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岡崎から視る「どうする家康」#6岡崎で冷遇された瀬名(築山殿)

大河ドラマでは視聴率的に女性の支持が欠かせません。ドラマの中での女優の存在感が視聴率に影響しますし、女性が活躍しないと都合の悪い昨今の風潮には抗えないでしょう。

瀬名(築山御前・築山殿)

瀬名(築山殿・築山御前)院号で一般に呼ばれない不遇


瀬名(築山御前・築山殿)については、江戸幕府の歴史書などでは悪女ぶりを「無数の悪質、嫉妬深き婦人也」など、ボロカスに書かれています。ここまでの悪女扱いは、まるで北朝鮮の国営放送のようです。徳川プロパガンダによる人権侵害のような感じです。

しかし、これが山岡荘八の小説に影響を及ぼしているように思えます。

歴代ドラマでの扱いを振り返りましょう。滝田栄の「徳川家康」では池上季実子さん(当時24歳)演じる「瀬名姫」が気の強い女性としての演技が実にハマっていました。松平より家格が遥かに上の今川ファミリーの瀬名と、歌舞伎界の血縁(祖父が坂東三津五郎)の池上季実子さんが絶妙にマッチしています。

滝田栄の「徳川家康」での池上季実子さんの「瀬名」

最近では「おんな城主直虎」で菜々緒さんが演じています。菜々緒さんの強い女のイメージです。

「おんな城主直虎」での菜々緒さんの「瀬名」

これらに共通するのは「気の強い女」ということで、2名の女優のキャラクターが微妙に重なりますが、これは徳川の歴史書での「悪女」のイメージをどこかで引きずっているように思います。

今回は瀬名を有村架純さんが演じます。これまで演じた池上季実子や菜々緒の2名の「強い女」のイメージとは全く異なるのが特徴です。ここはみどころで期待されます。

マスオさん家康の急変


もともと駿府(静岡市)での結婚相手と言うことで瀬名は今川ファミリーです。今川が家康を取り込むためとも言えますが、逆に今川を利用する立場の家康としても好都合だったと言えます。

最近は少ないですが今でも官僚が政治家の娘と結婚して、出世に有利になったり、あとを継いで選挙出たりとかあります。そんなマスオさん政治家は結構います。最近大臣辞任した2名がそうですね。

ところが、桶狭間の戦いでこの関係が一転します。これはNHKの配役プロフィールにも出ています。既に信康や長女(後の加納御前。岐阜のヒロインですので別に書こうと思います。)も生まれており、駿府に松重豊さんの演じる石川数正が迎えに行く場面があります(あるはずです)。

「築山」は籠田公園の南


そこまでして迎えに行ったはいいが、家康も今川を裏切っているわけですから、彼女としては「居場所が無い」状態です。

 実際、別名の「築山殿」や「築山御前」と呼ばれますが「築山」と言うのは「新しく作った」という意味で岡崎城内に入れてない、ということです。

 岡崎城内に入れさせてもらえず有村架純さんが涙するシーンがあるかどうか。有村架純さんからすると「どうなってんのよ!家康」と言いたくなる状態です。

では、どこに「築山」があったのでしょう。

籠田公園の南にある康生郵便局のあたりのようです。城内(岡崎公園)とは1kmほど離れています
。現代の感覚だと普通に「別居」と言うでしょう。

籠田公園に地下駐車場があります。有村架純さんの熱心なファンの方で岡崎観光で来られたら、籠田公園駐車場に車おいて岡崎公園に歩いてみてください。怒りがこみあげてくること保証します。

しかも家康の生母伝通院が岡崎に来ています。小さいときに別れた母親を大事にする家康は今風にマザコンです。この松嶋菜々子さん演じる伝通院も離縁の経緯で今川を快く思っているはずもなく、嫁いびりの対象です。

静岡でマスオさんだった家康の実家の岡崎に来たとたんに邪魔扱い。要するに家康にとって「利用価値がなくなった邪魔な女」になっているわけです。

しかし、それをストレートにドラマとして放映では女性視聴者のヒンシュク間違いありません。ちょっと、ここは描き方難しいところです。

なお、家康が浜松に移った後も瀬名は岡崎にとどめ置かれています。浜松周辺の遠州を経営するのに昔の今川ファミリーが横にいたのでは、「嫁のおまけ扱い」にされ、今川の旧臣たちに「舐められる」可能性があります。今川も桶狭間以降は静岡ではブーイングの嵐です。織田と同盟を結んだのに浜松で今川ファミリーの嫁と暮らしていれば疑念を抱かれます。そうした政治的リスクからも浜松にも連れていけない事情があります。

なお当時の記録として有名な深溝松平氏の松平家忠が書いた『家忠日記』でも「信康様母」など、家康の正室としての記述は出てきていません。

「気の強い女」のイメージは利用価値のなくなった女を捨てた家康の薄情さを隠すためで実際は「居場所のない」不運で薄幸の女性とも言えるのかもしれません。有村架純さんがどう演じるでしょうか。

しかし、岡崎で居場所がなく邪魔扱いされ孤立していた瀬名にとって、たった一つの希望がありました。息子の信康。これが新たな悲劇を生みます。

信康の子役では、語りを務める寺島しのぶさんの息子眞秀くんが大河デビューします。静岡から岡崎に来た信康の「岡崎デビュー」は3歳です。ここで眞秀くん出演じゃ年齢的にきついね。出演シーンをせかすママのほうがやきもきして、どんな語りをするか見どころ。

「信康」は歌舞伎界の市川染五郎さんもやっています。

眞秀くん本人よりママの気合を感じますが、眞秀くんもママもまず、岡崎市の若宮八幡宮にお参りして欲しいですね。

お愛の方(宝台院)

さて、2代将軍秀忠の母親のお愛の方(宝台院)を今回は広瀬アリスさんが演じます。彼女とは浜松で知ったようで、岡崎は直接関係ないです。

滝田栄さんの「徳川家康」では竹下景子さんが好演しました。

滝田栄「徳川家康」での竹下景子さんの「お愛」

考えてみると、滝田栄の「徳川家康」ですと女優の当時言われていたイメージでも対照的です。

池上季実子(瀬名):歌舞伎界のプリンセス。気が強そう。
竹下景子(お愛):「お嫁さんにしたい女優」。家庭的でやさしい。

というわけで、どこか滝田栄の「徳川家康」も「お愛」に肩入れしています。

今回もNHK静岡放送局まで広瀬アリスさんが「妻」として抱負を語っています。どうする有村架純ちゃん!

幕府としては2代将軍秀忠の生母と言うことで最大限ヨイショしておく必要があります。「不遇・薄幸ながらも気立てのよい美しい女性」という扱いで、江戸時代の書物でもそんな記述がうかがえるようです。

宝台院(お愛)



しかし、私から見ると必ずしもそうではないのではないかと思います。別に竹下景子さんや広瀬アリスさんにケチ付けるわけではありませんが。

お愛は「不遇」とは言っても三河の守護代の西郷氏の縁者です。没落したとは言っても本来の家格として西郷は松平より上ですし、東三河では影響力がまだ残っています。そうした意味で、家康としても政治的には「正室」に近い扱いにするメリットはあったとも思えます。

静岡には宝台院があります。伝通院ほどのメジャーではないようですが。

しかも、伝通院から見ても、西郷氏は守護代で水野より家格は上ですが没落して不遇の身です伝通院がケチつけないとイジワルに考えてしまいます。

家康の身勝手な乗り換え


今川ファミリーで利用価値のなくなった瀬名(有村架純さん)を捨てて、三河での支配の正統性確立に苦労している家康にとって「便利な」血縁を持ったお愛(広瀬アリスさん)に乗り換えた、という政治的な背景はありますが実に薄情で身勝手な選択とも言えます。

先に、政治家の娘と結婚した官僚の話を出しましたが、実際、嫁の父の政治家が政治的に失脚したら、さっさと愛人に乗り換えた官僚の事例もあります。それと同じでしょう。そこで「どれだけワガママな女だったか」の恨みつらみを離婚裁判で述べたような話が、徳川の公式見解の歴史書になっていると理解されれば、ドロドロしたドラマかもしれません。

ただ、それではドラマとして女性の視聴者の総スカンを食うのは間違いなく、とてもではないが放映できないでしょう。

岡崎では女性どころではなくストレスの家康

しかし、岡崎の7年間には、家康の子供は生まれていません。長勝院の産んだ秀康(結城・越前松平藩祖)も浜松で生まれています。お愛(宝台院)は浜松で知ったようで秀忠も浜松生まれです。

この岡崎にいた若い年齢で、子供生まれてもおかしくないはずですが、政治的にも相当に苦労しストレスで、女性どころではなかった、ということではないでしょうか。







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