やさしい旧・新約聖書物語を読んで
時間のない方へ
結構長々と書いているので、読むのが億劫な人や多忙な方は、最後の「聖書のすすめ」だけでもいいのでぜひご一読していただければ幸いです。
なぜ聖書を読もうと思ったのか
卒論を終えた大学4年生の春休み、大学院への進学は決まっているものの、私の人生これでいいのか、この先一体何を仕事にして生きていけばいいのか、正直のところ迷っていました。今は生物系の学部に所属していますが、もともと絵を描くことが好きなので、美術と結び付けた研究をするのもいいのではないか、そんなことを考えていた矢先、「そうだ、聖書を読もう」と思い至ったのです。
というのも以前、徳島県にある大塚国際美術館で十字架に張り付けられたキリストの絵画を見た時、何故キリストがそのような目に合ってるのか分からず、かわいそう、残酷だという感想しか出てこず、美術や文芸を理解する上で、やはりキリスト教というものは切り離せないものではないかと痛感しました。
また、今回私が読んだ著書の筆者である犬養道子さんは、聖書という書物を『矛盾錯綜し弱点や苦悩を持ち続けつつも真善美にあこがれてやまぬ人間性そのものへの深い洞察に満ちている「普遍なもの」』であると、あとがきにて位置づけていました。真善美に憧れているかはさておき、まさに今苦悩の渦中でもがき苦しんでいる私を、何か一筋の光のようなもので照らしてくれないだろうかと小さな期待を寄せつつ、聖書を読むことに決めたのです。
本選び
知識のない初学者であるため、初っ端から膨大な量のある聖書を読むよりも、まず手始めに聖書の全体像をつかみたいと考えていました。
そこで、Amazonの検索トップに表示される白取春彦さん著書の「この一冊で「聖書」がわかる!」を読もうと考えていたのですが、あいにく図書館での取り扱いがなく、金欠の私は見送ることになりました。(とはいえいつかは読みたい。)
そして、次に目を付けたのは杉全美帆子さん著書の「イラストで読む 新約聖書の物語と絵画」でしたが、これはあいにく予約待ちでした。思い立ったら即行動の私は、とにかく早く聖書というものに触れたかったのです。この本は西洋画と結び付けつつ聖書の解説をしているとのことで、大塚国際美術館で無知の屈辱を味わった私にうってつけの本に思えました。これも現在予約中なので、順番が回って来次第読んでみます。
そうして最後に流れ着いたのが、あの犬養毅のお孫さんである犬養道子さんが書かれた「やさしい旧約(新約)聖書物語」でした。少年少女に向けて書かれた児童書とのことでしたが、小説が好きな私にとって、聖書をひとつの物語として読めるのであればこれ以上に幸いなことはありません。また、Amazonのレビューに『文章のタッチが懐かしく温かい気持ちにさせてくれました。』とのコメントがありました。堅く難しい文章から読み始めるよりも、小さい頃にお母さんが読み聞かせてくれた絵本のように、温度の高い記憶として残しておきたいと思い、図書館へとすぐさま借りに行きました。
ただし、ここで気を付けておきたいのは、これはあくまで筆者が読みやすいよう聖書を物語上に編纂したものであり、聖書ではありません。そのため、以降は聖書「物語」という表記でお送りいたします。
読んでみての大雑把な感想
まず最初にお伝えしておくこととして、聖書物語を読んで何か心が救われたり、一筋の光が差し込んだりといったありがたい体験をすることは、残念ながらありませんでした。それでも、イスラエルの人びとの築きや、キリスト・イエズスが説いた教えは心の深いところに残ったように感じます。
旧約聖書物語を読んで(旧約と新約の順番について)
旧約聖書物語は1週間ほどで読み終わりました。登場人物が多く、人物相関図(後の項目に添付しました)を作りながらの読書になりました。
アブラハムやその息子イザアクなどから物語は紡がれ、イスラエル12族の祖先、エジプトからの脱出(過ぎ越しの祭りの由来)、ダビドやその息子ソロモンの軌跡、後の新約聖書へとつながる預言者マラキ、エゼキエルの登場など、本来はおそらく断片的であろうお話が、筆者によりつながりを持った物語として読むことができました。よく聖書の第一歩として、まず新約聖書から入った方が良いというお話も聞きますが、私としては旧約聖書を読んでから新約聖書を読んだ方が、キリスト・イエズスのご生涯や教えをより深い洞察で読むことができるのではないかと感じました。
というのも、イエズスが御父と呼んでいる神もアブラハムの神も同じヤハウェであり、旧約聖書では神と人間の関係がどのように築き上げられれきたかについて書かれています。また実際の聖書の文章においても、旧約では神は何も知らないイスラエルの民たちに対して怒ることが多く、文体も子供っぽい語り口となっていますが、新約では民もある程度成熟してきているので、神は愛について教えを説くことが多く、文体もきめこまやかなものになっています(参照:やさしい新約聖書物語あとがき)。また、過ぎ越しの祭り、ヨゼフ(イエズスの父)など、旧約を読んでいないと何なのか、誰なのか分からないものも新約に出てきます。
したがって、どうしてもキリストについて最初に知りたいという人以外は、旧約から読んだ方が新約聖書の内容が頭に入りやすいのではないかと私は思いました。ただ私が読んだものはあくまで児童向けの聖書物語なので、実際の聖書を読み、もっと知識が増えれば、その辺の見方もまた変わってくるのかもしれません。あくまで参考程度に、といった程度でお捉えください。
新約聖書物語を読んで
新約聖書物語の方は10日程度で読み終わりました。聖書原典のボリュームとしては旧約:新約=3:1らしいので、本来であれば新約の方がはやく読み終わるはずなのですが、思いのほか時間がかかってしまいました。新約の方は主にイエズスと12人の使徒を中心にお話が進むので、人物相関図をかくほどではなかったのですが、イエズスの生涯や、そういった経緯で十字架に張り付けられることになったのかなどを、ちまちまとまとめていたら結構なボリュームになってしまい、おそらくこれが原因です。
新約聖書物語の内容は簡潔に言えば、「イエズスと使徒たちの新しいお約束の布教を阻む、古いお約束にとらわれた司祭とファリザイびと」といった感じでしょうか。司祭とファリザイびと(筆者はファリザイびとが種族ではなく派閥であることを主張するために、ひらがな表記の「びと」にしているそうです。)は旧約聖書にてモーゼの時に定められた十戒などのさまざまなややこしいおきてを重んじていました。しかしイエズスは、自らを神の御子と名乗り、神の本質は目に見えるおきてではなく愛であると説きました。そして司祭やファリザイびとたちの反感を買い、十字架に張り付けにされることとなりました。とはいっても、イエズスはユダヤの人びとに殺されたというよりは、神のみ国のため、人びとの罪をほろぼすため、御父のみこころのままに従ったという方が適しているのでしょう。また有名なお話で、最後の晩餐にひとり裏切者が混ざっている場面がありますが、それもイエズスからすれば『むかしの預言者の預言がみたされるために、そのひとりは十二人のなかにまじらなければならなかった。』とのことで、普通だったら恨み、憎み、怒るところですが、深い愛によりおゆるしになられたのでした。
私が思うに、新約聖書の主なテーマは「愛とゆるし」です。イエズスが言うには、隣人の罪を何度でもゆるすことで、自らもまた神が何度もおゆるしくださるそう。これを知って以来、例えば友人が待ち合わせに大遅刻をしたとしても「私自身も過去に遅刻をしたことが何度もあり、そのとき相手に怒られていたとしても、神は私をおゆるしになった。神は私にだれかを愛し、ゆるす機会をくださった。ならば私もゆるそう。」と思うようになりました。間違った解釈かもしれませんし、時には友人として仲間として叱る必要もあるかもしれませんが、ゆるし、ゆるされあうことのやさしさを頭の片隅に置くだけでも、心がひとまわり大きくなるような気がします。
このように愛とゆるしの大切さを説いたイエズスですが、ひとりの使徒の裏切りにより捕らえられる少し前に『心がさわぐ、死ぬばかりに苦しい』と言いながら御父に祈り、また裏切られた瞬間には『何の用でここに来た?わたしを売るためか』と、今までの神の御子としての厳かさと比較して、少し人間らしい一面を見せます。この、人間らしいという捉え方は、私個人の感想であり、神のみこころを、イエズスのみこころを理解しきれていないがために誤解をしているのかもしれません。ただ、イエズスも『どうか御父のみこころになりますように』と何度も祈り申し上げていたところを見ると、たったひとつの御身に人びとの罪を一生懸命に請け負っておられたのだなと感じました。ここら辺の洞察は、今後他の書籍や絵画に触れるで、より深めることが出来ればと考えています。
聖書のすすめ
聖書は宗教に関する書籍だからと、今まで遠い存在に感じていた部分がどこかありました。しかし、冒頭にも記載しましたが、筆者はあとがきにて『矛盾錯綜し弱点や苦悩を持ち続けつつも真善美にあこがれてやまぬ人間性そのものへの深い洞察に満ちている「普遍なもの」』であると聖書を位置づけています。
また、聖書が美術や文芸などの「人類」の文化や思想に与えてきた影響ははかり知れず、聖書の知識なしに作品を理解することがむずかしいものもあります(それこそ私の大塚国際美術館での経験のように)。
私が今回紹介した本でなくても何でもいいので、ぜひ一度聖書という大ベストセラーに一度触れてみてほしいと思います。以前、インドに行った友人が「インドに行っても救われなかった」と言っていました。聖書を読んでもおそらく大半の日本人は救われないのではないでしょうか。しかし、インドにしろ聖書にしろ、心にのこる何か確かなものはきっとあるはずです。聖書の世界に一歩踏み出した方は、ぜひ私にご一報いただけますと幸いです。一緒に聖書の世界を歩むお友達になりましょう!
(おまけ)旧約聖書物語の人物相関図
メモ書きなのでかなり汚いですが、人物相関がかなりややこしいので、旧約聖書物語を読む際の役に立てばということで添付しておきます。