島の統一を目指す政治組織を政治的区分から「リパブリカン」、ブリテン連合王国への残留を目指す組織を「ロイヤリスト」と呼称しています。

リパブリカン政党

シン・フェイン党

アイルランド共和国・ダブリンに本部を持つリパブリカン政党。
党是としてアイルランド民族主義と北アイルランドとの統一を掲げている。
その他のイデオロギーは中道左派・左派民族主義・民主社会主義に近いとされている。1905年、アーサー・グリフィスによって結党された。
2024年現在アイルランド下院(ドイル・エアラン)で23%の議席を持つほか、北アイルランド議会でも30%の議席を占めている。
またイギリス庶民院でもわずかながら7議席をもっている。
シン・フェインは「我ら自身」を表すゲール語で、ユニオニスト・ロイヤリストとは敵対関係にある。過去にはIRA暫定派とも関係があったが、現在は武装闘争路線を放棄している。

ロイヤリスト政党

民主ユニオニスト党

北アイルランド・ベルファストに本部を持つロイヤリスト政党。
プロテスタント教会やオレンジ結社が支持母体で、イギリスへの残留を党是としている。そのほかのイデオロギーは中道右派・保守主義・欧州懐疑主義に近いとさ荒れている。1971年、イアン・ペイズリーらにより結党された。
2024年現在北アイルランド議会に27%の議席を持つほか、イギリス庶民院・貴族院に其々8議席・3議席を持つ。
2007年以来に北アイルランド議会が再開されて以来はシン・フェイン党・民主ユニオニスト党による連立政権が続いている。

リパブリカン武装組織

IRA暫定派

IRA暫定派は1969年12月、武装闘争を掲げる一派がIRA正統派から分化する形で成立した。1971年にはインターンメント(IRAに対する裁判なしでの取り締まり)の開始、1972年には「血の日曜日」事件を背景に主にリパブリカン労働者の支持を受け勢力を拡大した。
1981年、イギリス当局に逮捕されたIRA暫定派メンバー:ボビー・サンズがハンストの末獄死したことにより世界的な支持と共感を集め、資金や武器援助を得ることに成功する。
70年代・80年代にかけてイギリス本土・北アイルランドでロイヤリストの民間人を狙った爆破事件を多数起こしたため、IRA暫定派に対する世論は共感から非難へと変わっていった。

アイルランド民族解放前線(INLA)

1975年、 IRA正統派から分派した武装勢力。マルクス=レーニン主義を掲げており、IRAよりもさらに過激な路線を取っていた。政治部門としてシン・フェイン党から分派したアイルランド共和社会主義党(IRSP)を持っていた他、パレスチナ解放機構の軍事部門であるファタハと関係があったとされている。チェコ製・ソ連製の武器・弾薬を密輸して所持していた。

真のIRA(RIRA)

イギリス・アメリカ政府の働きかけによりIRA暫定派は休戦宣言を1997年に行うが、それに反発した武装闘争主義者が1998年5月にRIRAを結成する。RIRAは自動車爆弾によるテロ攻撃を多数行い、北アイルランド・オマーでの爆破事件で29人の死者・約220人の負傷者を出した他、2000年までにかけてロンドンでの連続爆破事件を起こしている。
また2000年9月にはMI6本部の入ったビルをロケット砲で攻撃するなど、諜報機関を狙った事件も起こしている。

ロイヤリスト武装組織

アルスター義勇軍(UVF)

1966年、カトリック公民権運動に反発するロイヤリスト住民が結成した武装組織。カトリック系住民を殺害する事件を多数起こしたため、1975年イギリス政府によりテロ組織認定され非合法化された。

アルスター防衛協会(UDA)

1971年、北アイルランド各地のプロテスタント系自警団をまとめて結成された組織。ロイヤリストの政治勢力としては当時最大規模であり、武装組織としてアルスター自由戦士団(UFF)を持っている。UVFと同様、UFFはカトリック系住民を殺害する事件を多数起こしたため1992年に非合法化されている。

イギリス当局


リパブリカンの政党・武装組織はイギリスの政府・当局とも敵対関係にある。アルスター警察による1969年の暴力的な公民権運動の取り締まりは紛争の拡大と激化をもたらしたとされている他、1972年にはイギリス軍落下傘連隊が未成年者を含むカトリック系住民14人を射殺した「血の日曜日」事件を起こした。
またMI5、MI6、SASといった諜報機関がリパブリカン政党・武装組織への諜報・囮捜査に関与していたことが近年明らかになっている。

デリー・ボグサイド地区にある「血の日曜日」事件の追悼碑。"Wikipedia"より

今後の予習

北アイルランド紛争についてより深く理解するため、今後の章立てと"アイデンティティー政治"について整理してみました。次の章では武装闘争が終わった後のリパブリカン・ロイヤリスト(政治的区分はナショナリスト・ユニオニスト)のアイデンティティー政治について調査してみようと思います。

①基礎知識
②北アイルランドの政治勢力・武装勢力
③コミュニティーの分断・ナショナリスト・ユニオニストによるアイデンティティー政治
④北アイルランド紛争後の権力分有と和解

アイデンティティー政治


ジェンダー、人種、民族、障害などの個人の特定のアイデンティティーに基づく集団の利益を代弁して行う政治活動。異なるアイデンティティーを持つ各々コミュニティーに属する人々の共通の利益や社会問題を追求するため、同じアイデンティティーを持つ人々を団結させ代弁者を選出をすることを目指している。
ナショナリズムや民族主義が集団の連帯の範囲の拡大を目指すのに対して、アイデンティティー政治は連帯の範囲の拡大よりも内集団でのより強い連帯を目指すという傾向がある。
民族主義やマルクス主義など大集団のイデオロギーを掲げる政治活動に対し、より小さな集団の利益と連帯を掲げる思想として対比されることが多い。


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