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瞬間小説『ハロウィンの夜だから』

俺とニャーコは、小さい頃からの幼馴染ってやつで、ほとんど毎日ニャーコは俺の部屋に上がり込んできては、ポテチにこっそり唐辛子を振りかけたり、寝てる俺のまぶたに目を描いたりと、ありとあらゆるイタズラをして俺を困らせた後、俺の部屋でゴロゴロするのが日課になっていた。

俺は、ニャーコと一緒にいるのがすっかり当たり前になってたし、お互いを異性として意識する事も無いと思っていたが、ある日テレビを見ていたニャーコが何気なく、こんな事を聞いてきた。

ニャーコ「ちなみに、オヌシはどういう女子が好みなのかね?」

俺「そうさなー。おまえみたいなイタズラ女と違って、もっとこう上品で、おしとやかな、いわゆるお嬢様タイプってやつ? そんな恋人が欲しいのう。」

ニャーコ「ふーん、そっか、そうなんだ…。」

ツッコミを期待していた俺は、そっけないリアクションに拍子抜けした。
そして、その日以来、ニャーコが俺の家に来ることは無かった。

その後すぐ、ニャーコにイケメンの彼氏が出来たという噂を聞いた。
あのニャーコに彼氏ができて幸せになってくれるなら結構な事だ…。



それから3ヶ月が経ち、10月も終わりに近づいていた。

外から聴こえるハロウィンパレードの音楽が、俺の孤独感を煽ってくる。

毎年、ハロウィンパレードの夜には、ニャーコと朝までホラー映画を見るのが恒例になっていたが、今年からはもう、そのイベントも無いわけだ。

きっと今頃、ニャーコは彼氏と…。
いかんいかん、一人でいるとどうしても余計な事を考えてしまう…。
なんで、俺がそんな妄想で悶々としなきゃいけないのだ!
テレビでも見て、気を紛らわそう…。

リモコン、ポチッとな。

ニュースキャスター「さて、次のニュースです。致死性視覚感染症、いわゆるビジュアル・ウィルスの感染者が日本国内で2000人を超えました。顔を見ただけで感染するこのビジュアル・ウィルスは、コンピュータウィルスが生体情報に変移したものという説が有力ですが、未だ確実な治療法が発見されてないのが現状です。」

そう、今、日本はビジュアル・ウィルスの大流行で、大変な事になっている。顔を見ただけで感染し、発症者は一定数以上の相手に感染させてしまうと死んでしまう為、大きなカボチャにしか見えない顔面遮断マスクをいつも付けてないといけないのだ。

ニュースキャスター「この事態に…トリッ…厚生省では…リート…発症者に対して顔面遮断マスク「pumpkin」の装着を義務付け…トリックオア…発表していま…トリート!」

ん? なんだなんだ?
ああ、外からか…。
パレードの子供達がお菓子をもらいに来たんだな…。

「開けろ! トリックオアトリートだ! 居ることは分かってるぞ!」

いや、この声、そして、この微妙なギャグセンスは…、ニャーコだ!

俺が勢い良くドアを開けると、そこには、お菓子とホラー映画のDVDをパンパンに詰め込んだ紙袋を持って、小さなカボチャのオバケが立っていた。

しかし、その頭のカボチャは明らかに、顔面遮断マスク「pumpkin」だ。

俺「ニャーコ、おまえ! ビジュアル・ウィルスに!?」

ニャーコ「う、うん…。あ、違う! 拙者はニャーコなどでは無い!ジャック・オー・ランタン様である! トリックオアトリート! さあ、甘いお菓子か悪いイタズラか、どちらか選ぶがよい!」

俺「ニャーコ…。そういえば、彼氏はどうしたんだ? 俺の所になんか来てていいのか?」

ニャーコ「彼にはフラれた…。私がカボチャになっちゃったから…、表情も分からない相手とは付き合えないって…。」

俺「そうか…、そんな事が……。」

ニャーコ「って、そんな事いいから、甘いお菓子か悪いイタズラか、どっちが欲しいかって聞いとるんじゃー!」

俺「じゃあ…、俺は! …俺は、世界一大好きで、世界一大切なニャーコの甘いイタズラを要求する! しかも、これから一生ずっとだ!」

ニャーコ「な!? 何を言っておられれるるか!? そ、そんな商品、当店には…。」

俺「ありませんか?」

ニャーコ「…あります。今日はハロウィンだから、特別にあります…。」

顔が見えなくたって、ずっと見てきた俺には分かる。
カボチャの中で真っ赤に照れてるその表情も、その涙の跡も。



<完>


【「noteでハロウィン! by 安田三号 さん」参加作品】

☆表紙絵 by さとねこと さん → https://note.mu/satonekoto

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