不老不死の薬
「もういい加減、分かっただろ? そんな薬どこにも無いんだよ。」
砂漠のオアシスの給水所で、むせながら水を飲んでいる私に、ガイドの少年はおよそ子供らしくない、諭すような口調でそう言った。
「冗談じゃない! 見つけるまではあきらめてたまるもんか! 私の寿命が尽きる前に必ず見つけ出してやるんだ! 不老不死の薬を!」
少年はヤレヤレといったジェスチャーをしただけで、それ以上は何も言わず、小走りで荷物を積んだラクダの方へと戻って行った。
砂嵐が止むのを見計らって、二人は再び見渡す限りの砂漠へと出発した。
ああ、そういえば、私が会社を辞めて旅に出てから、もうずいぶん経つな…。
どれだけの年月が過ぎたのか、もはやそれすら分からなくなる程の長い時間、少なくても30年以上、私はこの生意気な少年ガイドと共に世界中を巡り、波乱に満ちた冒険の旅を続けている。
ん?
30年以上…?
…少年!?
「おや? やっと気がついたようだね! そう、寿命とか老いなんて本当は無いのさ。最近流行してる科学ってやつじゃ集団的自己暗示による細胞変異とでも言うのかな? ちなみに、何十年も自分の年齢を完全に忘れた状態で無我夢中で生きてると、人間はどうなると思う?」
少年はそう言って、私に鏡を向けた。
…
数十年ぶりに見た鏡の中には…
旅に出た時そのままの、生き生きと目を輝かせている若者の姿があった。
<完>
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