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2023年グローバルリスクの「3大予測」を読む

年初は経済や世界情勢などについて様々な予測などの記事が出ます。

私が参考にしているのが三つあります。①日本のPHP総研(以下、PHP)②ユーラシアグループ(以下、ユーラシア)③国際危機グループ(以下、国際危機)の3つです。

ただシンクタンクとしても「予測」と言うことで関心を集めやすくするという意図はあるとは思います。

それに釣られて「当たった/外れた」などで見てしまいがちですが、重要なことは「注目するべき構図とわが国の対応をどうするのか」と言うことだと思います。

先に私の注目点を三つほど挙げてみようと思います。

第一に北朝鮮です
日本のPHPが指摘している北朝鮮に関しては、ユーラシアも国際危機もほとんど言及がありません。これはリスクとして小さいのではなく、「世界的なリスク」という認識が低い点です。一方でPHPの分析はあくまで「日本から見た」リスクとして非常に重要です。
 
「北朝鮮」がグローバルな問題としての認識がされていない現実と日本の認識とのギャップが私はリスクに思えます。また北朝鮮の核ミサイルにどう向き合うのか、日本自身が考えて世界に主張していないことが問題に思えます。

ついでに、2023年広島サミットでも岸田総理が核兵器廃絶を言うそうです。

現実には北朝鮮の核開発とロシアによる核使用や恫喝が問題であるのに、ほとんど絵空事の話をして満足する現実こそ、わが国としてはリスクそのものではないでしょうか。

私から言わせれば「核兵器廃絶」は、当事者としての議論ではなく、南の島の「バナナ共和国」でのキレイゴト絶叫に過ぎません。

第二に、ロシアについてです。
PHPの「弱りゆくロシア」の見方が興味深いところです。
・ロシアの対中国ジュニアパートナー化が加速すること
・ロシアがグローバルウェスト vs グローバルサウスの構図を焚きつける
という二つの点を挙げていますが、これはユーラシアと国際危機の方には見られない指摘です。

ユーラシアは「ならずものロシア」の見方は日本のPHPの見解とは逆に脅威の継続と言う点が特徴的でしょう。

屈辱を受けたロシアは、グローバルプレーヤーから世界で最も危険なならず者国家へと変貌し、ヨーロッパ、米国、そして世界全体にとって深刻な安全保障上の脅威となるだろう。

ユーラシアグループ「2023年10大リスク」

どちらが正しいかと言うことではなく、PHPのロシアの問題の隠れた主役の中国を見る視線が「日本として」非常に重要だと思います。またロシアの「脅威」を継続してみていく西欧の感覚がある点も見逃せません。

第三にイランです
イランについての危うさはユーラシアも国際危機も挙げていますが、PHPでは扱いとしては小さいものになっています。鈴木一人東大教授も「(ユーラシアグループの)イアン・ブレマーは過剰にイランの問題を重視しすぎている印象」とされています。これはむしろ米国や西欧でのイランに対する感覚に日本と相違がある点が重要ではないか、と感じます。

これも予測としての妥当性と言うより、西側のイランに対する根深い不信感が共通認識になっている点を見落としてはいけないとは思います。

こうしていくと、米国や西欧の見方を踏まえるのは良いとしても、それだけでは十分ではなく、「日本の立場から見たリスク」とその対応が重要なことを改めて強調したいと思います。もちろん、同盟国である米国の立場を踏まえないのは論外ですらありません。

それでは個別に見ていきたいと思います。

PHP総研「2023年版 PHPグローバル・リスク分析」

1.国際秩序再編で攪乱要因となる「弱りゆくロシア」
2.米露影響力低下で再編進む中東秩序と取り残される日本
3.対露エネルギー制裁で深まる三重の分断
4.低インフレと超金融緩和の終焉がもたらす世界マネー動乱
5.再び露呈する核抑止パラドックス
6.中国がロシア・北朝鮮と引き起こす同時多発的な緊張の高まり
7.振れ幅大きい米国(Volatile America)に振り回される世界
8.新冷戦で崩壊する中露依存の欧州成長モデル
9.現実世界に直接的な影響を与え始めるサイバー脅威
10.繰り返される「見落としリスク」

この中で、私が注目したのが10繰り返される「見落としリスク」での以下の点です。

国際情勢のトレンドを前提とする先入観や現状維持バイアスが働くことによって、「予測しやすい」又は「期待する」結果を導く情報や分析コメントに報道が偏重。異質な情報は例外扱い。
善悪二元論的価値観やミラー・イメージで対象国を見ることで、当該国指導者の考え方が理解できず、行動の予測を阻害。「予測不能」、「想定外」の行動と評価

PHP総研「2023年版 PHPグローバル・リスク分析」

PHP総研「2022年版PHPグローバルリスク」

1.習近平の皇帝化がもたらす「中国の悪夢」
2.米中戦略的モラトリアムで不安定化する北東アジア
3.宇宙地政学時代到来で劇的に環境変化する宇宙開発
4.グリーンシフトで深まる世界の亀裂
5.米中の「困難な軟着陸」が世界市場混乱の引き金に
6.Divided States of Americaが妨げるバイデン中庸路線
7.独仏枢軸の変容で流動化する欧州政治
8.独裁国家の恫喝手段としての「移民・難民の兵器化」
9 国家意思が働くサイバー戦の日常化
10.地政学的な不確実性が増す中で高まるロシアの存在感

ユーラシアグループ「2023年10大リスク」


ユーラシアグループは、日本語サイトを用意したり、日本でも顧客が多いのが特徴です。

日経でも取り上げられ、日本の顧客も多いことによるバイアスもあるのかもしれません。これについて鈴木一人東大教授の「占い程度」という指摘や、イアンブレマーは「米国の問題」過小評価していると言う指摘は同感です。

親切にも(?)「日本への影響」を別途用意するサービスぶりは、非常に多くの日本の会社が資金を提供しいていることの表れかもしれません。そうした事情によって中国へのスタンスが、バイアスも考慮してみるべき点であるとは思います。例えば以下の記述なども、そうしたバイアスを考慮しておくべきでしょう。

2023年における日本の最大のリスクはやはり習近平なのだ。

ユーラシアグループ「2023年10大リスク」

リスク No.1 ならず者国家ロシア
リスク No.2「絶対的権力者」習近平
リスク No.3「大混乱生成兵器」
リスク No.4インフレショック
リスク No.5追い詰められるイラン
リスク No.6 エネルギー危機
リスク No.7世界的発展の急停止
リスク No.8分断国家アメリカ
リスク No.9 TikTok な Z 世代
リスク No.10逼迫する水問題
【リスクもどき】
ウクライナ支援に亀裂
機能不全化する EU
台湾危機
技術をめぐる米中報復合戦

テレ東では、中国の専門家の興梠一郎氏と宮家邦彦氏で対談しています。

なお、柏原竜一氏のインテリジェンスチャンネルでも取り上げられています。

NHKの「国際報道2023」でも取り上げられています。

地政学の奥山真司さんは、リスク No.3「大混乱生成兵器」とリスク No.9 TikTok な Z 世代に注目しています。


ユーラシアグループ「2022年10大リスク」

なお、「2022年10大リスク」として挙げていたのは以下の通り

リスク No.1 ゼロコロナ政策の失敗
リスク No.2 テクノポーラー」な世界
リスク No.3米国中間選挙
リスク No.4中国の国内回帰
リスク No.5 ロシア
リスク No.6 イラン
リスク No.7環境対策は二歩前進、一歩後退
リスク No.8力の空白地帯
アフガニスタン、サヘル地域、イエメン、ミャンマー、エチオピア、ベネズエラ、ハイチ
リスク No.9 文化戦争に敗れる企業
リスク No.10 トルコ
【リスクもどき】
第二の冷戦(米中関係)
台湾の苦境
ブラジル
移民

国際危機グループによる「2023年注目すべき10の紛争」

  1. ウクライナ

  2. アルメニアとアゼルバイジャン

  3. イラン

  4. イエメン

  5. エチオピア

  6. RDCコンゴと大湖地域

  7. サヘル地方

  8. ハイチ

  9. パキスタン

  10. 台湾

一方、国際危機グループは「紛争」そのものに重点を置いている点が、PHPとユーラシアとは意味合いが異なります。日本語のページは特にありません。それだけにユーラシアグループとの相違点に注目してしまいます。

予測と言うことで言えば、2022年の「注目すべき10の紛争」の最上位にウクライナを挙げていたのは注目に値します。

自分自身の予想と言うか感触を反省を込めて振り返ってみましょう。
2021年12月の時点ではロシアによるウクライナ侵攻の予測は私は全く理解できず、2022年1月上旬でも半信半疑でした。1月下旬で、「もう引っ込みがつかない」と見えた時点で、ロシア側の勝算次第で踏み切るという感触でした。そう振り返ると、国際危機グループの当時(昨年2022年版の2021年12月の判断)の予測は敬意に値します。

また、アルメニア、アゼルバイジャンなどロシアの「周辺」国でのリスクを十分に抑えている点はPHPやユーラシアより分析としては優れているのではないでしょうか。実際「ロシアとして示しがつかない」状況は非常にリスクが高い状況と思います。

国際危機グループ「2022年注目すべき10の紛争」


なお、昨年の「2022年注目すべき10の紛争」でも2023年でもイランを挙げているのが、ユーラシアとの共通点です。またイメエンを昨年に引き続き列挙している点も注目されます。

「2022年注目すべき10の紛争」
1.ウクライナ
2.エチオピア
3.アフガニスタン
4.アメリカと中国
5.イランVSアメリカとイスラエル
6.イエメン
7.イスラエルパレスチナ
8.ハイチ
9.ミャンマー
10.アフリカでのイスラム武装勢力

ともあれ、どの予測の情報にしても、「我が国からみた」と言う視点で読んでいくという視点が重要なことには変わりがありません。


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