瞬間小説 『まどろみのジュピター』
2017年。
探査機ジュノーが木星軌道に到着し、本格的な観測が開始された。
これほど徹底的に調べ上げられるのは、木星にとってもきっと初めてだ。もし木星に羞恥心があれば、さぞかし屈辱的な事であろう。
そう思えば、テレビの中でうごめく木星の大赤斑が、恨めしそうにこちらをにらんでいるようにも見える。
「ねえ…」
もしかすると、科学者たちは重要な事を見落としているのではないだろうか?
我々は、あまりにも自分たち「人間」を基準に考えてすぎているのでは無いか? 本来、宇宙で探すべきは「生命体」では無く、「知的存在」だったのではないだろうか? 地球に意思があるというガイア仮説のように、他の惑星にも意思が存在する可能性をなぜ考えなかったのか? この観測という行為が、木星にとって侵略と同義だとしたら、あちらとて黙っていないのではないか?
「ねえ、聞いてる?」
いや、待てよ…。
もしかすると木星は、すでに地球に侵入して来ているんじゃないか?
現在の科学では観測できない、我々の知らない未知の手段によって…。
「ちょっと、タカシってば! またなんか難しい事考えてるんでしょ!」
「あ、ああ、ごめん…。今度の学士論文で書く、木星の研究テーマについて考えてたんだ。」
「ふーん…。ねえ、この前の話だけど…、タカシが研究者になるのをあきらめて、普通の会社に入ってくれるなら、私…結婚してあげてもいいよ?」
「え? 本当? 本当に!? 決心してくれたの!?」
「うん。 その代わり、もう木星の事なんか忘れて、これからは私だけを見てよね♪」
そう言って僕を見つめる彼女の瞳に、あの大赤斑がグネグネとうごめいているように見えた。
<完>
※挿入写真は、パブリックドメイン(著作権フリー)の画像を加工したものです。
※この作品は、第2回note小説大賞へ応募したものを少し修正したものです。
☆表紙絵 by さとねこと さん → https://note.mu/satonekoto