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NYCショート vol. 3 / 大麻と立ちション

 もう10年以上も前のことです。
 イーストビレッジの路上。
 友達と二人で大麻を吸っていたら、逮捕されてしまいました。
 私服の警官3人に。
 いきなり警察バッジを見せられて「お前ら何吸っているんだ?」と捕まれ、手を後ろに回されると、手錠をガチャン。
 もう他には持ってないか?と、ポケットはもちろん、襟の下も隈なく調べられました。
 その後どうなったのかと申し上げますと、アメリカ事情に精通されている人なら知っていると思いすが、こういった場合、とりあえず最寄りの警察署に連れて行かれ、指紋を採取されます。
 こいつら、指名手配中じゃないだろうな?とデータベースと照合するんです。 
 これ、マックスで4時間もあれが判明するんですけど、その間、署内の拘置所に放り込まれます。 
 指名手配中でないことが確認されたら、何月何日に裁判所に出廷るすようにという違反チケットを渡され、帰路につけます。

 わたしも友達も、警察とトラブったのは初めてではなかったんで、プロセスは理解してましたし、お互いに指名手配中ではないことには自信があったんで、至って冷静でした。
 「何時間で出れるかね。出たらまた飲み直さないと」
 仕方ないね、という感じでした。
 
 30分ほどすると、テニスウエアを着た男性二人が連行されてきました。
 一人は「こんちわ」と笑顔で挨拶してきました。
 けどもう一人は明かに挙動不審。
 どこからどう見てもナーバスだろと言えるハイペースで、牢の中を行ったり来たりしてました。
 「どうしたの?」と聞くと、冷静な方が説明してくれました。
 「いやさ、聞いてくれよ。俺たち、それぞれのワイフと4人でテニスしてたんだよ。それでワイフたちがドリンクを買いに行っちゃったからさ、その間に、彼と二人でジョイント(大麻)を吸い始めたんだ。そしたら隣のコートでプレーしてたのがさ、非番の警察官だったんだよ。どんだけアンラッキーなんだ!?という話だろ。今頃ワイフたちは、俺たちのことを探しているという顛末だ」
 それは災難だったね、でも悪いけど、笑えるねと話していたら、すぐに警察官が来て「オールライ、こちらに来なさい」とナーバスになっていた男性の方に言いました。
 観念したかのように下を向くと、男性は何も言わず、警察官の指示に従いました。
 手錠をされ、違う部屋に連れて行かれました。
 「指名手配」と聞くと、殺人犯とか強盗犯などを連想しがちだけど、アメリカの場合は、例えばスピード違反の裁判で出廷しないで放っておくとそれで「指名手配」になるから。
 けどあのナーバス振りからすると、それ以上の可能性が高いな。
 そんなことを考えていたら、また警察官が来てわたしに言いました。
 「お前、帰れるぞ」
 
 その数週間後、今度は立ちションで捕まりました。
 場所は同じくイーストビレッジ。
 いい気分で酔っ払って立ちションしていたんですけど、ハッと気づいたら、そこは警察署の真ん前だったんです。
 警察官にやや乱暴に肩を組まれ「お前、何やってると思っているんだ?」と笑顔で聞かれました。
 ヤバい!とすぐに己の愚行に気づいたので、平謝りに謝りましたけど、違反チケットを渡されました。
 またまた出廷、という意味です。

 大麻も立ちションも、同じダウンタウンの裁判所でした。
 まず大麻の件で出廷しました。
 傍聴席に座り、自分のケースが呼ばれるまで待たないといけません。
 その間に、他のケースを傍聴できるんですけど、ほとんどが大麻、公の場で露出した、小便したといった類のものばかりでした。

 小一時間ぐらいで、わたしの番になりました。
 裁判長の前に立ち、宣誓。 
 「前に大麻、麻薬などで逮捕されたことは?」など2、3質問され、裁判長からは「半年間トラブルを起こさないように」と言い渡されただけでした。
 罰金も何もなし。
 半年また警察とトラブらなければ、今回の逮捕歴も、記録から抹消される、とのことでした。

 その数週間後、今度は立ちションの件で、同じ裁判所に行きました。
 その前に、シティバンクのATMにより現金を引き出しました。罰金を払わないといけなくなった時に備えて、です。
 そのあと、隣のコンビニでドリンクを買おうと20ドル札を出したら、店員に「これは偽札だ」と指摘されました。
 は!?今そこの銀行で下ろしてきたばかりだし、とすぐに銀行に戻って行員に説明したら「その20ドル札をうちのATMで下ろした証拠はありますか?」と、全くとりつく島なしでした。
 なら防犯カメラを確認させろと言いたいところでしたけど、時間に限りがあったので、仕方ないと諦めて裁判所に向かいました。

 裁判では、普通に名前だけ呼ばれて、何も聞かれずに「罰金50ドル」と言われました。
 大麻では罰金も何もなし。けど立ちションは罰金50ドルか。
 
 ならさっき下ろしたお金で払おう。
 裁判所のキャッシャー係は、コンビニの店員みたいに、偽札だったら色が変わるペンなんて使ってないだろう。
 案の定、そんな気配はなし。
 無事、シティバンクで下ろした「偽札」で、50ドルの罰金の支払いを、済ませることができました。



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