Nyanko Yasagrenov

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最近の記事

銭湯 【2000字のホラー】

 銭湯? 銭湯かい?  このあたりには、もうありゃしないよ。ちょっと前まではあったんだけどね。一件か、二件か、それくらいは。そこも少し前に閉めちまったね。両方ともね。去年だったかね。  若いのに、銭湯を探してるって? 変わってるね。学生さん? 今時の学生さんはあれでしょう、こぎれいなワンルームマンションなんかに住んでるんでしょう。もちろん風呂付の。銭湯なんか行く必要ないじゃないの。昔は、学生さんむけの下宿屋がたくさんあったんだよ。風呂なんかついてないよ。トイレだって共用。信じ

    • 友達の友達がね…という少し怖い話③

       怖い話というと、枕詞のように「友達の友達の話なんだけどさ」とつくのが多い。「友達のお兄さんの友達がね」とか、「友達の友達の親戚の話なんだけど」というのもある。要するに、ちょっと遠いところからの伝聞であるということだ。誰なのか、正確にはわからない。しかし、遠いながらも自分とつながっているというところがミソだ。そこに適度なリアリティがある。  で、大学時代の先輩の友達の話である。  男ばかり数人で、仲間のひとりの下宿に集まった。今時のワンルームマンションではない。4畳半よりは広

      • 「出る」会社 その壱ー少し、怖い話②

         この会社、出るんだよ。  よくある話である。  私の勤務先にもあった。長きにわたる勤務期間中、会社は複数回本社オフィスを移転したのだが、なぜか行く先々で「出る話」が囁かれた。偶然そういうビルに当たり続けたのか、どこへ移ろうと何かがついてくる会社だったのか、そこは定かではない。  まずは最初の勤務地だった新橋での出来事である。  時はバブル真っ只中。我が勤務先も業績は右肩上がりだった。社員はどんどん増え続け、本社があるビルひとつでは入りきれなくなった。近隣ビルの空フロアを次々

        • 無縁さんの話 【2000字のホラー】

          少し、怖い話を書く。なぜ「少し」なのかというと、ここに記すのは実話であり、とくに脚色を施していないからだ。実話であるから、起承転結がはっきりしない。劇的な盛り上がりも結末らしい結末もない。なあんだ、と思われるかもしれない。そんな話でよければ、身の回りにいくつでもある、と思う方もおられるであろう。そうなのである。「少し」怖い話は、日常の中に、いくらでもある。あなたがそれに気づくか、気づかないか、あるいは気づかなかったことにしておくか。違いはそれだけなのである。 無縁さんの話