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最果てには馬がいる

「終着駅」という言葉はロマンを掻き立てます
故八代亜紀さんの歌にも『愛の終着駅』という有名な曲がありますね。

ボクは、この時期よく長野の渋温泉に行きます。
雪降るなか露天風呂につかって温まるスノーモンキーで有名な温泉地です。
長野駅で新幹線を降りたあと、長野電鉄、通称ながでんに乗り換えて特急電車で小一時間ほどの場所にあります。
このながでんの車内で「次は終着駅、湯田中です」というアナウンスが流れるのです。
このときボクは「終着駅」という言い回しのどこか切ない響きに胸を震わせます。
長い旅路の果てに、ようやく辿り着いた場所。
「遠いところまで来た。もう簡単には戻れやしない。ここがボクの人生の終着駅だ」みたいな雰囲気に浸っているうちに湯田中の駅に到着して
ターラーラー タラ タッタッタッタッ ターラーラー
と昭和歌謡っぽい陽気なご当地ソングが流れると、そういう妄想はすっ飛んでしまうのですが、とにかく「終着駅」という言葉には不思議な魅力があります。

これが「終点」だと本当につまらないのです。
酔っぱらって寝すごした末に連れていかれた場所という感じで、ボクの場合は、みなとみらい線の元町・中華街あたりがそうです。
「あー、やっちまったー」的な脱力感がすごいのです。
TV版『銀河鉄道999』の最終回でも車掌さんは
「長らくのご乗車ありがとうございました。次は終着駅プロメシュームです」とアナウンスします。
これを「終点プロメシュームです」と言わせようものなら非難轟々、いかな松本零士先生といえども大炎上し、かの宇宙戦艦も撃沈されるに違いないのです。

ところで、ボクは旅行が好きなので年中あちこちに出かけます。
終着駅まで乗り継ぐとは言いませんが、ほぼそれに近い日本の端っこを訪れたことも何度かあります。
そして、そのような土地では馬を見ることが多いということに気づきました。

例えば、青森県を走るJR大湊線のほぼ終着駅、下北に近い日本最北端の尻屋埼灯台には寒立馬かんだちめという馬が放牧されています。
見るからに頑丈そうな足の短い農耕馬です。

また、宮崎駅からJR日南線に揺られること2時間、串間市の南端にある都井岬には御崎馬みさきうまという在来種が生息しています。
サラブレッドに似ていますが、体はひと回り小さく頭でっかちな馬です。
天然記念物として保護されてはいますが、野生の馬を見るのは珍しいと思います。

同じく九州、鹿児島県の開聞岳でも馬に出会えます。
鹿児島駅から指宿枕崎線に乗るのですが、少し手前の西大山という駅がJRの最南端なのです。
ここには、やはり在来種であるトカラ馬が放牧されています。
体が小さく、これは見た目もポニーですね。
ちなみにボクは、このトカラ馬に餌を与えようとして指を噛まれたことがあります。

このように日本のあちこちの端っこで馬と出会うことがあるのです。
競走馬のように早く駆けることはないのでしょうが、厳しい自然の中で力強く生きている姿は、遠くまで来たという旅情と相まって、いっそうボクを感傷的にさせます。
競馬を人生の趣味とする我々は毎週のように馬を目にするわけですが、旅に出て長い道のりの末に辿り着いた最果ての地で待っているのも、また馬たちなのです。

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