役者を続けられているのは、あの時自分でやると決めたから。
聴かせて屋を始めた時に、一番初めに話を聞きたいと思ったのが楠瀬アキさんでした。私が高校卒業後、大阪にきて初めてのバイト先にいた先輩でめちゃめちゃひょうきんなお姉さん。当時は色々人生相談にも乗って頂きましたが、今回は逆に聴かせていただきました!
出会ったころも舞台で芝居をやっていて、20年以上経った今もまだ役者を続けているアキさんは一体何を考え、何を想い役者をやり続けているのか、役者を目指し始めたきっかけなどをお伺いしてきました。アキさんをご存知の方も、まだ知らない方もお楽しみいただけると幸いです。
憧れを現実にするために、とにかく真似した子供時代
目指すものが見えているから、あとはどう行動するか。
──どうして役者を目指すようになったのですか?
小さい頃から楳図かずおとか古賀新一とか怖い漫画が好きで、小学校4年生の時に“魔夏少女(まなつしょうじょ)”というホラー系のドラマを観ていて、それに出ていた女優さんの演技に一瞬で引き込まれたのがきっかけかな。「何かわからへんけど、この人みたいになりたい!」て思ったのを覚えてる。
──その女優さんのどんなところに引き込まれたのですか?
今までテレビで見ていた人たちとは全然違う存在感があって、演技がすごい生々しかったんだと思う。今思えば演技がうまい人なんだとわかるけど、当時はよく分からなくて、ただただあっちの世界にいきたいって思っていた。
それ以降、明星(アイドル雑誌)とかテレビでその人のことをチェックするようになって、色々真似していたね。(笑) その時は彼女が女優なのかアイドルなのかもわかってなくて、その人が歌を出せばカセットテープを買って電気コードを振り回して歌ったり踊ったり、出演するドラマがあれば見れるものは全部見ていた。あと、ドラマをカセットテープで録音して、その女優さんと同じタイミングでセリフをいうのもやっていた。とにかく全てを真似して、その人に成り切ろうとしていた。
遠足でひらかたパークに行った時に、占いの人に「芸能人になりたいんです」と相談したら「あなたは宝塚に入るか養成所に入りなさい」て言われて、当時は役者という言葉も知らなかったから素直に「養成所っていうところがあるのか!じゃあそれだ!」と言う感じで、それをきっかけに養成所に入った。
──占いというか、普通に成り方を教えてくれましたね。(笑)
ほんまやなー!(笑)
──養成所はどうでした?
普通の勉強する学校と違って、養成所は自分の興味あることを教えてくれるから毎週楽しく通ってたと思う。学校以外の子たちと交流するのも楽しかったな〜。
──最初の役っておぼえています?
初舞台は養成所の「ピノッキオ」という公演で、いじめっ子役の10人いるうちのひとりだったかな。あんまり覚えていないけど、綺麗な衣装を与えてくれて、メイクもやってくれたりして、ちゃんと舞台に立つんだ〜って思っていたと思う。主役のピノッキオとか中心でお芝居してる人たちをみて、いつかそうなれたらいいなって思いながらキラキラして観てた気がする。
──ピュアそうな感じですね
そう、ピュアだった。(笑)
その後、中学では演劇部に入ったけど、高校は演劇部がなかったから養成所だけ行ってたかな。で、高校生の時に劇団☆新感線にはまって何回も公演を観に行ったりしてた。
──劇団☆新感線はどんなところにハマったのですか?
今までプロで活動している劇団の舞台を観たことがなくて、初めて観たのが劇団☆新感線だった。目の前でわぁーって叫んだり泣いたり、絡んで倒しあったりとか、ブワーって煙出てきたり、音楽バーンってなったりして、これぞザ・エンターテイメントって感じがして、すごい衝撃を受けたのを覚えてる。祭りとかあんま行ったことないけど、神輿担いでぎゅうぎゅうに練り歩く祭りみたいな、そんな感覚?血が騒ぐみたいな感じがして、役者さんと一緒になって興奮して楽しんでいたと思う。
そうしたら、今度は「そっち行きたい!舞台やりたい!」と思って劇団☆新感線みたいな舞台に憧れるようになっていった。でも、どうやったら舞台に立てるのかがわからなくて、劇団☆新感線が出ていたラジオも毎週聞いていて、ハガキ出したりしていた。追っかけみたいな感じだったと思う。(笑)
本当にやりたいことを改めて気づかせてくれた上司の言葉。
それがあるから軸がぶれずに続けられている。
──高校卒業後はそのまま役者の道へ?
高校卒業後に一回ソフトウェアの会社に就職したけど、やっぱり芝居やりたいって思って、半年ぐらいで仕事は辞めちゃった。その後は飲食店でバイトしながら“太陽基地アパッシュ”という神戸の劇団に所属して活動していた。バイトも結構真面目に働いていたから準社員みたいな扱いになって、仕事に対して責任感も出てきてた頃、お店のプレオープン日と劇団☆新感線の舞台が被る時があった。その時私は舞台は諦めて仕事するものだと思っていたけど、心のどこかで諦めきれてなかったんやろな、仕事中もブチブチ愚痴を言っていたら、うちのお父さんと同い年のマネージャーが「楠(クス)なお前、何がしたいねん。芝居したいんやったらほんまにやりたいことちゃんとやらなあかんで」て言われて、そこではたっと目が覚めた。
マネージャーのその言葉が私の迷っていた気持ちを振り切ってくれた。芝居やりたいから社員にならずにバイトでいるのに、バイトを優先してた自分に気づかせてくれた。
それ以降「私はやりたい事はやる、そしてやるためには休むことも必要!」という言葉を肝に銘じて、バイトも芝居もやるようになった。生活は苦しくなったけど、気分は晴れ晴れしてた。まぁ、そのバイトはその後すぐ他のバイトの子と喧嘩して辞めることになったんやけどね。(笑)そっからはフリーター生活しながら芝居するっていう感じで今まできている。
──役者辞めたいって思ったことないんですか?
せやね、演出にめっちゃ怒られて「私才能ないねん!」て飲んだくれて泣き喚いたり、何度も枕を濡らしたりして落ち込むことは沢山あったけど、役者辞める気はなかった。今より全然強かったと思う。がむしゃらに「役者やるもん!」てなってた。「私はやりたいものはやる」って決めてたのもあると思うし、演出に怒られたりしても、芝居するのは楽しかったからかな。だから役者を辞めようと思ったことはなかったね。
同じものは二度とないから面白い。
舞台はお客さんも一緒につくっていくもの。
──芝居していてどんなところが楽しいですか?
芝居中は、ピンボールゲームみたいにパンパンパン、ガコーンみたいに気持ち良いタイミングで役の掛け合いが繋がる瞬間がある。そういうのが絶妙にはまる瞬間があるとゾワゾワする。今まで稽古してやってたこととか、演出家が言っていたことが間違ってなかったと実感できる瞬間がある。
狙ってないところで笑いが起きたりすると、実はこのシーン面白かったんだってお客さんの反応から気づかせてもらったりもするし、演出家は気づいていたんだろうけど、いち役者として気づけていなかった自分はまだまだだなって思ったりもする。
舞台に出てても、袖にいるときもいろんなことを感じるし発見があって、リアルに肌で感じられるのがすごい楽しいんだと思う。
──面白いですね。
例えばお客さんの年代がばらばらだったりすると、会場の空気感もまとまりがない感じになったり、演劇関係者がいる日はピリッとした感じが漂っていて、役者もピリッとなる。だから、舞台は生物。毎回違う面白さがある。来るお客さんによっても、自分達の体調によってももちろん違うし同じ体験がない。その時集まった人たちでつくられた時間を共有する感じがまた、面白いんだと思う。
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