『安倍晋三回顧録』を読む④長期政権の条件は党内支持・国会運営・参議院
安倍2次政権が長期にわたった背景、政権運営については『安倍晋三回顧録』のメインテーマで良く論じられます。
政権運営のポイントは党内支持・国会運営・参議院
政権運営のポイントとしては野党はもうどうでもよく、むしろ党内支持がポイントで、国会運営なかでも参議院が重要なのはこの回顧録から読み取れました。
党内支持こそ重要
党内の支持・党内とりまとめが重要なことは『回顧録』でも述べられています。「青木率」という指摘がしばしばされます。内閣支持率(%)と与党第一党の政党支持率(%)の和(この和が青木率)が50ポイントを下回ると、政権が倒れる、または政権運営が厳しくなるというものです。
しかし、これは1990年代後半から民主党政権誕生の可能性があった2009年までの話です。
第二次安倍政権以降ではむしろ、「党内支持」に注目し内閣支持率が自民党支持率を下回らないことのほうが重要だと思います。『回顧録』では巻末に支持不支持のグラフを付けていますが、私は内閣と党の支持率の差に注目してきました。安倍2次政権では一貫して内閣支持率>自民党支持率です。
菅内閣岸田内閣では「内閣支持率<自民党支持率」になった月がありますがこうなると党内がザワザワしてきます。党内支持が固められないと政策への反対派を抑え込めません。
党内とりまとめは大変な作業
例えば具体的な政策ではTPPで怒鳴り合いもありました。党内とりまとめが非常にしんどい作業と言うことがよくわかります。迫力あるなぁ。
TPPについては党内を強行突破しています。野党が国会でグジグジ言ってくるのは党内意見集約に比べれば全く大した話でないことは『回顧録』からも読み取れます。(TPP交渉に関しては98ページから述べられています)強行突破するための応援団や高い内閣支持率が重要なのは言うまでもありません。
参議院こそ重要
竹中治堅氏の著作で参議院の重要性が語られています。制度上の二院制の弊害と現実的に「ねじれ」の問題もありますが、この点は『回顧録』で再確認できるところです。
参議院については安倍2次政権では吉田博美参議院議員の協力が非常に大きいと思います。なお、吉田氏は2019年に若くして病没されています。
小泉政権では参院のドン青木幹雄氏の協力を確実に得ている点が大きいものがあります。青木氏に関する政治史の研究がまだ不十分なところです。
中曽根政権の時は、平成期とは若干事情が異なりますが、自民党が安定多数を制しており、「参議院を笑うものは参議院に泣く」と言う言葉を残している竹下氏の支持協力を得ている点は大きいと思います。佐藤栄作総理は「参議院を制する者は政界を制する」の語録もあり、同郷の重宗雄三参議院議員を重視していました。
回顧録での参議院に関する部分も注目されます。
国会日程をまわす「国対」の重要性
『回顧録』から感じるのは法案改正を考えてもスケジュールとエネルギーが余りに取られることのまずさや、国会での拘束への不満です。
日本の国会には「カレンダー」がありません。いつまでに法案や予算が成立するのか内閣には関与する権限すらありません。一般の人が聞くと信じがたい話ですが本当です。(私もはじめ冗談かと思いました。)
G7どこの国でも内閣・行政府が法案予算についての決定スケジュールに関与できますが、日本の内閣は法案予算の日程に全く口出しできません。野中尚人氏の著作で詳細が述べられています。
アゴラで池田信夫氏も同様に指摘しています。
竹中治堅氏も同様に内閣が国会に関与できない点などウェストミンスターモデルになり切れていない日本の議院内閣制の弱点を2013年の時点で指摘していました。
一見すると安倍総理が内閣の権限強化もあって強いように見えますが、必ずしもそうでない面があり、その代表的なのがこの内閣が関与できない国会の日程調整です。
制度上の是非はともかく、現実の政治課題には対応しなければなりませんので、ここをまとめる「調整型」の政治家の出番になります。この「調整役ができる方を味方に引き込む」のが政治家としての重要な力量かもしれません。ここに尽力されているのが森山裕氏で、『回顧録』にも出てきます。
その内実を「魚屋のおっちゃんねる」で語っています。
先日、林外相が国会出席でG20外相会合に参加できない事態になりました。その国会での質問は1分にも満たないものでした。制度や前例拘束も当然問題ですが、調整ができなかったのは失敗です。
安倍2次政権では考えられない大失態です。官邸と国会の連絡が全然できていません。安倍総理が見たら何というでしょうか。
結局誰がどうした等の検証もないまま。しかも、その後に制度改革の提案もされていません。ちっぽけなメンツやどうでもいい先例遵守を毎回毎回繰り返して、国益を確実に蝕んでいきます。
安倍総理の回顧録を読んで、懐かしみ偲ぶだけではなく、「課題が提示された」としての読み方が重要なのだと改めて感じます。
(トップ画像:自民党本部総裁室にて)
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