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立民嫌いが読む、直諫の会『どうする野党』

立憲民主党の重徳和彦さんたちの派閥「直諫の会」のメンバー15名が政策本を出版されました。今回はこの本を読んだ感想を書いてみました。

読んでみたきっかけ

この本を読むに至ったのは、ネットメディアのSAKISIRUで本のPRもあって重徳和彦さんのウェビナーがあったからです。

私も関心をもって、事前に本書を読んで質問を書きました。ウェビナーで重徳さんからも回答があり、感謝したいと思います。なお、質問のnoteは自民党や維新の先生方のウェビナーでも書いていますが、アクセス数は同程度で「立民だから少ない」ことは全くありませんでした。

そもそも、議員の先生方が政策を本にして出すことは内容やスタンスはともかくとして、まずは敬意を表したいと思います。

なぜかというと、政策を世に問うからには異論や反発もあるからです。異論や反発の無い政策はあり得ないし、票を失うかもしれない反発のリスクを承知で書籍として世に問うたことに、有権者の側も敬意を持つ姿勢は大事だと思いました。

さらに、政策本の売れ行きも政治家としての「人気稼業」の指標になってしまう面もあります。しかし、この本どれだけ売れたのかな?との、意地悪ツッコミは自粛しときます。

「直諫の会」について

さて、ウェビナーでは「なんでも反対の野党のイメージは違う」「対決型、提案型とも違う『政策対決』」「8割は自民党と同じだが、残りは自民党では絶対できないことを言う」など、印象に残る話が多くありました。これらは賛成です。

これらについては、アベプラでも話されています。

私からすると当然と言えば当然の話なので、注文するとすれば、「自民党では絶対できない」それぞれの政策課題が、なぜそうなったのかの分析や「できない」理由や背景への対策に重点を置いて提示して欲しかった点はあります。

さらに本の出版を踏まえたYouTubeでの企画など、有権者への訴求の機会、アプローチを多く作る工夫も、まだこれからというところで、期待したいところです。

さて、会の名称の「直諫」は『貞観政要』での「直言敢諫」が典拠だそうです。

『貞観政要』は徳川家康はじめ歴史上の名だたる人物が愛読と伝わります。「鎌倉殿の13人」でも坂口健太郎さん演じる北条泰時が「日が暮れる前に」と読んでいました。

ただ、私は「直諫」とはじめ聞いて、中国現代史の文革関連の「とある騒動」を思いだしました。毛沢東が、海瑞の「直言敢諫」精神を宣伝するように秘書の胡喬木に指示した話に尾ひれがついてデカくなり(いわゆる「海瑞罷官」)、凄まじい権力闘争に発展。深い意味は無いですが、ドキッとしました。

蛇足ですが、自民党の派閥の名称は全部中国古典に由来しています。中国の友達に教えてあげたら驚かれて、こちらが驚きました。

私は立民嫌いです

さて、私は、立憲民主党が嫌いす。要するに「あの人たち」「例の人たち」が大嫌いということです。以下の愚見も参考にされたらと思います。

そういう自分だから、SAKISIRUでの紹介がなければ本書を手に取ることなどなかったと思います。在住している田舎に書店が無い(無くなった)こともありますが、それ以上にAmazonの「おすすめ」にも出てこない、いわゆるエコーチェンバーもあるかもしれません。それだけに「何もなかったら出会わなかった本」を読んだことは貴重でした。

志を語る前半部で、塩村あやかさんの語りが強烈な印象

さて、本書の感想。前半第一部では15人がそれぞれの政治への志を述べています。政治を志した理由、問題意識や危機感を語っているのですが、興味深く読みました。正直、自民党や維新の先生方とも変わらないのもあり、良く言えば安心、悪く言えば平凡です。

その中でも私が強烈に印象に残ったのは、塩村あやかさんの自分語りです。

就職氷河期に非正規雇用で社会に出たこと。実家の会社の栄枯盛衰に翻弄された子供時代、上京し進学したが、寮を追いだされた事、奨学金という借金を背負う経緯、当時のアイドルとしてのグラビアでの笑顔の陰の事情が短い紙幅の中で語られています。

そんな私は特殊か。
当時は特殊だったかもしれないが、時代が進んだいま、これは決して特殊ではなく私のような当時の少数派が、多数派になってしまっている。
時代が進んでいるのに、困難な状況を抱える若者は増加している。

20代のころの私は上昇志向の塊で、(後略)
「努力もせずに私を批判する人がいるのは間違っている」「実家のことは努力で払拭できる」。そんな考えだった。しかし、残念ながらこれも誤りだった。

自力救済できる人ばかりではない、ということは恥ずかしながら都議会議員になって気づいたことだ。

しかし、最近気になっているのは、前進できる分野や人に対して「前進できない分野やついていけない人がいるので反対」という判断が一部リベラル陣営に広がっており、大きな影響を与えていることが見過ごせない。

本書には書かれていませんが、グラビア水着の活動についても、立民内の自称フェミニストからあれこれ言われ、否定された件もあったようです。

塩村あやかさん自身の経験だけではなく、そこで考えたこと、そしてその未熟さを反省したり、その変化や変遷を、正直に綴られていて好感持ちました。一般論として政治家の発言や考えも変化するのはよくありますが、これを正直に吐露し、未熟さを思い知り告白して反省を口にする方はほとんどいません。非常に勇気のある「直諫」と思いました。

また、かつて芸能界での活躍をあれこれ、面白おかしく言うのも結構ですが、彼女の語りは、ぜひ読んで欲しいところです。私には不思議にグサグサと突き刺さるものがあり、何度も読み返しました。本書の最大の収穫です。

この彼女の自分語りの内容は、自民党の先生方では見られないものです。官僚や世襲、地方有力者で良くも悪くも「挫折が無い」からです。塩村さんに限らず、こうした挫折を踏まえた自分語りこそ、実は共感を産んだり「刺さる」のでは、と改めて思います。

政策鼎談でツッコミ入れたくなったこと

後半は政策の各分野についいて3人の対談(鼎談)の形で16時間以上にわたる内容です。全部にわたってツッコミ入れたいところですが、いくつか挙げてみたいと思います。

テーマ 環境・エネルギー

落合貴之:自民党、政府は、原発の比重を高めないと、電力が賄えないって言う。しかし、我々はそうじゃない考え方をしているわけです。原発を使わなくても大丈夫だと。
山崎誠:まず一つ、電気が足りないっての言っているのが誤解のもとなんです。本当に足りないのはピーク時の話、ずっと電気が足りないわけではありません。

ここは、前提である「電力不足」の認識が全く異なります。電力は足りていません。私は原発再稼働すべきとの考えで異論が大いにあります。

エネルギー政策と防衛政策が、長らくイデオロギーの政治的党派対立のテーマになっています。しかし本書はそうではない議論かと思いきや、「反原発再エネ推進」のありがち議論で収まっているのは残念です。再エネ推進と原発再稼働の二者択一の議論ばかりなのは違和感あります。

なお、3人が考える望ましい「ベストミックス」像も提示されていません。説明の不足感があり、不満と危うさを感じました。

ただし、経産省の産業政策の失敗等のいくつかの指摘には賛意もありますが、エネルギーに対する部分は、良くも悪くも「立民らしさ」を感じた部分です。

テーマ:医療制度改革

政府の「かかりつけ医」の議論について、冒頭から疑問を呈されており、ここは非常に同感でした。こんな聞きなれない用語が何で乱発されるのか政府はほとんど説明していません。

日本の医療制度も一長一短あり、他国に比べて優位のある面もありますが、実際、コロナ禍では機能不全としか思えない部分もありました。

鼎談は興味深いものでしたが、医療は専門性が高いだけに制度論で、現状の問題点やメリット・デメリット、良い面悪い面をもう少し図式などで整理していただけたら、とは感じました。鼎談で同調されて議論が進むのはいいのですが正直、若干わかりにくい印象は残りました。

医療分野でのポイントは多々あるのですが、予防医療に話がまとめられていくのは「あれ?」とは思いました。例えば以下の問題にどう答えるのか、興味あります。

この医療や社会保障の問題については、自民党の先生方の議論が活発でなく不満があります。直諫の会での今後の議論に期待、注目したいところです。

テーマ:国防

防衛力強化の方向性について基本的に我ら直諫の会は賛成している。

『どうする野党』250P

重徳さんも参加されている国防に関する鼎談の内容は大半賛成ですが、「入口の議論感」があります。また自民党の先生方も前から言っている話で目新しさは特に感じませんでした。むしろ、自民党は待遇改善を何年言い続けてこのザマなのか、ヤルヤル詐欺状態に文句つけたいです。なぜ自民党が言っててもできなかったのか(やらなかったのか)ここが知りたいところです

驚いたのは、国防の鼎談の中で安倍総理の業績への敬意が全く無かったこと。鼎談は「現在」がテーマで限られた紙幅の都合もあるとは思います。

しかし、見過ごせない一節があります。

自民党にはタカ派とハト派がおり、絶妙にバランスを保ちながら立憲主義と専守防衛を堅持し、抑制的に日本の防衛・外交安全保障を保ってきましたが、安倍政権以降タカ派ばかりになり、日本は右傾化し、歯止めが利かなくなっています。

伊藤俊輔 発言 P64

このフレーズが目に入った瞬間にKindleを布団に放り投げました。紙の本なら思いっきり叩きつけたと思います。

最近出版された藤田文武COOの著書等では自民党、特に安倍総理への敬意を表しており、私は好感を持ちました。この点で非常に対称的です。

近年の安全保障を論じるのに安倍総理の業績を全く評価しない政治の論考を見て、衝撃です。

①防衛装備移転三原則②特定機密保護法③集団的自衛権の一部行使容認④平和安全法制⑤共謀罪法案

安倍総理の安全保障に関する業績。

近年の安全保障環境の変化を織り込み、反対論を押し切って制度を整えた安倍総理。現在の立民の皆さんは、これらに対しデモで熱心に反対されていました。何だったのしょうか。

仮に立憲民主党が多数を制した場合は、当然これらの廃止撤回法案を国会に提出し、可決させる予定と私は認識していますが、間違いなのか。過去の賛否は総選挙ごとにリセットなのか。ここは強く問い詰めたいです。

もしそうでないのであれば、総選挙にあたって廃止撤回ではない「賛成」をなぜ明確にしないのか。「当時とは別の党だから違う」と言われても信用されないから、直諫の会の皆さんも苦労があるし、過去の賛否の有効性がどこまで続くのか明確でないことが、問題の根底にあると感じます。

議会改革はウェビナーで質問するも、回答に満足できず

議会改革は、ウェビナーでも議論にあがりました。ただ、質問の核心となる部分は時間の都合もあって、回答が端折られてしまったのが残念です。

以下、ウェビナーの質問から再録です。ウェビナーの回答内容だけでなく、その先の国会法改正へのスタンスは強く問い質したいところです。

野中尚人先生が指摘していたように現状の国会法では内閣が国会に関与できません。カレンダーが無いとかありえないフザケタ現状です。

さらに、これが国会での諸悪の根源にあると竹中治堅先生も先日、日経でも指摘していました。

質問として、竹中先生指摘のように内閣が国会に関与して審議日程に介入する権限を与える案は賛成ですか?仮に維新が同趣旨の法案提出の場合は、「重徳代表」なら賛成しますか?

正直、このレベルの改革案でないと「議会改革に本気」とは受け取れません。鼎談での案は結構ですが、それだけでは単なる評論です

維新の藤田文武COOは、ウェビナーで議会改革について既に強力な内容の意思表示をされており、それと比較で考えるところです。

「新自由主義」が無定義的に批判文脈で語られている

農業の「農業公社化」構想は興味深く聞きました。

維新の先生方が大阪や東京の都市部の選出ということもあり、企業参入に積極的なのは良いとしても中山間地の実情を知らないというのはあるとは思います。

中山地を今後どうしていくのか、どうして自民党が支持地盤にしてきた地域を「ほったらかし」のようになってしまったのか、問題の根は非常に深いものがあるように思います。

ただ、他のテーマでも「新自由主義」という指摘が、本にも多く出てき
ました。鼎談の中でも「新自由主義」が無定義的に批判の文脈で語られていますが、具体的に何を指しているのでしょうか?前提とする認識に相違が大きいと思いました。

編集の問題余りにも:読んでて感じた「我が党」は、どこの党?

編集での問題にも触れておきたいと思います。
本を読んで「あれ?」と思ったのは『我が党』という用語が乱発されていること。私は「あれ?これどこの党のこと?」と戸惑いました。正直、「党」という単語は自民党の事だと思っていました。

それアンタが自民党に毒されてるだけ、との指摘あるかもしれませんが。私のような自民党の支持層にも訴求していこうとするなら、「我が党」の表現は再考されたほうがいいかとは思いました。

もっとも、書籍で「我が党」の表現を見直すのでなく、「我が党」を根本から見直すのが「直諫の会」の趣旨、と言う強い回答や対応を期待したいところではありますが。

おわりに、立民の内部での反響は?

ウェビナーでも、新田編集長から党内の反響について質問もありました。私も読んでみて、立民や立民支持層の反応が気になりました。立民支持層や「直諫の会」の支持の方の書いた感想も、ぜひ読んでみたいところです。

私のこの「立民嫌いが読んだ感想文」だけがネットに出てて、他に立民の支持層の書評、ヨイショ感想文すら無い状態では余りにも寂しい風景です。

私も触発された内容や初めて知ったり、なるほどと言うのも実は結構多い一方で、敢えて批判的に感じた点だけを選んで感想を書いたのは、立民支持者から内容に肯定的な反応やコメントが出るのを期待したいからです。

良い意味での「挑発」「挑戦状」と受け取っていただき、本書で論じられた政策に関してのコメントが噴出して議論が活性化するなら、望ましいことではないでしょうか。何より15人の方々は立民の党内や支持層からのそうした反応を待っているはずです。

以上が「直諫の会」の出版に対する、私の『直諫』です。


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