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読書録:「人はなぜ夢を見るのか」②科学的研究・脳生理学研究編

1952年、クライトマン教授とその学生・アゼリンスキーは睡眠中の急速眼球運動(REM睡眠)と睡眠中の脳波の変調を発見する。アゼリンスキーの後任となったデメントがさらに詳細な実験を行うと、REM睡眠には以下の性質があることが分かった。

REM期に覚醒した際の夢想起率は78.6%、一方非REM期なら14.0%(n=1459)。ほぼ確実に、REM睡眠中は夢を見やすくなっている、あるいは夢を見た短期記憶が残りやすくなっていることがわかる。

・REM期の心拍・呼吸は荒く不規則になる。

・REM期には(男性も女性も)性器が充血する。夢に身体やセックスのシンボルが出やすいののはおそらくこのせいだろう。

・REM期には体中の筋緊張が失われる。身体は完全に脱力しているにも関わらず脳と眼・性器は活発に動いているという奇妙な状態になる。

・REM期には脳波はα波からθ波(4~7Hz)に変調する。これは浅い睡眠に相当する

・REM期は90分おきに、約10-20分ほど起こる。個人的に測ってみたところ、約6-7時間の睡眠で50-90分のREM睡眠をしていた。またREM睡眠は睡眠時間が長くなるほど長くて鮮明な夢を見やすくする効果がある。

一部の動物もREM睡眠をしている。哺乳類と一部の鳥のみにこれらが見つかっている。鳥類のREM睡眠は一回につき数秒あたりとかなり短く、これは止まり木に止まって睡眠を取る必要があるためと考えられている。

・REM睡眠に筋緊張を解く信号は、脳幹が制御していると考えられている。脳幹の一部を損傷したネコは、REM睡眠中に動き出してしまうことが分かっている。

カルヴィン=ホールによる夢内容の統計的分析

カルヴィン=ホールによる「日常夢」の調査。フロイトやユングが臨床研究したような「実験による夢」ではなく、統計的に多数を占める一般の大学生が日常見る夢5万例(1人から5-10例を抽出)の調査を行った。5万例の夢を分析したところ、どんな夢にも共通に備わっている内容項目としてこれらのカテゴリーがあると判明した。

①舞台設定
②自己役割
③登場人物
④衝動・禁止・罰
⑤葛藤・問題

①舞台設定

舞台設定は、夢見者の環境世界に対する無意識の感じ方を表す。私の舞台は実家や親戚の駄菓子屋・近所のショッピングモールやホームセンターになることが多い。「今日は寒いな」と思った次の日に氷を使うキャラクター・雪原の夢などをみたのでこれは自分の直観にも当てはまっている。

②自己役割

自己役割は無意識の自己像の具現化である。私の場合自己そのものに身体が伴わず、ただのカメラのような存在になっていることもある。また失敗や不利益を極度に恐れる性格のためか、準備不足や事故・情報不足などで立ち往生している夢が多い。

③登場人物

登場人物としては、大抵夢見者の家族や親しい友人が登場する。その人そのものではなく、夢見者が無意識に考えたイメージとして登場する。個人的には夢に家族・知人が登場することはほとんどなく、代わりにゲームのキャラがよく出る。ゲームのキャラが友達がわりなのだろう(笑

④衝動・禁止・罰

夢の中では、特定の衝動が夢見者が抱いているイメージが付随したものとして表現される。フロイトは男性・女性の性を象徴するもの全般の象徴を挙げているが、攻撃的な人であれば性的欲望を他人を武器で攻撃する行為や貫く行為として、ロマンチックな人であれば鋤で土を蒔いたり耕したり…といった形でこれを夢見るらしい。私は最近好きなキャラが銃で撃たれて死ぬ夢を見たので、どちらかというと攻撃的な性格をしているのだろう。

こうした衝動があれば、内なる心による禁止や罰もある。内的な禁止は体が動かなくなる・事故に遭う・警官や軍隊に逮捕される、などなどのシチュエーションとして現れる。個人的には、最近パラグライダーで木にぶつかりそうになる夢を見た。

内的な罰は天災や不運、監禁や絞首刑・死刑に遭うといったシチュエーションとして現れる。火山の噴火や核爆発に巻き込まれる夢を見ることがあるので、これは自罰願望を表しているのだろう。

⑤葛藤と問題

分裂した自己像や衝動にたいする禁止・自罰願望は葛藤と新たな問題を作り出す。例としてホールはシャワー室で女子学生とセックスしようとするがやめてしまう、という男子学生の夢の例を挙げている。男子学生がこの葛藤を感じると女子学生と水をかけて遊んで誤魔化し、気がつくと服を着て外にいて近くの教会から鐘の音が聞こえていた。
この場合夢は典型的な願望充足夢となっているが、男子学生の自我は勤勉な学生/快楽の追求という2つの自己像に分裂している。自己像の分裂が起こると、葛藤と問題が生じる
男子学生は教会から鐘の音=宗教教育を想起することでこの内面の葛藤を乗り越えようとしている、という意味を持った夢であると解釈できる。

夢にこれらのカテゴリーがあることが統計的な調査によって判明したほか、このような特徴があることが判明した。

①男性、特に独身男性の夢には男性の人物が登場しやすい。男性の夢見者の場合、男性の夢の人物は女性の約2倍ほど。女性の場合、男性・女性はほぼ同数出現する。個人的には、夢のモブキャラが女性だったことはほとんどない

②女性の夢には名前の分かる親しい人が登場することが多い。逆に男性の夢は名前の分からない見知らぬ人が多く登場する。個人的には、夢に登場するゲームのキャラ以外はほとんどが見知らぬモブキャラだった。

③性別や性自認に関わらず、成人の夢にあまり現れないのは動物・死や自殺に関わるもの・フィクションの人物。代わりに、子供はよくこういう夢を見るという。私は夢に動物もゲームのキャラもよく出るので、かなり幼稚な人間なのかもしれない(笑

④男性の夢には攻撃的・性的な内容がより直情的に現れやすい。一方女性の夢は登場人物の感情や場面の詳細が鮮明に現れやすい。

⑤ 性別や性自認に関わらず、夢で体験する感情は悲しみ、怒り、恐れといった否定的なものが多い。夢の内容もそれに伴い事故や怪我・不幸なトラブルといったネガティブな舞台設定となる。奇跡や幸せを体験できる状況を夢見るのは稀らしい。

ジュヴェ・ボブソンの脳生理学による夢分析

外科医のジュヴェは視床下部を除く大脳皮質を除去したネコの脳生理現象を調査する、というマッドな研究(笑)を行っていたところ、大脳皮質を除去した状態でもネコのレム睡眠と同じ30分周期で筋収縮とREM運動が起こることを発見した。また、この際ネコの脳幹からは不規則なスパイクを放つ脳波(PGO波)が出現していた。PGO波は人間にもあることが分かっていて、筋収縮とREM運動を引き起こすことからレム睡眠や夢の内容に影響を与える可能性があると考えられている。

ジュヴェに学んだハーバード大学院生・ボブソンの心脳空間モデル・AIMモデルの研究によると、レム睡眠を見ている間はアセチルコリンの分泌が盛んになり大脳新皮質・辺縁系が賦活することが分かっている。

アミン系 - ノルアドレナリン、セロトニンなどなど
コリン系 - アセチルコリンなどなど

コリン系が賦活しているレム睡眠中に脳や意識に影響を及ぼすのは五感ではなく脳幹から発生するPGO波である、という仮説をボブソンは提唱した。ボブソン説によると、夢の内容とは一見出鱈目なPGO波に大脳新皮質・辺縁系が反応した結果ということになる。

クリックの逆伝播説・夢解釈害悪論

DNA研究で知られているクリックは、研究対象を意識科学に移し「レム睡眠・夢は逆伝播である」という仮説を提唱した。逆伝播とは、教師あり学習を行うニューラルネットワークが各ユニットに順伝播した値の微分を順に後ろのユニットに反映し、ウェイトとバイアスを更新する機械学習の過程を指す。

人間や動物の脳もニューラルネットワークなので、教師あり学習に近い形で学習を行った後は何らかの形で逆伝播を必要とすると考えられる。クリックによるとPGO波がこの逆伝播に相当する、そのため人間が見ている夢とは学習したいことそのものとは実は逆の内容になっているとも考えた。これは夢見や夢解釈はむしろ学習やメンタルヘルスに害悪であるという「夢解釈害悪論」の根拠にもなっている。夢はネガティブな内容が多いということがホールの統計的調査で分かっているので、人によっては夢解釈害悪論が当てはまるケースもあるだろう。

進化心理学的な夢機能の4大仮説

「なぜ夢を見ることが進化論的に優位なのか」という進化心理学的見地から見た夢機能には、4つの説が紹介されている。

①本能的衝動の解放説
フロイトの願望充足説に相当する説。ネコのレム睡眠を断眠させると、食欲や性欲・攻撃性を亢進させることがわかっている。個人的な体験だが、睡眠時間を延ばした結果よく夢を見るようになった・日常イライラすることが減ったのでこの説は当たってる感じがする。

②ホメオスタシス仮説
脳活動が一定以下に下がり、心肺停止や脳機能の停止を避けるためにレム睡眠・PGO波などの脳を周期的に賦活する機能があるという生物学的な理由によるもの。

③学習記憶・逆伝播説
コンピューターの記憶領域・教師あり学習に脳を見立てたクリックによる仮説。同じ教師あり学習による類推でも、夢は有用な記憶を強化する順伝播による学習であるとする仮説もある。

④疲労回復説
レム睡眠は疲労の回復のために行われる、という説。レム睡眠や夢はストレスや激しい学習が続くと増える、というデータも存在する。

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