瞬間小説『彼岸の少女』
見鏡山の赤池神社はあっちの世界に通じていて、あっちから来た異形の者と目を合わせてしまうと、二度とこっちの世界には帰って来れない。そんな噂がある。
その日は、夏休みの登校日だった。
モモヨとノブコは、夕焼けの写真を撮ろうという話で盛り上がり、放課後、体育館裏の山道を通って、赤池神社に向かった。
二人が神社の境内に着く頃には、ちょうどいい具合に陽が沈みかけ、東の空を真っ赤に染め上げていた。一方、西の空からは夜の闇が少しずつ広がって来ていたが、二人は夕陽に見とれていて、気づいてはいなかった。
木々が風にそよぐ音とヒグラシの鳴き声しか聞こえない静かな境内。
二人以外には誰の気配もしなかったが、ノブコはカメラのファインダーの中に何かを発見して、モモヨに小声で話しかけてきた。
ノブコ「モモヨちゃん。あれ、ヒトミちゃんじゃない?」
モモヨがノブコの指差す方向を見ると、境内の隅のさびついたブランコに座り、うつむいて本を読んでいる少女のうしろ姿があった。
モモヨ「あ、そうだね。1組のヒトミちゃんだ!」
二人は、ヒトミを驚かしてやろうと、こっそりとその少女の背後に忍び寄り、大きな声で名前を呼びながら、少女の肩を叩いた。
モモヨとノブコ「ヒ~ト~ミちゃん!!」
しかし、
振り向いた少女はヒトミでは無かった・・・。
恐ろしい形相で振り返ったその少女の顔には、横に並んだ「二つの目」がグワッと大きく見開かれ、彼女の口から放たれた甲高い叫び声が山中に響き渡った。
少女「ギョエェェェェエェェェェェエェェェェェェェ!」
モモヨ「きゃああああああ!」
ノブコ「で、でででで、出たぁぁぁ! 二つ目女が出たぁぁぁぁぁぁ!」
百目妖怪のモモヨと、のっぺらぼうのノブコは、恐怖のあまりカメラを投げ捨て、泣き叫びながら一目散に山道を走って逃げ帰ったとさ。
<完>
☆表紙絵 by さとねこと さん → https://note.mu/satonekoto
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