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八幡和郎『日本の政治「解体新書」』を読む(SAKISIRU関連)

ネットメディア・サキシルのウェビナーが刺激的

先日、ネットメディアのSAKISIRUで読者限定のウェビナーがありました。

そこで私も面白がって質問を作ってみました。新田編集長が取り上げて下さり、ありがたい限りです。内容も楽しめました。(ネタバレになるので内容は控えますが、会員限定なのでかなり「きわどい」のも。)

しかし、後半に八幡氏が自著を紹介したがっていたのに、私の質問で時間取ってしまい、時間切れになり、申し訳ない感じがしました。

そこで、改めて私の方で推しの感想文をつらつら書いてみました。

八幡和郎氏の著作は4つの観点がある

まず、著者である八幡氏の魅力は、本書に限らず4つの観点を同時に駆使して解説している点です。

①経産省(旧通産省)OBとして政治を観る

八幡氏は経産省で課長級を経験し、政治家とのやりとりの経験を踏まえた政治論を展開しています。最近では他にも若くして退職された方(いわゆる脱藩組)もいますが、主に政策に通じていて、非常に参考になる一方で、「政治との関係」の解説として比較すると、八幡氏のようにある程度のポスト経験者のほうが「政治側」の問題点の解説に説得力があると感じます。

また経産省の「役所文化」もしれませんが、八幡氏に限らず経産省OBの議論は多種多様でユニークです。一方で政治部記者の政治論は人間関係の逸話に重点があって政策が軽視され、政治学者の政治は制度論に比重が置かれ過ぎています。政策と政治調整を実務として観る、と言うところと思います。

②フランス(ENA留学経験)の観点

フランスのENA(フランス国立行政学院:現在INSP国立公務学院)で学ばれたことから欧州での実地の感覚を踏まえた解説が非常に貴重です。

ENAもアンチ多く改革の対象にもなりました。古い本ですが八幡氏のデビュー作でフランスの重要な側面が論じられています

フランス官僚制の全て良しとは言いませんが、明治以来の日本の官僚制のモデルでもある点と、また近年は何かと米国との比較が強く論じられるので、フランスの事例を引き合いに考える観点は有用です。政治学者とマスコミが英国議会二大政党モデルを礼賛しすぎたのもありますが、強大な官僚制の共通としてフランスとの比較論が一般にもう少しあって良い気がします。

私としては2019年に亡くなられたシラク大統領とフランス政治に関する評伝を八幡氏に書いて欲しいところです。親日家というだけの先年の訃報報道ではシラク氏とフランスに対する侮辱です。(フランス政治やシラクに関する一般向けの良書がない。)

また、海外にいると分かりますが、日本についての解説を求められることです。海外向けの説明を意識した記述という視点は大切です。

③「歴史の背景」を活かした読み解き

八幡氏は歴史関連の著作を多く出されています。著作でも少し書かれていますが、実は堺屋太一さんの手伝いもされていたようです。堺屋太一さんの著作と共通性がありナルホドと思います。

この関係などもあってか「歴史からひもとく解説」が魅力歴史を楽しむ、で終わらせずに、いわば「歴史を補助線として使って考える」という観点で提示しています。

八幡氏の著作の歴史叙述の妥当性について「通俗」との学者のコメントを見ます。確かに個別内容の妥当性に無理があると感じる点はあり、私も全部が全部賛成ではありませんが、歴史には「史論」もあり、「歴史を使って考える発想」は、歴史学者の歴史論とは根本的に違うからこそ面白いのです。

④大学教授としての解説テク

大学教授の経験。学生向けの平易な語り口や面白ネタ、関西のノリ、そして失礼ながら「老師の毒舌」でサービスされています。(動画になるとさらに盛り上がる)また、大学の地元で選挙関連番組にも司会出演もあり、客観性にも配慮されていると感じます。

この4つの観点を個別に解説する識者は他にも多いのですが、同時に駆使して解説するのが八幡氏の著作の魅力で、特に本書で十分に発揮した政治解説になっています。

本書の概要-著者本人の解説

本書の概要はネットメディア「アゴラ」で八幡氏自身が解説しています。

与野党メッタ切りにした本を書かないかと小学館からいわれて書いた

メッタ切り「解体新書」と銘打たれているだけあって、巷間にあふれる政治解説本とは異なる新しい切り口からの議論が展開されています。松田学さんのチェンネルでも紹介されています。

本書の感想-公明党の解説が最も興味深い

さて、私が読んでみた本書の感想などを書いてみます。特に面白かったのが公明党の解説。ウェビナーでも八幡さんご自身も言いかけたのですが、これはその通りです。ネタバレもいけないのでアゴラのこちらをご参照下さい。

仮に海外で日本政治の報告書を書けと言われたら、自民党と民主党勢力は参考文献も多く、書きようがありますが、公明党に関するものは良い参考文献が無いのが実情です。本書から半分ぐらい借りれば上手く書けそうと思います。類書の薬師寺克行『公明党』中公新書は、新聞記者の筆によるものでオーソドックスで実証的な書きぶりですが、その反面、表層的過ぎ、構造の斬り込みが甘いと思います。

これらは政治学者と政治記者が公明党について言及するの敬遠してきたからという事情と、宗教組織としての強固な支持とそれに関する強いアンチの存在もあり、両極端な評価ばかりで出版業界も含めてタブー視してきたこともあります。この辺の事情はもう少し説明が欲しかったところです。

そうした意味で本書は公明党に関する解説の嚆矢と言えるのではないかと思います。公明党に限らず、政治における宗教を遠慮なく客観的に書いているのは、かなり貴重だと思います。

ただ、公明党に関する本書の記載を公明党の議員や支持者がどう読んだのか、これがあると面白いかもしれません。彼らの「自画像」との差がどういうものでしょうか。

共産党についての叙述に抗議まだ?

ちなみに共産党が本書を読んだら「大きな間違いだっ!不見識だっ!」と怒鳴ってくるのは間違いありません。怒鳴ってこないのは本書の売上がまだ良くないからで、ドンドンPRして彼らの金切り声が聞きたいものです(小学館編集部は勘弁してクレってか)。ちなみに私もこんなの書いたら相当なアクセス数でビビりました(いいねは少ない)。意外にも一般人の評価を気にしてるようです。

章ごとにひとことコメント

第1章 世襲政治家のバカ殿政治と霞が関官僚の無気力で国家の危機

全く同感。「政治家以前」の経験を評価し、活かすシステムが余りに無さすぎます。受験も就活も経験ないのがレジ袋で日本人の意識を問題視する滑稽な風景。八幡氏は官僚でのキャリアが当選回数主義で評価されないとしていますが、私は実業経験者の政界参入が少なすぎることを問題視したいです。

第2章 左派リベラル野党はなぜ日本だけダメなのか

特に日本学術会議についての説明はなるほどです。

第3章 創価学会・公明党だけがなぜ成功したのか

前述。

第4章 旧統一教会の本当の問題は日本で集めた金の使い道だ

これも同感。マスコミが一枚岩で議論を誘導し過ぎていて、多様な論点を集団でブロックして都合よく隠していると分かります。

第5章 大阪から維新の成功と立ちはだかる壁

維新には注文つけたいのが多のでここでは省略。内容は納得。

第6章 安倍政権の通信簿。外交は120点でも内政は75点と思うわけ

75点はまだ甘い。3本の矢の規制改革などの改革が不完全燃焼もいいところで、サキシルでもっと取り上げて欲しい問題です。外交は同感。私も書きました。

第7章「医者天国」が経済も教育改革もダメにしてる。

八幡氏の怒りが筆致からも読み取れます。これも同感。

第8章 ポスト安倍の日本の世界外交と中国・韓国・北朝鮮・台湾との展望

外務省OBが差し障りない「良い子の議論」過ぎて表層的すぎるのと、経済を把握していない。内容の適否より、経済関連の経験でこのような大胆な見方を実務経験から遠慮なく提示されるのは、東アジアの分析や議論にタブーや遠慮が多いだけに貴重です。

ネタバレしないように書きながら、紹介するのもなかなか難しいですが、こんなところです。何はともあれ、政治報道がハードルが高い、政治報道に疑問に感じている方のは本書を手に取っていただけたらと感じます。







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