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人間の性・ジェンダーに関する総合的な研究
絵を描く際に恋愛表現・同性愛表現などといった性やジェンダーにまつわる題材のあるものを描くようになったので、「実際のところ、人間はどのような性や愛のあり方に魅力を感じるのか?」というのを科学レベルで研究したくなりました。今回は「つぎはぎだらけの脳と心」「心の病気がきちんとわかる本」を底本に学習しています。
性的違和と精神医療に関する研究
性とジェンダーに関して関心を持ったきっかけとして、個人的にFacebookの新ポリシーが性的異和と精神医療に関して奇妙な見解を持っているというのを発見したというのがあります。まずはこれに関して性と性的異和・精神医療に関する研究をしてみました。
結論から言うとあ「女性を家具呼ばわり・LGBTを精神病呼ばわりできるようにしました!」というFacebookの新ポリシーは論外として、性的違和そのものと性的違和を緩和するための身体的治療・精神的サポートに関する正しい知識が得られました。
今では性的少数者に対する脱病理化を進めようという運動により、DSM-5においては"性同一障害"(Gender identy disorder)という名称は"性的違和"(Gender dysphoria)という名称に変わっています。また同性愛・両性愛といった”内心”がもはや"治療"の対象ではないというのは当然として、性的違和をもつ人々はアンドロゲン不応症のような身体的な性分化疾患を持っているケースが殆どであり右派が言ってるような"ココロ"だけの問題ではないという事情があります。
性的違和を緩和するための身体的治療・精神的サポートを受けられるようにする、という事情からDSM-5では性に関する健康の状態という診断基準を残しています。
奇妙に進化した人間の性と生殖
「つぎはぎだらけの脳と心」によると、ごく普通の近代人の性と生殖は平均的な哺乳類と比べかなり奇妙な形態となっていると分析しています。これは“フェチズム・性嗜癖に関する医学的な見解の研究“ で挙げたような奇妙な性的倒錯を持っている人たちだけに限ったものではなく、夫婦生活をしていて子供が1人・2人いるような平均的な人間にも当てはまっているとのことです。
95%以上の哺乳類は、まず子育てにつがいを作りません。また哺乳類には排卵期があり妊娠できる期間が限られています。また動物のメスは排卵期であることをアピールする・オスはメスが排卵期か否かを本能的に察知するという行動をします。人間でも女性の排卵期がいつかを学習することができますが、それを女性・男性ともに本能的に察知するということはできません。
このような生存や繁殖に必要な動物的な本能をも学習能力や想像力で代替している、と言うのが一般的な人間の性のあり方であると言えるでしょう。
動物の中で人間のような子育てをする事例としては、オスが長期間育児に近い行動をするテナガザル・プレーリーボールといった動物が知られています。
またイルカのように快楽目的の性行為をする動物、ボノボのように自慰をする動物といった事例も知られています。人間の基準で言うと「同性愛」に相当するような同性同士で性行為をする動物の事例もあります。人間が他の動物と比べ特殊なのは、子育てにほぼ男性が参加する・両性ともに排卵期を本能的に察知できない、この2点であると言えるでしょう。
“性別“という概念 - 生物学的要因と文化的要因
人間の“性別“という概念を説明するのは容易ではありません。性染色体がXX・XY、生殖器が女性器や男性器であれば女性・もしくは男性、と言う単純な話ではなく、アンドロゲン不能症や性染色体異常により性的異和を抱えていると言う事例もあります。この1点をとっても「性は2つだけ!」という右派政治家の主張のような議論は成り立たないということがわかります。
現代ではこのような生物学的・遺伝的な要因により性的異和を抱えている人々は裕福な国であればホルモン治療・外科手術などによって“心の性”と一致する性を選択するといったことができます。このような生物学的要因とは別に、「その方がいいから」という理由で自由意志で逆のジェンダーロールを受け入れる・逆の性別の服装や行動をするというケースも考えられます。
文化的な風習などにより遺伝的に男性・女性である人が逆の性を自認するケースとしては、ネイティブアメリカンの「ツースピリット」と言う風習があります。ツースピリットとされる男性・女性は逆の性の服装をし、シャーマンとして男性・女性の霊的な世界をつなぐという能力を持つとされています。またかつてのポリネシアには第一子を母親の助っ人とし、生物学的な性に関わらず女性のロールが与えられるという風習があったそうです。
生物学的な性にはまず遺伝的なレベルの性染色体・身体に対する性ホルモンの働きという大きく分けて2つの要因が働きますが、性的違和を持つ人々・文化的に逆のジェンダーロールが与えられるケースを鑑みるとその人が実際に男性・女性、あるいは両者に当てはまらない性的少数者のいずれかとして生きるかというアイデンティティーの形成には生物学的要因・文化的要因の両者が影響しているということができるでしょう。
脳・身体の性差 - 性ホルモンにより生じる性差について
「つぎはぎだらけの脳と心」では具体的に生物学的な性・性自認がどのように脳に影響しているかといった研究事例に触れています。平均的な男性・女性の脳を比較すると次のような器質的な差があるそうです。
①男性の方が視床下部にあるINAH3(視床下部前部質核)と呼ばれる部位が2-3倍ほど厚い。この部位にはテストステロン受容体が集中しており、性ホルモンに関わる活動している部位であると推測できる
②女性の方が脳梁・前交連が厚い。これは右脳・左脳をつなぐ部位に相当する
このような脳の性差は脳の部位に相当する能力差を作り出す要因となることが大雑把に推測できます。実際のところ「つぎはぎだらけの脳と心」によるとIQテストをした際の「言語流暢性・空間把握」は男性の方が、「算術計算・共感性・協調性」は女性の方が高いという傾向があるそうです。これはあくまで“平均値”を比べた際の結果であり、すべての男性・女性に当てはなるわけではないということに留意してください。
このような脳の性差は、性ホルモンによるものであるということもわかっています。先天性副腎形成などによりテストステロン値が平均的な女性よりも高い女性のIQテストの結果は、統計学的に平均女性のものよりも平均男性のものに近くなるといった結果が現れるようです。
またアンドロゲン不能症の男性に同じIQテストをすると、アンドロゲン不能症の人のテスト結果の平均値は「空間把握」のみ平均的な男性・女性よりも統計的に低い値となるという結果となるそうです。テストステロンのような性ホルモンは生物学的な性だけではなく、脳の能力の発達にも大きく関わっているということでしょう。
脳・身体の性差 - 性的指向により生じる性差について
性的指向(同性愛者か、両性愛者かといった性の指向)はどのようにして決まるか、に関して「つぎはぎだらけの脳と心」では統計学的な調査や脳の性差といった観点から調査をしています。
本著が出版された2009年・アメリカ合衆国の統計によると男性の同性愛者は全男性の6%、女性の同性愛者は全女性の2%を占めています。そのうち女性で姉妹が同性愛者である場合その人が同性愛者である率は15%・男性で兄弟が同性愛者である場合その人が同性愛者である率は25%に上昇します。
また性染色体がXXY型でジェンダーが男性であるというクラインフェルター症候群の事例を見ると、クラインフェルター症候群の人々の約60%が同性愛者であるという統計があります。実際のところどれだけ遺伝的要因が性的指向に影響を与えるかは定かではありませんが、遺伝的・生物学的な要因の一部にこのような性的指向を決めるものがあると大雑把に推測することができます。
このような性的指向が脳や身体に与える(逆に脳や身体が性的指向に関わる)性差をより詳細に研究してみると、平均的な男性の同性愛者の場合INAH3の厚さがヘテロ女性とほぼ同じ厚さとなる、前交連の厚さがヘテロ女性よりもやや大きくなっているという器質的な違いがあることが判明しています。男性の同性愛者は脳の器質がより「女性らしく」なっているということができるでしょう。
また女性の場合でも先天性副腎形成などによりテストステロン値が高い女性は同性愛者である率が統計的に高いとのことです。
性的指向と脳・身体の関係がどちらが先であるとは判明していませんが、少なくとも脳の器質的な違い・性ホルモンの閾値の違いといった生物学的要因と一部関係があることが判明しています。個人的には、このような生物学的要因は「その人が純粋に好きだから」という環境的要因と比べれば影響が小さいのではないか?とも考えています。実際のところこうした要因の1つをとって「これが絶対影響してるに違いない」ということはできないでしょう。