ロマンスと競馬
「サブスクで映画」なのか「映画鑑賞」なのか
人生において、趣味は何かと問われる場面が何度かあると思います。
マッチングアプリでも、お見合いでも、何かの面接でも同じことです。
その際「趣味はサブスクで映画を見ることです」と書くと
「趣味というほどのものはないので無難なものを挙げました」(被告)
「そうですか。では趣味の話はスルーします」(検察)
という一種の司法取引のような契約が双方、無自覚のうちに成立するような気がします。
「本当は競馬もお好きでしょう?どうなんです?」と食い下がってくる人には、あまりお会いしません。
ところが、これを「趣味、映画鑑賞」と書くとどうでしょう。
たちまちにして映画の地位は、崇高な芸術の領域まで昇華するのです。
ちょっと大げさですか。
いいえ、映画を愛でる人が、競馬中継が終わったあとの手持ちぶさたに『ワイルドスピード』とか『コンフィデンスマンJP』を二倍速で見るはずがありません。
きっと映画鑑賞で賞されるのは、カンヌだかイボンヌだかの映画祭で、金のカタクチイワシ賞みたいなのを獲った玄人向けの映画に決まっているのです。
献身的な愛だとか人間の尊厳だとかを描いた話、あるいはゴダールとかトリュフォーみたいな一昔前の批評家が好むツウな作品、とにかくそういうやつです。
しかし、この場合でも結局は「サブスクで映画」と大差ありません。
なぜなら、お相手が同じレベルであなたの映画愛に応えてくれる可能性は高くないと考えられるからです。
ちなみにボクは金髪と火薬が多めで話の分かりやすい映画を好むので、小難しい作品を見ると高い確率で寝てしまいます。
「趣味、映画」の解決法
いずれにせよ、趣味に映画とだけ書くと、それ以降の会話が続きにくいことに違いはありません。
そもそも趣味を書かされるのは話のネタ探し的な理由によるわけですから、相手が食いつきやすいエサを巻くというのが基本です。
ボクはこの答えを知っています。
具体的に映画の名前を書いてしまえばよいのです。
その際「『ジュラシック・パーク』を見ること」とか「『トイストーリー』鑑賞」とか、誰でも知っていそうな、とにかく有名どころを書いておくことをおすすめします。
そうすれば、二人の話にも花が咲き、いつかUSJやディズニーランドへの道も開けるというわけです。
これを間違っても「『愛と追憶のカタクチイワシ』が好きです」と書いてはいけません。
「えー、知らないです」
「面白いですよ」
「今度見てみますね」
というお決まりの3フレーズで終わってしまいます。
「趣味、競馬鑑賞」
ところで「趣味は競馬鑑賞です」と書くのはどうでしょうか。
これでもう競馬も芸術の域に高められ、「差せ」だの「粘れ」だの酔狂な叫び声はシャットダウンされて、ワンカップの匂いがワインの香りに変わるはずです。
「貴女も競馬をご覧になるのですか」
「ええ、AJC杯などを少々」
「どうですか、今度ご一緒に中山競馬場のゴンドラ席にでも」
「まぁ、すばらしいことですわ」
そんな感じでしょうか。
アリってことにしておきます。