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目指せ!ES#004:DC&ACモータの使い方入門

【こちらの記事も参考に】
「目指せ!ES#001:センサとアクチュエータ」


DC(直流)モータはモータの基本

電気で動く模型やおもちゃに入っているモータといえば,昔から「マブチモーター」が定番品です(といっても「マブチモーター」は企業名でモータの種類ではありません).乾電池とモータをつないで,ブーンとモータを回してみた経験がある人もいるかと思います.このように直流電圧(直流電流)を与えることで回るモータを「直流モータ」とか「DCモータ」といいます.

DCモータとブラシレスDCモータ

エンベデッドシステムスペシャリスト試験ではモータそのものの構造を問われることはまずないと思われますので詳しくは説明しませんが,DCモータの場合,中に入っている「ブラシ」という部品だけは知っておいてください.
DCモータは,中心軸の電磁石に電流を流すことで外側にある永久磁石と反発・吸引の力を作って回ります.しかし,ただ一方向に電流を流すだけではすぐに力がつりあってしまい,動きが止まってしまいます.そこでDCモータは「ブラシ」という部品を使い,タイミングよくコイルに流す電流の方向を切り替えることで連続回転を実現します.
ところがこの「ブラシ」には,使っていくうちに削れてしまうという欠点があります.常に回転軸へ押し付けられる部品なので仕方がないのですが,これが故障の原因になってしまいます.
「ブラシレスDCモータ」はその名の通り,トラブルを避けるために「ブラシ」にかわって非接触のセンサと制御回路を使用するモータです.構造や使用方法はDCモータと大きく異なるので混同しないようにしましょう.

DCモータの回転速度制御

基本的に,DCモータに加える電圧(≒電流)を高くすれば,回転速度は速く,逆に電圧(≒電流)を低くすれば遅くなります.ただしDCモータ自体は細やかな速度制御が比較的苦手で,回転軸にかかる負荷が変わると回転数もすぐに変わってしまいます.
回転速度を一定に保ちたい,回転速度を制御して変化させたいという場合は,センサを利用して回転速度を監視して,フィードバック制御をかけてあげる必要があります.そのため,フィードバック用のセンサや回路が最初から内蔵されたモータも存在し,「サーボモータ」といいます.

実は身近なAC(交流)モータ

交流電圧(交流電流)を与えることで回るモータを「交流モータ」とか「ACモータ」といいます.扇風機・エアコン・ミシンなどの家電製品にも実はよく使われており,意外と身近な存在です.また電車を走らせているモーターは,かつてはDCモータを使用していましたが,現在はACモータが主流になっています.

単相?三相?

一口にACモータといっても,構造によってさらにたくさんの種類があるのですが,エンベデッドシステムスペシャリスト試験ではそれほど気にしなくて大丈夫でしょう.ただし「単相」と「三相」の違いくらいは知っておいた方が良いと思います.

単相
交流電圧(交流電流)は,いわゆる正弦波(サインカーブ)の形をしています.最も身近な交流電圧である家庭用の商用電源(コンセントに来る電圧)は,100V(※)で50Hz(東日本)または60Hz(西日本)です.このように単独の正弦波で使用する交流電源を「単相(交流)」といいます.単相交流を与えて回すモータを「単相交流モータ」といいます.

コンセントの電圧(東日本の場合):単相電圧の例

※ 図のグラフを見てもらうとわかりますが,(交流の)100[V]といった場合,電圧の最大値はおよそ±141[V]になります.100[V]というのは「同等のエネルギーを持つ直流電圧に換算した時に何ボルトになるか」という交流電圧の表し方で,これを「実効値」といいます.正弦波の場合,実効値Eと最大電圧Emaxには以下の関係が成り立ちます.

$$
E_{max}=\sqrt{2} \cdot E
$$


三相
少しずつタイミングをずらした(より正確には「位相を120°ずつずらした」という)正弦波3つをセットで使用する交流電源を「三相(交流)」といいます.三相交流を与えて回すモータを「三相交流モータ」といいます(なぜ3なのかと聞かれるとまた説明がかなり難しくなるので割愛します).家庭のコンセントは単相ですが,じつは家庭のすぐ横までの送電は三相交流です.

三相電圧の例

ACモータの回転速度制御

ACモータの場合,電圧の上げ下げは主にトルク(回転力)に影響し,回転速度にはそれほど変化がありません(電圧を下げすぎるとパワーダウンして回転数も落ちます).ACモータの回転速度は,入力電圧の周波数に依存するため,入力電圧の周波数を変更することで回転速度を制御します.この時に重要になる装置が「コンバータ」と「インバータ」です.

コンバータ:直流を作る回路
電源電圧を受け取り,そこから必要とする直流電圧を作る回路のことを「コンバータ」といいます.単に「コンバータ」と言う場合は交流電圧を入力して直流電圧を出力する回路を指すことが多いですが,直流電圧から直流電圧を作る(電圧を変える)回路も「DC-DCコンバータ」と言ったりします.

インバータ:交流を作る回路
電源電圧を受け取り,そこから必要とする交流電圧を作る回路のことを「インバータ」といいます.通常「インバータ」と言う場合は,直流電圧を入力して交流電圧を出力する回路を指すことが多いですが,(広義の)インバータとして,交流電圧から交流電圧を作る(電圧や周波数を変えたり,単相から三相を作ったりする)ものを指す場合もあります.この場合はコンバータと(狭義の)インバータを組み合わせて,いちど入力(交流)電圧を直流に変換してから再度(狭義の)インバータで交流を作っています.

(広義の)インバータの例

執筆者
N.Y.City(山口直彦)

工学院大学学生職員、組み込みエンジニア、専門学校HAL東京(先端ロボット開発学科)教員を経て、現在東京国際工科専門職大学(情報工学科)助手。プログラムや電子回路、産業用ロボット教育等に従事。その他、音楽情報科学研究、文筆業、ラノベ研究や発達障害者支援、写真等も。

主要著書
コンピュータの動くしくみ(電子書籍再刊)』(秀和システム,2019年)
小説の生存戦略 ライトノベル・メディア・ジェンダー』(青弓社,2020年)
Web連載「イメージでしっかりつかむ信号処理」(APS-WEB,2023~)

より詳細なプロフィールはWeb(N.Y.Cityのまちかど)へ。


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