氷づけの娘に恋する鬼3 (切り絵)
………
『春香、なぜ雪女は愛した"人"を生きたまま氷づけにすると思う?』
『うーん、人は妖魔より長く生きれないから、氷づけで人の時をとめ、自分の側において愛でたいからでしょうか?』
『半分正解かな。…ちなみに私は、氷づけにして愛でるよりは、共に生きたい派だがな!』
ニカッと豪快な笑顔を見せながら言ったセツに対して、少し頬をぷくっと膨らませている春香は
(怒ったら私を氷づけにするくせに)
と聞こえるか聞こえないくらいの小さな、小さな声で言った。
『ん?何か言ったか?』
『いえ!続きをどうぞ。セツ様!』
(でもすぐに術を解きに来てくれますけど)
口元に手をあてクスクス笑う春香を、愛おしそうに見ながらセツは続きを話しだした。
『氷づけにした後が重要なのさ。…大多数の雪女が、愛した人を氷づけにした後、飾りにするのさ。理由は自分が命を落とし消滅したときに、再び蘇る為だ。』
『…飾り?…蘇る為に??』
『氷の首飾りや腕輪、耳飾りなどに変え、肌身離さず身につけるんだ。そして雪女が命を落とし消滅したとき、人に戻れる。消滅した雪女に恋焦がれ会いたいとその人が願ったとき……人の想いで雪女は、再び蘇る…。そしてまた飾りにし……それを繰り返せば永遠の命をも手に入れられるかもしれんな!』
『そんなに上手くいくのでしょうか…?』
『そーなんだよなぁ!千年以上生きた私のばぁちゃんが言い伝えだって教えてくれたんだけどさ。ばぁちゃんが死んだ時、飾りから人に戻った男は…その場をすぐ立ち去ろうとした。会いたくないの?と聞いたら『二度と会いたくありません』ってさ。これからどうするか声かけたけど、『会いたい方がいる』って結局そのまま立ち去ってしまった。』
『それはそうでしょう!その人にも家族がいたでしょうに…ずっとただの飾り…。時代もかわっていたかもしれないし、その後どうやって生きていったのでしょう…。そもそもそのお方はセツ様のお祖母様を愛していらしたのでしょうか…?』
『まぁ、雪女の恋愛は独りよがりで一方的だからなぁ。愛するというか、気に入ったら即氷づけな感じだし。……飾りに変えたあなたを数十年、数百年も長く肌身離さず身につけるほど大切に想っているの、愛しているの…だからあなたも私といれて嬉しいでしょう?愛しているでしょう?私が死んだ時会いたいって願うでしょう?みたいな…。』
『氷づけにされる、そして飾りに変えられる人の気持ちは考えないんですね…。』
そうつぶやき、表情が暗くなった春香を見て
『だから一方的なんだって!それが雪女の愛し方。習性というか…人と一緒にいたくても寿命が違いすぎるから仕方ないさ。そもそも飾りに変えなきゃ、雪女が死んだとき、氷づけのままの人はそのまま氷づけ!…私は他の雪女とは違うからな!安心しろ春香!』
と、慌てた様子でセツが言った。
…一緒にいたくても寿命が違いすぎる……
その言葉に春香は胸がキュッと締めつけられ、さらに表情が暗くなった。
『私は、ばぁちゃん達を見て切なかった!だから、私は愛する人ができたら、飾りで身につけるより、共に生きたいなぁと思った。身体の契りをして妖魔にし愛したい…私と同じ雪女になれば、永遠でなくても長くずっと一緒に生きられる…。』
『セツ様…その蘇らせる方法は"人"でないと成立しないのでしょうか?』
『そうだな。ばぁちゃんが妖魔じゃ上手くいかんと言ってたなぁ。人じゃないとって。妖魔は死んだら大気に還る。人は死んだら肉体は土に還るが、魂は天に還る。だから特殊な存在だから何たらかんたら……と。ちなみに雪女は雪の季節が蘇りやすいらしいぜ。でも蘇れた雪女は見たことないけどなぁ…。』
『私を妖魔にすると、セツ様が亡くなったとき蘇ることが出来なくなりますが…』
『私はそんな事より、春香と一緒にいたい!春香が妖魔になれば長くずっと共に生きられる。笑いあったり、愛し合ったり……それと私は強いからな。春香より先に死んで悲しませることはしないぞ!なのに身体の契りをいつも断りおって…。』
自信満々の強い口調で愛を語るセツに、嬉しそうに春香は笑顔をかえした。
身体の契り……妖魔と人が身体を交じり合うと人はその妖魔の姿になる……人としての人生を終え、妖魔として生きていくことになる……
毎回身体の契りを断り続けているのに…明るいセツ様。
このまま断り続けていると私が確実に先に死んでしまう…私はセツ様を独りにさせてしまうのに、セツ様は私のことを愛し考えて下さる。
……お調子者で怒りっぽく、少しガサツなところもあるけれど、お強く美しく、そして優しく真っ直ぐな心を持っていらっしゃる。あぁ、セツ様、愛しています。私も本当はセツ様と身体の契りをし愛し合いたい…。抱かれたい…だけど……
物思いにふける春香に
『人の命は儚く短い!…だからこそ今から身体の契りをし愛し合おう!』
下心まるだしに、そう言いながらセツが春香の腰に手を回し、口付けをしようともう片方の手で春香の顎をくいっと上げ、ハッと気づいた春香が
『身体の契りをすることはできませぬ。』
と応えた。
『何故なんだ!?いつも…いつも……理由を知りたい。』
『理由は言えませぬ。』
(妖魔を憎む兄様……私が妖魔になってしまったら、兄様の心はきっと壊れてしまう…そして、セツ様にそのことも…妖魔を憎む兄様がいることも知られたくない…。)
怒り気まじりのセツをじっと見つめる春香。
『ゔっ…分かった。分かった。無理強いはしたくない。そのかわり、私以外の奴と身体を交えないと約束してくれ!』
『もちろんです。私が愛していますのはただ一人、セツ様だけです。』
春香はそう言い終えると、セツの少し冷んやりしている唇にそっと口づけをした。
セツから本心を悟られないように冷静に…愛の誓いと約束の口づけのつもりが、セツへの想いに胸がいっぱいで、心の火照りから春香の頬はほんのり紅潮し更に瞳は潤んでいた。
『!…春香、そんな瞳で見つめないでくれ…。誘っているのか?……妖魔の我慢は一回まで!…もう我慢ならんぞ!』
『セツ様!?……あっ…』
セツが意味の分からぬ事を言いながら、春香の背後にまわり着物に手をかけ、春香の柔らかい胸を優しく撫でた。
『もう!無理強いはしないと言ったのに!』
すかさず春香からその手をピシャリと跳ね除けられ、
『は、春香〜!これじゃ蛇の生殺しだぁー!』
と喧嘩が始まってしまった。
………
……氷づけにされている間は意識はなく眠っている状態になる。初めて氷づけにされた日は大喧嘩をした日だった。術が解かれ目覚めたとき最初に思ったのは、どのくらい時間がたったのだろう?まさか数日…?
とにかく急いで家に帰らないとってあせった。
『数日間も氷づけにしてすまなかった…怒っているか…?』
数日間と聞いてひやっとした。
しゅんとして謝っているセツ様の横を駆け足で通りすぎて急いで家に帰りたいと話した。
ちゃんと仲直りしようと言われたけど気が気じゃなく…。
洞窟は険しくて人の足では時間がかかる。いつもセツ様から連れてきてもらっていたから、とにかく家に帰りたい!と懇願した。
『やはり、怒っているのだなぁ〜…。』
セツ様が何か言っていたけど頭に入ってこなかった。
兄様が帰ってくる前に何とか家に帰り着いて……。
それから後日、セツ様に会ったときに仲直りをして、氷づけはしても良いけれど数分の間だけ、
と約束してもらって……。
………
「……と喧嘩が始まり、怒りがおさまらないセツ様から氷づけにされて、でもすぐ術を解きにきてくれて仲直りして…を繰り返してたんですよ。ふふ、あっ!話がそれてしまいましたね。すみません!」
仲が良いのか、悪いのか……私は、いったい何を聞かされていたのだ?はっ!セツの蘇らせる方法だった!とシュラは内心そう思った。
一晩を家屋で過ごし、春香にとっては居心地が悪いだろうとシュラは外に連れ出していた。
天気は回復し晴れていたが、いつ天気が崩れるか…。
雪や風をしのげる別の家屋を二人で探しながら雪道を歩き、シュラは春香からセツの蘇らせる方法と昔話を静かに聞いていた。
「今の話を聞いたかぎりでは、セツを蘇らせる事が出来そうだな。」
「…セツ様は"人"の想いで蘇ることが出来ると……。私で本当に蘇らせる事が出来るのでしょうか…?」
「?…何故そう思うのだ?」
「セツ様と約束していたのに、私は兄様と体の関係を持ってしまった。兄様から身体を穢された次の日、私は家を飛び出しました。セツ様に会いたい一心で…。しかし、あの日のセツ様はいつもと様子が違いました。」
「どう違ったのだ?」
「私を見るなり、洞窟に連れて行かれ…今まで見たことのない恐ろしい形相で身体の契りを求められました。私はあまりの恐ろしさに身体は硬直し、静かに目を閉じました。」
本当はあの時抱いて欲しかった…兄様にされたことを忘れられるくらい身も心も愛して欲しかった…。
でもいつもと違うセツ様に恐怖を感じ"心"は受け入れることが出来なかった。
「しかし、ふと気づくとセツ様は行為をとめていて『最後にもう一度聞く…なぜ拒むのだ?』と尋ねられました…。」
目を閉じている間、私にあんな事をした兄様だけど、優しかった頃の…兄様の笑顔が脳裏に浮かんで……。
私への執着がひどくなってきていた兄様…。
『春香…。兄のところにおいで…。』
『……春香に愛する人が出来たら…いつの日か俺を置いて、そいつのもとに行くんだろうな…。
…春香には想い人がいるのか?』
『!?…いいえ、想い"人"はいません。兄様、明日は仕事で朝が早いでしょう?さぁ、もう寝ましょう。』
『そうだな…。…俺は仕事で数日の間、家をあけるが必ず家にいるんだぞ。』
両親が生きていた頃から兄様は仕事をしに都に行っていた。何の仕事をしているか教えてくれなくて、両親を妖魔に殺されて…兄様と二人で暮らしてきたけれど、幼い頃は独り家に残されて寂しかった。
まだ幼かった私には、都は遠すぎるから連れては行けないって言われて…。
兄様がいない間は、お札を家にはってあるから、
家から出なければ大丈夫だからと独り家にいた。
食べる物に困った事はなかったけど、そんな生活を何年も繰り返し過ごしていて…ある時どうしても寂しくなって…外に出歩いてしまった。
兄様が家にいる時によく連れて行ってもらった森の動物達と遊びたくて…。でも迷子になってしまい…。泣きながらうずくまっていたときにセツ様と出会って……。
それから、兄様が家をあける度にセツ様に会いに行っていた。
私が16の歳になり、兄様は仕事がないときに都に連れて行ってくれるようになった。都まで遠かったけど心躍り、足どりが軽かったのを今でも覚えている。変わらず何の仕事をしているか教えてくれなかったけど、呉服屋に行って着物を買ってくれたり、お団子を一緒に食べたり。
簪屋さんの店主から贈り物として、簪をいただいた時は嬉しかった。
だけど、その後しばらくたってから都に連れて行ってもらえなくなったっけ…。
兄様が家をあける度にセツ様に会いにいくことは、こっそり続けていた。
ずっと上手く隠し通せていたと思っていたのに……。
兄様の執着が強くなってきて…すでに兄様の心は壊れ始めていたのかもしれない。
もし妖魔になった私を見たら兄様はどうなるのだろう?完全に心が壊れてしまったら…?
私が妖魔になってしまったら兄様と一緒に暮らせるわけもなく…。
そんな兄様を置いて自分だけ愛した方と一緒に生きて良いの?
私のたった一人の兄様。
「セツ様に、私には大切な兄様がいること……その兄様の様子がおかしくなってきていたこと…。今更だけどあのとき本当の理由を言えば……。
でもあのときのセツ様に、妖魔を憎む兄様のことをどうやって話せば良いのか分かりませんでした。
……そんな兄様と体を交えてしまったと知られたら、幻滅され嫌われてしまうかも知れない……あのときのセツ様は……兄様を探しだし殺しかねないとも思いました。セツ様にそんな事をさせたくない!と怖くなって…。『人として生涯を終えたいから妖魔になれない』…と本当の理由とは違う拒否の嘘をつきました…。」
『妖魔になり長く共に!!私と一緒に生きたいほど、私を愛しておらぬのか!?……春香は私を…
本当に…人の一生分しか愛せないのか……!?』
『ひ…人として生涯を…終えたいのです…。』
私がそう言い放った直後の、セツ様の目に涙を浮かべ今にも泣き出しそうな、口を震わせ悲しい表情が目に焼きついて…
「セツ様は『そうか…。』と一言つぶやくと、再び恐ろしい形相にもどり、『私のものにならぬなら、生きたまま氷の中で眠るがよい!』と叫び、私を氷づけにしました。」
「あの優しいセツが…。妖魔は愛した人の生気に敏感だ。だから春香の生気がいつもと違うと…嫉妬で自分をおさえられなかったんだ。春香、酷な事を言うが…セツは春香から他の生気を感じとり、春香が自分以外の誰かと交じり合い、約束を破ったと気づいてしまったんだろう。とくに情事の後となると…。。
セツは春香から本当の理由を言って欲しかったのかもな。何か事情があることも勘づいていたのかも知れん。……しかし、セツは本当に心からお前を愛していたんだ。だからこそ…。」
シュラは、俯いてしまっている春香を見て、春香を責める言い方になってしまったなと思ったが、昔から勘の良いセツのことを知っていたからこそ、セツが気づかない訳がない、理由もなく恐ろしいことをするはずがないと思い話した。そして続けて、
「だからこそ……。セツは自分が死ぬ間際も、春香…
お前のことを想っていた。本当にお前のことを愛していたんだ。氷づけのままのお前を心配して……。」
「セツ様…!うっ…ひっく….。」
シュラはボロボロ涙をこぼす春香の頭をポンポンと触りながら
「すまない、泣かせるつもりは…少し言い方がきつかったな。春香は今も心からセツを愛しているもんな。」
と声をかけた。
………春香と恋仲になりたいと想ったが、私の付け入る隙はないな。しかし、今思えばあの強いセツが、坊主相手とはいえ人に負けるだろうか…?致命傷を負うほどの…。油断したとしか。あのときは、致命傷を負ったセツを、たぬきの三兄弟が泣きながら私のところに連れてきて…『セツが坊主にやられた!』と。
セツも血を吐きながら『お前らに助けられるとはな、礼を言う』と言っていて、あのたぬき達がセツを襲ったとは思えず……セツも『坊主にやられた』と言っていたが……命がもたないから、氷づけの娘の話だけ伝えて消滅してしまった。………
まぁ、今考えても仕方がない。数百年前のことだ。そう、だから……
「春香!いつまでも落ち込んでいる場合ではないぞ!セツを蘇らせ本当のことを言って仲直りできるさ!数百年たち、お前の兄はもうこの世にはいないだろう。兄には悪いが…春香を悩ませることは何もない!もう大丈夫だ!」
「そうですね…泣いている場合ではないですね…!
シュラ様ありがとうございます!」
…… ……
『は…春、…香……シュ…ラ。』
…… ……
「シュ…シュラ様、何か声がかすかに聞こえませんでしたか?」
「いや、聞こえなかったが?まぁ、気のせいだろう。春香、"人"の想いと言っていたが、具体的にどうやって蘇らせるのだ?」」
「……それが、具体的には聞いていなくて…。」
「そうか…一緒に具体的な方法を考えながら試すしかないようだな。」
「そうですね…うーん…。」
人の想いで蘇る、としか聞いていなかった春香は、シュラとともに考え込んでしまった……。
『そうだなぁ、私もばあちゃんから具体的には聞いてなかったからなぁ…。』
………。
「「!?」」
「ん?どうした?2人とも?」
「セツ様!?」
「セ、セ、セツ!?お前、どうやって?いつの間に!?」
どこから現れたのか、春香とシュラの間に入り込んで、会話にまじっているセツ。
確かに、今の今まで存在していなかったセツが目の前に現れて、春香もシュラも目が点になり口を開けたままセツに見入っていた。
セツは、状況をつかめていない春香やシュラをじっと見ながら、
「わりぃ、春香!私、坊主に殺されちまったんだ!先に死んで、氷づけのままに放ってしまって、悪かったな。すまん!!シュラ、色々世話になった!ありがとな!」
とニカッと豪快な笑顔を見せながら言った。
……つづく……
最後の方はギャグっぽくなりました📝
1枚の切り絵ですが、その1枚に物語をつめこんでいます🌸
つたない文ですが読んで頂けて嬉しいです!!
ありがとうございます🙇♀️
切り絵は、皆んなのフォトギャラリーに登録してますので、良かったらどうぞ👍
よろしくお願い致します🌸
おまけ
セツのばあちゃんを蘇らせず立ち去った男の紹介と物語り
名前は梅太郎
誰もが振り返るほどの美少年
よく困った顔をして頬がポッと赤くなる。
気づいたら何故か自分にずっとついてきていた一羽のウグイス。妖魔・人型になったスウに一目惚れ。
鳥(ウグイス)の妖魔スウ(男)に恋している。
いつでも自然体なスウが大好き!
スウはボーとした(かなりマイペース)な性格。
鳥の姿で梅の木にとまり、梅の花をボーッと見るのが大好き。
梅太郎を見かけて、ポッと赤くなった頬を見て、
何だか梅の花の色に似ているなぁと思って飛んでついて行く。
梅の花が咲かない時期でも、梅太郎のポッと赤くなった頬を見れば梅の花を思い出せる、と思ってずっと一緒にいる。
梅太郎の困り顔より笑顔や、人型にもどったスウの顔をちかづけて、梅太郎の嬉しそうな顔や頬の紅潮を見るのも大好き。
梅太郎の梅柄の羽織りは、スウからの贈り物。
〜〜ある雪の季節に、スウと一緒に梅の花を見に行って、梅太郎は雪隠(おトイレ)をしたくなる。
「雪隠をしてくるから、ちょっと待っててね!」
「分かった。」
と見事な梅の花に見入っているスウに言って、雪隠をしている姿が見えない、茂みに隠れた場所を探した。
初めて出会ってからだいぶ月日がたったけど、スウさんは僕のこと、どう思っているのかな?
僕はスウさんのこと愛しているけれど…。僕から愛の告白を……。でも…告白してもし断られたら今の関係が終わっちゃうかも!
それだけは嫌だなぁ。
と考え込んで歩いていた梅太郎。
あれ?離れすぎちゃったな…とササっと茂みを見つけ隠れて雪隠を終えた。
また考え込みながらスウのもとに戻っているときに雪女のセツのおばあちゃん(名前はゴウ、当時はまだ若かった)に遭遇してしまい、
「なんと美しい顔をした男の子じゃ。」
と助けを呼ぶ間もなくそのまま氷づけにされた。
「お前は、わしのものじゃ…ふふふ。」
とその場で腕輪に姿を変えられ、連れ去られてしまう。
約千年後、寿命が来てゴウの命が消滅。
ゴウは、千年も一緒にいたのだから、必ずわしを想うはずじゃ!と信じて疑わなかったが、叶わず…大気に還る。
人にもどれた梅太郎は、ここはどこ?とにかくスウさんの元に帰らなきゃ!とその場から離れようとした。
梅太郎の美しさにその場にいた別の雪女達から氷づけにされかけたがセツがそれを制した。
「助けていただいてありがとうございます。僕はこれで…。待たせている方がいますので。」
とその場を立ち去ろうとするが、セツから
「約千年間、腕輪として一緒に、共に過ごしたんだろ?私のばあちゃんと…。ゴウに会いたくないの?会いたいって願えば、ゴウが蘇って再び会えるぜ。」
と聞かれ、
「言っている意味が分かりません。……僕、千年も腕輪になってたの!?名前すら知らなかった方の腕輪に……。もう二度と会いたくありません。」
と困り顔で言い放ち、また歩き出した。
「これから、どうするのさ。とりあえず食べる物、持って行きなよ!」
とセツから声をかけられたが、梅太郎は千年もたっていると聞いて呆然とし、一刻も早くスウさんを探さなきゃ!とその場を後にした。
梅太郎は一瞬で氷づけ、そして腕輪に姿を変えられていたので、梅太郎にとっては理由が全く分からずそしてその間の記憶もなく、数分の出来事と思っていた。
千年もたっているなんて!スウさんは生きているのかな?もしもずっと待っていたらどうしよう…。
妖魔だけど…千年って…。
ここはどこだろう?
スウさんと一緒に見ていた梅の花の木は?と
一生懸命やみくもに探した。
そうするしかなかった。
「スウさん!スウさーん!!僕はここだよ!スゥさ……!」
と大声を出して探し歩き回っていたが、とうとう体力がつき、その場に倒れ込んでしまう。
僕、このまま死ぬのかな?
スウさん、ごめんね………
……スウさんに会いたいな。
涙が雪に染み込む。
あぁ、雪がひんやり冷たい…。
梅太郎はそっとまぶたを閉じた。
雪が静かに降り始める……。
「やっと見つけた。」
後ろから声が聞こえた。
梅太郎がその声の主に気づき力を振り絞って立ちあがるまえに、さっと抱えられ力強く抱きしめられた。
ふかふかの羽毛につつまれて…あったかい…
「梅太郎…、梅太郎!こんなに冷たくなって…!
…俺、ぼうっとしているが、あのときお前がいなくなったことにはすぐ気づいた!梅太郎の生気が消えたから…探ったけど全く分からず…ずっとずっと探していた。見つけるまで千年もかかってしまい、すまなかった。」
「!……スウさんの涙、初めて見た…。僕が謝らなきゃ…ごめんね、スウさん。僕ね、雪女から氷づけにされて、千年も腕輪になってたんだ。その雪女が死んじゃって人にもどれたよ…。」
「そうだったのか。雪女め、許せぬ。だから千年間、梅太郎の生気を感じとれなかったんだな。つい先程、生気に気づきたどり、急いでここまで来た。」
「またこうして会えて嬉しい。」
と笑顔を見せ、梅太郎がスウの頬を優しく触りながら言った。
スウの柔らかな羽と腕の中につつまれて、ポカポカにあたたまってきた梅太郎。
スウは作って持ってきていた秘薬の梅の蜜を口に含み、梅太郎に口づける。
甘酸っぱくて美味しい…
身も心もあたたまり、元気が出てきた梅太郎。
「梅太郎、俺も嬉しい。お前がいない千年間は心に大きな穴があいていた。俺にとってお前は梅の花よりも大切な存在だと気づいた…。梅太郎、愛している。俺と同じ妖魔になり、俺と一緒に生きて欲しい…ずっと、ずっと。」
ずっと待っていた言葉だった。
「僕も愛してる。ずっと、ずっと一緒だよ!」
それから、梅の花が咲く季節になると仲睦まじく、二羽のウグイスが梅の木の枝にとまり、梅の花や蜜をついばむ姿が見られ、時には妖魔の姿で手と手を繋ぎ愛を語り合い、いつまでもいつまでも共に幸せに暮らしましたとさ。
おしまい🐦❤️🐦
ここまで見ていただき感謝です😊
氷づけの娘に恋する鬼のつづきは後日UPします✨