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弟としての北条義時ー『鎌倉殿の13人』最終話感想

義時って、最初から最後まで、ほんと、弟だったな。

『鎌倉殿の13人』最終回を観終えて、思ったことはそれだった。2022年の大河ドラマは信じられないほどの傑作で、全48話最後まで面白かった。というかはっきり言ってしまうと、1話が一番面白くなくて、最終話が一番面白かったと思う。私は。回を追うごとにどんどん面白くなる、近年珍しいスロースターターな物語だったように感じる。私の周りでは「何話か見て挫折してしまった」という声をたまに聴くのだが、本当にもったいないので6話あたりから見始めてほしい……!! 

さて『鎌倉殿の13人』は、鎌倉時代を舞台にした群像劇である。源頼朝が北条政子と結婚したところから物語が始まり、頼朝が平氏を滅ぼし、頼朝も亡くなり、偉大な主君がいなくなった鎌倉幕府では政権を巡ってデスゲームが繰り広げられる。「毎週推しが死ぬ」というのは鎌倉殿のファンが作った物騒なキャッチコピーだが、あながち間違いではない。最終的に、主人公である鎌倉幕府の二代目執権・北条政子の弟である北条義時が亡くなったところで物語の幕は閉じたのだった。

ちなみに『鎌倉殿の13人』の魅力については以下の記事で解説しているので、よければぜひ。これを書いたときはまだ実朝も死んでなかったな……。


~~以下かなりネタバレあり~~

私が今年もっともハマった映像作品である『鎌倉殿の13人』が終わったとき、一番印象的だったのは、「弟」である北条義時の姿だった。

義時の運命は、北条家の「兄」である宗時が亡くなったところからが動き始める。そもそも宗時がいれば、義時は家督を継ぐこともなかった。北条家の頼れる長男として気を張る必要もなかった。ある意味、この話は宗時の「坂東の世を作りたい」という言葉が呪いになっているのだが、義時は存外そのことに無自覚である。たとえば義時がことあるごとに宗時の言葉を思い出し、兄ちゃん僕頑張るからね……と思うようなシーンも可能だったのだろうが、そんな話は差し込まれなかった。ただただ無自覚に義時は兄の言葉を完遂する。

義時の儀礼的な「兄」は、義時に最も強い呪いをかけた人物、頼朝だった。義時は頼朝のカリスマに当てられて時代の表舞台に出ることになる。それは自分の野心からではなく、ただ亡くした兄の代わりを見つけるように、義兄の希望によるものだった。

義時が頼朝という「兄」を亡くして表舞台から降りようとしたとき、引き留めたのは北条家の「姉」だった。政子に「あなただけ降りるなんて許せない」と言われた彼は、表舞台に留まることを決める。

考えてみると、常に義時のメンターは兄か姉なのである。義時は「自分自身は野心がない」とずっとされていたし、「北条家を守るために手を汚した」と説明されていたが、どちらかというと、兄や姉の言うことに反発しながらも従っていたらここまで来てしまった弟、というキャラクターなんだな……と改めて思ったのだった。というか、兄や姉がやらないことをやっていたらいつのまにか自分がトップに立つことになっていた。義時のボス、というか心のメンターが兄→義兄→姉、という順になっているのはなんだか面白い。常に彼は弟なのである。

最終回、意外だなと感じたのが、彼の平六に対する信頼と、政子に対する信頼のふたつだった。幼馴染である平六に、義時は殺されかけているにもかかわらず、自ら平六を殺すことはできない。平六のことをぎりぎりまで信頼している。というか信頼したがっている。そして姉の政子のことも、義時はずっと信頼している。政子の子を殺しても、仕方なかったのだ、許してくれるだろう、と思っている。

なんで義時はこんなに政子には無防備なんだろう、と不思議だったのだ。単純に。

しかしそれは彼が「弟」だからではないか。と考えると合点がいく。結局、平六のことも、どれだけ立場が変わってもちょっと頼れる近しいお兄ちゃんくらいに思っていて、だからこそ自分は許される、愛される存在だと思っているのではないだろうか。そして政子にしても、お姉ちゃんが自分のことを許さないはずがない、と考えていそうだ。

と考えるとなんだかすべての物語の合点がいって、そのあたりの他人に対する緊張感の差が頼朝と義時の最大の差なんだろうな、と思った。頼朝は家族に対しても結局無防備になることはなかったように感じる。対して、義時はなんだかんだ家族には酷いことをしても許されると思ってそうではないか、と……。穿った弟観すぎるかな。笑 でも義時ってやっぱり考えれば考えるほど、やってること大悪人なのに、そこに「向いてなさ」がちらつく、無理している感がある。それは根がピュアというのもあるし、やっぱりお兄ちゃんやお姉ちゃんがいる状況で生きてきた弟っぽさでもあるんじゃないかなーと思ったのだった。

だからこそ政子は「いやいやいや、もうやめろよ」って言いたかっただろうな、と。

どんな家族にも秘密があって、それは外の世界に持ち出さないのがルールなのかもしれない。しかし結婚というのは例外的に家族をシャッフルする装置だ。だからこそ『鎌倉殿の13人』の女たちはルールに自覚的に生きる。政子はきっと秘密を墓まで持っていったんだろう。姉と弟の最期の秘密は、親も、兄も、妹も、夫も知らない、誰にも言えない、救済と憎悪の両面を含んだ物語だったのだ。



いやはや『鎌倉殿の13人』、こんなサバイバル大河ドラマのどこが「ホームドラマ」!? と思いつつ見ていたけれど、やっぱり最後はしっかり「ホームドラマ」でありましたね。三谷幸喜の最高傑作ではないだろうか。面白かった……。何度も言いますが未見の方はぜひ! まずは総集編が年末に、あります!!


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