リレー小説 note 5 「とある宇宙の片隅で」
さて、リレー小説のnote5です。(’~^)ゝ
場所も時代もぶっとんで、いきなり唐突な展開ですが、ちゃんと未来ノートでつながっています。どうつながってるかは読んでみてのお楽しみ!
プランニングにゃろ
◇note 3「人間ゲーム(仮)」(執筆者:Rhythm(ないしKj)) #小説
◇note 4「サイトーくん。」(執筆者:谷川文屋) #小説
星もまばらな、限りなく漆黒に近い宇宙空間を、直径数キロに及ぶ、ツギハギだらけの巨大な鉄の塊が、光速の75%の速度でおごそかに進んでいた。
それは、文明の異なる宇宙船12隻をつなぎ合わせた「宇宙移民船塊」だった。
数十年前、全宇宙規模の空間震によって、生命体が存在する惑星のほとんどが崩壊し、運良く恒星間航行技術を持っていた、わずか12の惑星に住む者だけが宇宙船で脱出を果たした。
その後、旅の過程で合流した各文明の宇宙移民船は、技術連携により生存確率を上げるため、お互いの宇宙船をつなぎ合わせ、「宇宙移民船塊」という1つの巨大な鉄塊を形成するに至ったのだ。
12の文明に属する12の種族は、姿形や価値観の違いこそあれ、移住可能な惑星を探すという共通の目的のために、最初の内は一致団結、各文明の技術を結集して、船内に完全な長期生命維持システムを構築し、平和で快適な生活を送っていた。
しかし、様々な宇宙探査の結果、もはやこの宇宙のどこにも生命体の生存可能な惑星が存在しないと判明してからは、種族間の船内権益をめぐる小競り合いが多発し、それはすぐに全面的な船内戦争へとエスカレートしていった。
皮肉にも、宇宙で唯一の希望だった船は、絶望に満ちた巨大な棺桶となったのである。
そして現在、生き残っている生命体は、2体。
1体は、高度科学文明を持つ種族の生き残り、認識名「EV01102233」、
もう1体は、好戦的な戦闘種族の生き残り、認識名「AD01051201」だった。
2文字のアルファベットは種族コードで、8桁の数字は個体番号を意味していたが、それぞれが最後の1体になった今、もはや個体番号に意味は無いので省略しよう。
EVとADは、外見は非常に似通っていたが、生体構造が多少異なり、価値観や文化体系にいたっては、大きく異なっていた。
むしろ、見た目が似ているからこそ、余計に違う部分が際立ち、お互いに嫌悪感を抱いてしまうのかもしれない。
切れかかった照明だけがパチパチと点滅する薄暗い船内通路の一角。
EVは、息を潜めて敵が来るのを待っていた。
通路に張り巡らせたハイテクな殺傷トラップたちは、確実に敵を、あの恐ろしい戦闘種族「AD」を消し去ってくれるだろう。
こんな状況なのに、何も殺しあう必要なんて無いんじゃないかと思うかもしれない。しかし、こんな状況だからこそ、2体にとっては、殺しあうという選択肢しか無かった。
なぜなら、仮に休戦を申し入れるために接近したとして、万が一相手にその気が無ければ、自分が死ぬだけでは無く、自分たちの種族が宇宙から消え去る事も意味するのだ。
それ以前に、何を考えているか分からない異種の生命体は単純に「恐怖」であり、仲間に危害を加えた存在には「憎悪」を抱かずにはいられない。
そして、どんなに知的な生命体にとっても、「恐怖」と「憎悪」を上回る感情など存在しないのだ。
「あまり戦闘は得意じゃないけど、私には高度なトラップを作るテクノロジーと、もう1つ、いつでも私を守ってくれる、このノートがあるもの・・・。」
EVは、自分を励ますようにつぶやくと、服の内側に大事にしまってある赤いノートにそっと手を添えた。
まだ、残存生命体が3体だった頃、EVと共に戦ってくれた爬虫類型種族のHB00012103が、死の間際にEVに手渡してくれたのがこのノートだ。
血で赤く染まっていて見えなかったが、このノートの表紙には、HBの言語で「未来ノート」と書かれていて、この中に書いたことは現実になるという。
見かけによらず繊細な心を持ったHBは、自分がこのノートを使ったせいで母星が滅んだんじゃないかと、いつも気に病んでいたものだ。
そんな事があるわけがないとその時は思っていたが、今、私が死を免れているのも、このノートに書いた事がことごとく現実になっているおかげだ。
確かにこんなすごい効果があるなら、星を滅ぼすことだってできるかもしれないなと、今なら思う。
直接ADが死ぬようにと、ノートに書けば叶うのかもしれない。
でも、それはなんだか、このノートを託してくれたHBに悪い気がして、やってはいけない事のように感じていた。
!!!
EVは、誰かが船内通路を歩いてくる気配で、ハッと我に返る。
来た! ADだ!
ADに気づかれないように、よりいっそう息を殺すが、
緊張の汗がしたたり落ちる。
ジリジリと近づいてくるADの気配。
もうかなりの至近距離だ。
おかしい、もうトラップの起動範囲に入ってるはず! なんで!?
AD「そこかっ!」
EVが隠れている気配を察知して、銃を乱射しながら走ってくるAD。
EVのトラップのいくつかが爆発するも、なぜかADには当たらない。
焦りと恐怖で混乱し、必死で逃げ出すEV。
足がもつれて、何度も転びそうになるが、なりふり構わず走り続ける。
ガガガガガガガガガッ!
逃げるEVに向けて乱射される実弾は、
薄暗い通路に火花と焦げた匂いを撒き散らす。
しかし、ADの弾丸も、EVにはなぜか一発も当たらない。
AD「なんだ? なぜ当たらない!?」
その時、跳弾の一発が、壁の制御パネルに当たり、サイレンが鳴り響いた。
「システムメッセージ。隔壁閉鎖開始。3分後にレイヤー5のライン23で船体がパージされます。乗組員は早急にレイヤー5から退避してください。」
隔壁に分断され、さらには船体が分離され、
図らずも2体は強制的に休戦状態となった。
緊急パージで分離された船体は、30分後に自動的に再結合フェーズが実行され、再び連結される。30分だけの、ささやかで完全な休戦時間だ。
EVが船窓から覗くと、向こう側の船窓からADの影がこちらを睨んでいるように見えた。
ノートのおかげで、あいつの弾には当たらずに済んだけど、
どうして、トラップが効かなかったんだろう?
トラップ以外で、私はあいつを殺すことができるんだろうか・・・。
ADが船窓から覗くと、向こう側の船窓でEVの影がブルブルと震え上がりながらこちらを伺ってるように見えた。
無様なヤツだ。あんな軟弱な種族がなんで生き残ってるのか理解に苦しむ。
それに、さっきの戦闘・・・。
あの距離でオレの射撃が全弾はずれるなんて、確率的にも有り得ない事だ。
「導き出される結論は・・・
アイツもこれを持っているということか・・・。」
そうつぶやくとADはおもむろに懐から青いノートを取り出す。
『未来ノート』
表紙には、ADの言語の落書きのような文字で、そう書いてある。
倒した敵から戦利品として奪ったこのノート。
武器や食料の調達に不思議な効果で役立ってくれているが、
どこまで書いた事が現実になるのかはまだ試してはいない。
しかし、アイツもノート使いとなると、さて、どうしたものか・・・。
かといって、直接ノートで敵を倒すというのは、我々戦闘民族としてのプライドが許さない。どうにかして、接近戦に持ち込めれば、アイツがいかにノート使いと言え、撃ち殺せるとは思うんだが・・・。
そうだ、身体的にも精神的にも一人では生きていけないようにしてやろう。
そうすれば、アイツはオレを求めずにはいられないようになるだろう。そして、アイツはオレとの共存を持ちかけるために、必ず接近を試みるはず。その時が撃ち殺すチャンスだ!
ADは、嬉々として、思いついたその名案をノートに書きなぐった。
一方、EVは個体複製センターにいた。
もし、自分が死ぬことになっても、バックアップを作っておけば、まだ希望が残せると考えたからだ。
個体複製センターには、本来生身なら体内で数ヶ月かかる個体複製が、短時間で可能になるシステムが幸いにもまだ稼働していた。
EVは、自分の細胞を採取し、個体複製機にセットし、スイッチを押す。
「Y chromosome not found。DNAが欠損しています。個体複製には他種族とのDNA融合が必要です。」
ディスプレイに表示されたエラーメッセージを見て、EVは我が目を疑った。
え? どういうこと!?
これはADの仕業!?
本気で私たちの種族を根絶やしにする気なのね・・・。
でも、どうしたらこんな事が可能・・・、まさか!?
あいつもノートを持っている!?
こうなったら、あいつを殺して、DNAを接種するしかない。
そうだ、あの野蛮な戦闘種族に、他人を殺せなくなるような感情を植えつけてやろう。自分よりも相手を大事にしてしまうような、そんな強烈な感情を。そうすれば、さすがの戦闘種族も簡単には引き金を引けないだろう。その隙をつけば、私でもあいつを殺せるかもしれない。
EVもまた、この思いついたばかりの名案をノートに走り書いた。
ガコンガコンガコン・・・
船体が大きな振動を繰り返す。
再結合フェーズが始まり、休戦時間が終了しようとしていた。
しかし、もう2体に躊躇は無い。
相手を殺す! 確実に!
2体は、先ほどの戦闘場所に走って戻り、銃を構え、
隔壁が開くのをじっと待つ・・・。
しかして、隔壁がバシュン!と開くと、
そのすぐ目の前に銃を構えた相手の姿があった。
今までにないほどの至近距離だ。
ここまでの至近距離で対面するとは、お互いに想定外だった。
片方が少しでも動けば、もう片方は反射的に撃ってくるだろう。
どう転んでも、2体とも即死する運命である。
宇宙に存在した生命の、その最後の灯火がここで終わる事が確定した。
奇跡でも起きない限りは・・・。
だが、奇跡は起きた。
至近距離で銃口を向け合った2人は、お互いの姿を見て驚いていた。
いや、正確には、自分の感情の変化に驚いていたのだ。
EVにとって、あんなに恐ろしくおぞましかった、ADの筋肉だらけの大きな体とするどい目つきが、今はなぜか、自分をゆだねたくなるほどに頼もしく、そして魅力的に見え、これまでの全てを許せるほど大切な存在に思えた。
一方、ADにとっては、あれほど忌み嫌っていた、EVの華奢で柔らかい体と戦意の感じられない目つきが、今はなぜか、すぐにでも抱きしめたいほど魅力的に見え、命がけで守ってあげたいと思えるほど大切な存在に思えたのだ。
ずっと、この相手と一緒に生きていきたい。
今まで体験したことが無い、鮮烈で強烈な感情がふくれあがり、
「恐怖」も「憎悪」も上書きされて消滅した。
2人は同時に、武器をかなぐり捨てて抱き合った。
そして、激しく求め合い、深く愛し合った・・・。
これ以上の描写は割愛するが、2人とも、その感情がお互いのノートの効果によるものだという事は、なんとなく察していた。
しかし、もはや、それすら、どうでもいいことだった。
それぞれが、相手を殺すために違うことをノートに書いたのだが、共通して「主語」を書き忘れていたのだ。
従って、ノートに書かれた内容は「2人」に適用される。
ADとEVがそれぞれノートに書いた内容によって、有性生殖という個体複製システム、そして「恋」と「愛」という2つの強い感情が、宇宙に初めて誕生したのである。
その後・・・。
これはノートを作り出した、超越的な存在からのプレゼントだろうか?
以前の探査では存在しないはずだった、生命体の生存可能な惑星が発見され、私たちはその星に降り立った。
2人が一緒なら、何があっても生きて行ける。
私たちは、そう強く確信した。
ノートは、破くことも焼くこともできなかったので海に流したが、あれがあのまま朽ちてしまうとは到底思えない。
いつか、私たちの子孫の手に渡り、様々な悲しみや苦しみを引き起こすのではないだろうか。あるいは、歴史を大きく捻じ曲げてしまうかもしれない。
でも、もし子孫の誰かがノートを手に入れてしまっても、その時は、ノートの力に頼らず、「未来は、自分の手で手に入れたい。」と、そう思ってノートを手放してくれる事を切に願う。
今の私たちのように・・・。
「ね? アダム。」
「そうだね。エヴァ。」
〈了〉
※罫線は、ふじもなおさんから頂いたものを使用しています。
→https://note.mu/fujimonao/n/nf793b3763e93
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