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目指せ!ES#003:オームの法則/ジュールの法則


今回の目標

電気電子回路を学ぶにあたってどうしても欠かせない「電圧」「電流」「抵抗」「電力」「電力量」という言葉を理解するとともに,大変重要な基礎公式である「オームの法則」と「ジュールの法則」について学びましょう.

言葉の意味をしっておく

「電気」という言葉は極力避ける

電池を入れるとラジオが鳴る,コンセントを挿すとドライヤーが動く,パソコンが高速に計算をこなす,冬の寒い時期にドアノブを触ったらバチッと音がして痛い思いをする,夏の暑い日の夕立でゴロゴロ…ピシャン!と雷が落ちる.これらはすべて「電気」という物理現象によって起こっています.

我々は普段,これらの物理現象を総称した概念として「電気」といっていますが,「電気」という言葉を含む身の回りの文章をよく読んでみると,「電気」という言葉をかなり不正確に使用している事例が多く見つかります.すなわち,本来ならば(この後で説明する)「電圧」「電流」「電力」という言葉で表現すべきところで「電気」と書いて(言って)しまっている事が頻繁にあります.

「電圧」「電流」「電力」を「電気」と言ってしまっても日常会話ではそれほど大きな問題とはなりません.しかし技術者として話をする場合「電気」では意味が不正確なために話が噛み合わなくなってしまう事が考えられます.あいまいな言葉「電気」は極力避けて,より正確な言葉を使うように意識しましょう.

電圧

単三・単四などのごく一般的な乾電池では,円筒形の端面が電極になっています.小さな突起がある方がプラス極(正極),平らな方がマイナス極(負極)になります.

乾電池は化学作用により,「マイナス極から電子(※1)を外に押し出そうとする力」が働いています.この押し出そうとする力の事を「電圧」といい,単位はV(ボルト)で表します.単三乾電池1本の電圧は1.5Vです.


※1 物理現象としての「電気」の正体は,材料の中にある電子が移動(しようと)する現象です.ところが「電気」が発見された時は,まだその正体が「電子」であることがわからなかったため,なんだかわからないが「電気の源である粒子はプラス極から出る」と仮定され,その考え方が定着しました.電気の正体が電子というマイナスの粒子であることが発見された時には時すでに遅く,今さらプラスとマイナスの定義を入れ替えることもできないため,電気の源(電子)はマイナス極から飛び出すという不思議な状況が現在まで続いています.


乾電池を空気中に置いておくと,マイナス極には電子を飛び出させようとする力(=電圧)が生じていますが,電子は空気中に容易に飛び出せないため,実際には電子は飛び出ません.このように「動きはないが力が存在する」というエネルギーを「ポテンシャルエネルギー」といいます.

電流

電池のプラス極とマイナス極を電線で接続すると、マイナス極から電子が勢いよく飛び出して流れていきます.この現象を「電流」といいます.またこの電子がどの程度流れているか,すなわち電線上のある点をどれだけの電子が1秒間に通過していくかを表す値も「電流」といい,単位はA(アンペア)で表します.

電圧と異なり,電流は電線を接続し,電子が移動できる状態を整えて初めて発生してエネルギーとなります.このようなエネルギーを「運動エネルギー」と呼びます.

抵抗(電気抵抗)

同じ乾電池なのに,空気中では電流が流れず,電線(金属)では電流が流れるのはなぜか.それは空気と金属で「電流の流れにくさ」が大きく異なるためです.この「電流の流れにくさ」(※2)を表す値が「抵抗(値)」で,単位はΩ(オーム)であらわします.


※2 より正確には、時間によって値が変化しない電流,すなわち「直流電流の流れにくさ」です.直流電流による電流の流れにくさ(=抵抗)と,時間によって変動する「交流電流」の流れにくさは異なり,後者は「インピーダンス」といいます.ですがエンベデッドシステムスペシャリスト試験を受験するにあたっては,直流の知識だけをまずしっかり押さえておけば大丈夫と思います.


電力

LED電球売り場に行くと,同じメーカー・ブランド・大きさ・形の電球でも「60形相当」とか「40形相当」というような違いがあります.

Panasonic Webサイトから引用

これは電球が放つ光の明るさを表しており,値が大きいほど明るいものとなります.昔ながらの白熱電球では「60W」や「40W」と表記されていました.

回路に電流を流した時,その「電流がもたらす単位時間(=1秒)あたりの〈仕事〉(ここでいう仕事は日常用語としての仕事ではなく物理用語としての〈仕事〉)の大きさ」を表す値が「抵抗(値)」で,単位はW(ワット)であらわします.60Wの電球は40Wの電球よりも1.5倍仕事をする(=明るい)ということです.

電力量

出典:Electrical meter1.jpg KENPEI

エンベデッドシステムスペシャリスト試験にはあまり関係ありませんが,参考として電力量についても学んでおきましょう.

どの家にも、玄関近くに「電力量計」が設置されており、電気会社はこの電力量計の値を確認して毎月の電気料金を請求します。「毎秒使用される(そして多くの場合時間に伴って変化する)電力を、一定時間積算した(積分したといってもいい)値」を表す値が「電力量」で、単位はW・S(ワットセコンド)とかW・h(ワットアワー)であらわします。

少し前までは、家庭の電力量計測に使用するメーターは上のように金属の円盤がくるくる回るタイプの電力量計が一般的でした(現在はデジタルタイプのスマートメーターが主流)。このくるくる回っている円盤は、その瞬間に家庭が使用している電力の大きさで速度が決まります。わかりやすくいうと、エアコン・ドライヤー・電子レンジ・炊飯器を同時につけるなどして大量の電流が電線から家庭の中に流れ込むと、円盤の回転速度が速くなるということです。そして円盤が歯車を回すことで、上部の数値表記が変化するしくみになっており、歯車の回転量を記録しておくことで電力の積算を行い、電力量に換算しているのです。

オームの法則

直流電圧源(乾電池など)と抵抗器(一定の抵抗を持つ部品)を電線で接続して回路を作ります.

オームの法則

電圧(E)[V],電流(I)[A],抵抗値(R)[Ω]には以下の関係があります.この関係性を「オームの法則」といい,電気電子回路を理解するための最も重要な法則となります.

$$
E=R \cdot I
$$

式を変形して以下の形てもよく使うので,さっと思い出して使えるようにしておきましょう.

$$
I = \frac{E}{R}\\
R= \frac{E}{I}
$$

抵抗器や電源が複数ある場合

抵抗器や電源が複数ある場合は,それらを合成して一つの仮想的な抵抗器・電源とみなして計算したり,キルヒホッフの法則を用いて複数の方程式を立て,それらを連立方程式として解くことで,各部の電流や電圧を求めることができます.

交流電源の場合

交流電源の場合にもほぼ同様の関係が成立しますが,交流の場合は抵抗(レジスタンス)だけでなくコイル(インピーダンス)やコンデンサ(キャパシタンス)も加味した「インピーダンス」で計算する必要があり,交流の周波数にも依存します.ただしエンベデッドシステムスペシャリスト試験ではほぼ出題されません.

ジュールの法則(ジュールの第一法則)

オームの法則を説明した時と同じく,直流電圧源(乾電池など)と抵抗器(一定の抵抗を持つ部品)を電線で接続して回路を作ります.

このとき,抵抗器の消費電力(P)[W],電源電圧(E)[V],回路電流(I)[A],以下の関係があります.この関係性を「ジュールの法則(ジュールの第一法則)」といいます.

$$
P=E \cdot I
$$

オームの法則が成立する環境であれば,オームの法則と組み合わせて以下のように表現することも可能です.

$$
P= I \cdot R \cdot I = I^2 \cdot R\\
P= E \cdot \frac{E}{R} = \frac{E^2}{R}
$$

電力量を求める

電力量(W)を求める場合は,瞬時電力P(t)を一定時間積分します.積分時間の単位が秒であれば単位は[W・s],時間であれば単位は[W・h]になります.

$$
W =\int_0^t P(t) dt
$$

特に電力P(t)が一定値(P)であれば,単純に

$$
W = P \cdot t
$$

で求められます.

交流電源の場合

交流電源の場合にもほぼ同様の関係が成立しますが,交流の場合は抵抗(レジスタンス)だけでなくコイル(インピーダンス)やコンデンサ(キャパシタンス)も加味した「インピーダンス」で計算する必要があります.コイル(インピーダンス)やコンデンサ(キャパシタンス)のバランスで決まる電圧と電流の位相差φ[rad]から求まる力率cos(φ)が電力に影響します.ただしエンベデッドシステムスペシャリスト試験ではほぼ出題されません.


執筆者
N.Y.City(山口直彦)

工学院大学学生職員、組み込みエンジニア、専門学校HAL東京(先端ロボット開発学科)教員を経て、現在東京国際工科専門職大学(情報工学科)助手。プログラムや電子回路、産業用ロボット教育等に従事。その他、音楽情報科学研究、文筆業、ラノベ研究や発達障害者支援、写真等も。

主要著書
コンピュータの動くしくみ(電子書籍再刊)』(秀和システム,2019年)
小説の生存戦略 ライトノベル・メディア・ジェンダー』(青弓社,2020年)
Web連載「イメージでしっかりつかむ信号処理」(APS-WEB,2023~)

より詳細なプロフィールはWeb(N.Y.Cityのまちかど)へ。


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